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星になれたら (短編小説『ミスチルが聴こえる』)
星になれたらいいなって、ばあちゃんは言った。十二歳の僕には、その意味がいまいち理解できなかった。
ばあちゃんはいつも白いベッドの上にいた。僕は学校が無い日に、ばあちゃんに会って学校であったことを話した。ばあちゃんは決まって笑い、「エンジョイしてるんだね」なんて似合わない言葉を言って、僕まで笑った。
中学生になった僕は、休日も部活動に励んでいたから、ばあちゃんの顔を見る機会が減った。それでも時間が合えば、僕はばあちゃんの元へ言って、愚痴った。ばあちゃんは変わらず「エンジョイしているね」と言ってくれた。喜怒哀楽。人生色々あるけど、ばあちゃんはいつも楽しそうだった。
高校生になった春、僕のばあちゃんは呆気なく天国へ行った。もう、エンジョイなんて晴れやかな言葉を耳にすることはできない。そう思うと、涙が溢れた。
大学生になったとき、母が倒れてベッドの上で生活するようになった。僕は忙しい合間を縫って母に顔を出して、やはりどうでもいい話をした。母はばあちゃんと同じように、笑ってくれた。
星になれたらいいな。母もばあちゃんと同じことを言った。そういえば、あの頃はその意味が理解できなかったけど、このときはわかっていた。それはある意味で比喩表現だ。天国に行きたいな、なんて言いたくないけど、死ぬなら光がある世界がいい。
二年後。母は亡くなった。僕の人生は、素敵な人間がいなくなる。そういう運命だと言われたらそれまでだけど、若い時期に悲しみを味わい続けるのは、結構しんどい。
四年後。僕は広島で仕事をしていた。あるとき電話が鳴って、父が死んだと言われた。
葬儀を終えて、僕はひとりぼっちで夜空を見上げた。昔、坂本九が『上を向いて歩こう』なんて歌っていたけど、僕にぴったりな曲だった。涙がこぼれないように、僕は上を見続けた。
僕の心と反対に、空は澄んでいて、たくさんの星が見える。昔の人はそれらをつなげて、星座を作ったという。僕にはそんな発想力はないけど、散りばめられた星々を何かに例えることならできる。
あれはばあちゃん。あれは母。あれは父。
いつか、僕も星になれたらいいな。星になれたら、また一緒に過ごせるだろうから。
エンジョイしないといけないな。僕は心に決めて、頑張って生きることを誓った。
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