右左 一奥(エイリアン迷宮作者アカウント)

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右左 一奥(エイリアン迷宮作者アカウント)

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最近の記事

0017 心ありて身、身ありて心

【8日目】 〈あー、あー、こちらオーマ。感度は良好か? 聞こえるか? 我、汝の主たるオーマなり、我素揚げの辛口の鶏肉を所望する――おほん。聞こえたら心の中で俺に向かって言葉を届けるように念じろ、お前の"心話"が、俺とお前の目に見えない繋がりを通して直接、俺にまで届くように祈念してみろ〉  俺はそのように淀みなく「心話」を発した。  口を動かさず、声帯も震わさない。そうする必要のない技能だからである。  しかし"思考"を垂れ流すこととも違い、頭の中でラジオかマイクのスイッチ

    • 0016 我が名は、世界の理を超越せんとする

       前に『竜神さま』が御姿を現したのは、十数年も前のこと。  ル・ベリの母リーデロットが『最果ての島』に流れ着いた直前の、嵐の数日間であったらしい。母リーデロットは、その"嵐"の中で『竜神さま』と遭遇したに違いなかっただろう。  曰く、その正体は9の首を備えた多頭の竜。  森の巨樹に見紛うかという長い首を、群れなす大蛇の如くうねり、ひねらせ、海流を逆巻いて現れる者。  母リーデロットが忍び込んだ――"流刑船"は木っ端の如く打ち砕かれ、それでも彼女は諦めることなく、死んだ他の囚

      • 0015 海からの呼び声

         なるべく体力を温存したかったため、魔素と命素の濃度が高い鍾乳洞を抜けるまでは、俺は常に『保有魔素』『保有命素』に意識を向けた。  アルファ以下の走狗蟲5体にも、負担にならない程度で技能【命素操作】により、その生命エネルギーを充填。  そしてその分俺の『保有命素』が減った際には、俺自身に【命素操作】によって命素を充填――ただし今度は強引にやりすぎて疲労の前借りにならないように、あくまでも自然な速度でそうすることを意識した。  鍾乳洞の悪路や急な崖などの難所は、前回と比べて

        • 0014 反骨者は憎悪に嗤う[視点:半魔]

          【4日目】  ル・ベリにとっては非常に意外なことだったが、すわ『竜神の生贄』にされるか、とまで思われた拘束は数夜で解かれた。  それでも両腕は縄で縛られたままだが、その縛り方もキツいものではなく、いくらか余裕が持たされていた。監視として戦士階級の小醜鬼が1匹ついていたが、それを差し引いても「災厄を運びこんだ者」への待遇としては破格だと思えた。  無論、許されたわけではない。  しかし、ただならぬ出来事があって、どうしてもル・ベリの知識と技術が必要になったので呼び出された―

          0013 第2次遠征準備

           幸い、起きたら日が沈んでいた、というわけではなかった。  もぞもぞと顔面を何かが這うような、押さえつけるような感触で俺は眼を覚ました。  なんだと思ってそれを掴み、引き離すと、幼蟲が俺の周囲にまとわりついているのだった。 「……1時間ほどか」  休み無く産む機械と化した揺卵嚢がさらに追加で5体の幼蟲を生み出していた。走狗蟲連中は、アルファが俺の少し離れた位置で伏せている以外は見当たらず、ベータがガンマを連れて洞窟内をうろついているのだろうと思われた。  労役蟲へ進化中の

          0012 現象の設計図

          生き残る種とは、最も強いものではない。 最も知的なものでもない。 それは、変化に最もよく適応したものである。 ―― ダーウィン  たとえば、風車がくるくると回る様子をじっと眺めていること。  たとえば、鯉のぼりがたなびく様と、雲が変転して千々に分かれていく様を追いかけること。  あるいは、蟻が大型の甲虫を徐々に解体していき、やがて何も無くなっていくこと。  あるいは、そんな蟻自身が蜘蛛の巣に引っかかり、やがてぐるぐると糸で巻かれた白い塊と化すこと。  そういう有様を、た

          0011 原初のスープ

           俺の元の世界にだって、体液やら粘液やらをばらまく生物はいた。  また、ある国では当然のように食されている家畜が、別の国では尊ばれ、それを食べることはなんて野蛮なのだ、とある国に言うような文化的な摩擦だってあった。  だから、当初俺の眷属達に感じた怖気や生理的嫌悪も、所詮はそういう程度のものに過ぎなかったろう。走狗蟲のアルファとベータの「十字顎」にしても、言ってしまえば"慣れ"の問題だった。  鍾乳洞の悪路を踏破し、樹冠回廊という広大な天然のアスレチックゾーンを協力して突

          0010 可能性の羅針盤

          【4日目】  完全に暗くなる前の森を後にし、俺は走狗蟲のアルファ、ベータと共に鍾乳洞窟への帰路を急いだ。  日が傾いていたことで、森の鬱蒼とした暗鬱さは極まっていたが、小醜鬼達が遺した「光粉入りの袋」をアルファ、ベータの首にぶら下げて光源とし、樹冠回廊を突破。  道中、疲労の気配を見せていたアルファ、ベータに試しに技能【命素操作】によって【闇世】の大気中を漂う命素を注ぎ込んでみた。すると2体はにわかに元気を回復させたのだった。  それを見て、同じように疲労が一気に来てい

          0009 反骨者は母を想う[視点:半魔]

           かつて母様は、こう言った。 『あなたは私の最高の宝物。私が私として生きて、抗った証そのもの』  ならばどうして、あの醜悪な生物どもに嬲られることには抗わなかったのですか。  ル・ベリという名前の彼はその言葉を飲み込んだ。  生涯でただ一度だけ「リーデロット」という名を明かしてくれた、母リーデロットが決して屈さぬ眼差しで自分を見つめ続けていたからだった。  またある時、母様はこう言った。 『あなたは私のたった一つの成功。あなたが生き延びてくれれば、私がしてきたこと全

          0009 反骨者は母を想う[視点:半魔]

          0008 孤島の探索(3)

           薄暗い異界の森に猿叫が鳴り響く。  息を潜めて推移を見守る俺と走狗蟲2体の眼前、赤き泉の対岸で繰り広げられたのは壮絶な死闘だった。  風切り音が続けて数度。  さらに複数の細長い棒――投げ槍の類が亥象を襲う。  振り回された長鼻と長大な4本牙に阻まれ、投げ槍の半分は叩き落とされたが、もう半分はボアファントの肩と前足に突き刺さった。  薄暗がりの中、ボアファントの姿がぼうっと青白く照らされて露わになっていた。突き刺さった投げ槍に、何か袋のようなものが括り付けられており、そ

          0007 孤島の探索(2)

           踏み込んだ「樹冠の層」は、俺の想像を越えた"緑の回廊"を形成していた。  1本1本の「枝」が上下縦横に曲がりくねっており、しかもとても長い。その理由は明らかだった。  他の枝と絡み合う過程で細胞レベルで癒合してしまったからだろう、と俺は考えた。  アサガオは節操なく付近の物体に蔓を伸ばすため、育てる時には支えとなる棒を差すものであるが、もしそれが無かった場合、アサガオ同士だけだった場合はどうなるか。  後から芽吹いたアサガオは、先達の蔓に己の蔓を絡み合わせて、強靭さを補お

          0006 孤島の探索(1)

           青なる魔素と白なる命素に満たされた藍色の辺獄、とも言うべき鍾乳洞窟での体験のすべてが"夢"であるかもしれなかった。全部が、痛みすら感じるレベルのただの壮大な明晰夢であって、そう考えれば技能だとか、蟲?とされていたものだとかだって、夢なのだから、その中での突拍子もない場面や情景・状態の変化だと言えなくもなかった。  だが、こんな思考は、俺自身の単なる「まだ認めたくない部分」が抵抗しているだけだということは、頭ではわかっていた。それが夢想癖によってたびたび発生しているだけだと

          0005 労苦せよ、走破せよ

          You play with the cards you’re dealt …whatever that means. (配られたカードで勝負するしかないのさ…..それがどういう意味であれ。) ―― スヌーピー  気を取り直す、という選択肢しか俺には無かった。  むしろ、それならそれで「蟲?」などと中途半端にぼかされていたことと比べれば、これはこれで随分とらしいではないか。  これは【強靭なる精神】と【欲望の解放】の2つの技能の合せ技、といったところか。  ――そうではな

          0004 最適化される世界認識

          ――できることを探すんだよ――  俺は、昨日の幻聴を思い出した。 「迷宮領主にできること、か。なぁ、虫っころ、なんだと思う?」  そしてそれをそのまま、答えるはずがない、とわかっていたはずの幼蟲に問いかけた。だが、驚いたことにラルヴァは俺の言葉を理解したかのように、卵の残骸を食むのを止め、じっと俺の顔を見つめてきたのだった。 「おう、ありがとうな。思ったより良いやつだな、お前」  生後10分強の巨大芋虫に気付かされたような思いだった。  "できること"とは、すなわち

          0003 超常を完遂することの意味

           黄色い薄膜に包まれ、胎動するように脈打つ、手のひら大の"卵"。  いや、どちらかというと、胎児を孕む子宮がまるごとずるりどちゃりと地面からぬめり生えてきたかのような、そんなちょっとだけの生理的な気味悪さを湛えた光景。  俺は【幼蟲の創生】について、RPGゲームなんかでいう「召喚魔法」のように無意識に思い込んでいた自分に気づいた。つまり、直に「完成形の」モンスターが忽然とその場に姿を表すように生み出される、というイメージでいた。  だが、目の前には、孵化する気配なんぞ一切

          0002 人間の条件

          【2日目】  右手を開く。  五指を広げて、地面に向け、俺は意識を強く強く集中させた。  そしてイメージを練った。  頭の中で、言葉で概念を汲み出し、そこに五大感覚を組み込んでいくように、練り込む。  第六感をも想像して、あるいは夢想して――空気の中から、望むものが染み出してくるかのような有様を幻視する。  この意思が、この現の有り様を、自在に塗り替え超克することができるように。  そう在れと、我が望むが如くに世界よ変われ、と念ずるかのように。  すると、鍾乳洞を包む