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かき鳴らす六弦『Night Walker』



 私の歌が誰かを変える。はず。
 
 一人のサラリーマンが立ち止まってくれた。私は一礼して、「こころ」と呟いて弦を押さえる。

『どうせなら誰かを救いたいって願っちゃう私のこころは幼稚かな
 それでも夢を描きたいって考えちゃう私のこころを許してよ』

 どこかで「戦争反対」を訴える人間がいる。そして僕は「誰かを救いたい」と利他的なことを歌う女性を目の前にしている。みんな誰かを見ていて、自分を見ている。誰かに訴えたくて、自分を出している。それぞれ若干価値観が違くて、面白い。

『何もない大空に打ち上げたいんだ 私の理想を』

 この街を歩く人間は、どんな理想を持っているだろう。戦争反対、平和。もちろん、家族愛だってある。もっとシンプルに、たくさん食べるとかアイドルのライブを見るとか、そんなものだってある。

 なら僕は、どんな理想を打ち上げられるだろうか。ロケットに火をつけるとき、僕はそこに何を乗せるだろうか。

『いつまでも磨き続けるよ あなたのこころを』

 そういえば昨日、純粋さを捨てた政治家が汚職で逮捕されていた。今日は猫を殺した男が車で事故を起こして逮捕されていた。清々しく生きる少年は、明日もランドセルを背負って学校へ行く。

 僕のこころは、どれだけ汚れているだろうか。

「ありがとうございました」

 ギターを持った女性は一礼して、かき鳴らした六弦を調整する。僕は財布から千円取り出して、その女性に手渡した。

「こころ、僕も磨こうって思いました」
 
 彼女はこれからも、人を幸せにするためにギターをかき鳴らし続けるだろう。なら僕は、彼女が歌い続けることができる社会を作るだけだ。


 一人、私の歌に励まされた人がいた。私はギターをしまって、夜空を見上げる。この世界は激しく損傷していると思う。しかし、まだまだ治せる可能性を秘めている。
「今日はRainでカレーでも食べようかな」
 私は明日も歌う。明後日も、その次も。歌うために生きるこころを持っているから。

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