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佐渡汽船のこと

佐渡汽船という佐渡ヶ島への航路を独占している会社が上場していて、先日の佐渡ヶ島の世界遺産への登録ネタからの突然の上場廃止発表が一部で話題になっておりました。代表的なところでは以下のようなところかと思いますが、スキームがアクロバティックな感じに見えるのか、面白おかしくというかセンセーショナルな感じの扱いになっています。

これらを見た私としては、えっ佐渡汽船ってそんなに状況まずかったの?とか、そんな面白いスキームなの?と思って興味を持ちまして、べっ別に交通ネタばかりやってるわけじゃないんだからね!とか思いながら、スキームそのものもそうですが、ここに至る経緯も知る必要があるなと思ってちょっと遡って眺めることにしました。

眺めてみると、コロナ以前からもう10年も20年もジリ貧というか減少傾向が続いていたり、そのような中で起死回生の打開策を打ってみたもののあまり効果がなかったりという状況が垣間見えまして、これはこの辺も踏まえた上で今回の救済スキームを議論している人は非常に少ないなと思いまして、レポートの体裁でまとめてみることにいたしました。
 # またBOOTHで販売することも考えたけど売るんだったらもっと時間かけて丁寧にやるし、そもそも海運はほとんど調べたことがなくて、内容も不十分かもと思いましてこちらでダウンロードできるようにしておきます

レポート見るのもかったるいという方もいらっしゃると思いますので、かいつまんで状況をまとめますと

  •  事業の柱は海運(売上の7割)、他は関連する運送、小売・飲食・観光、不動産

  • 海運の過半が旅客需要、あと自動車(観光と貨物)と貨物

  • コロナ前まで連結で110-120億円程度の売上高、損益はトントン

  • バランスシートは資産は船舶と土地建物がほとんど、これを長期有利子負債でファイナンスしている格好、自己資本薄い

  • 2015年に50億を超える大型の設備投資(かっこいい高速船)というリスクを取ったが効果が出ていない

というのがコロナ前の状況で、ここにコロナで

  • 2020年は客数が半減して売上は3割減、77億の売上に27億の営業損失の大赤字で債務超過転落

  • エクイティ、デット、補助金、資産売却(そのかっこいい高速船)で資金調達

  • 21年も客足は戻らず、資金繰りもギリギリだし、債務超過解消の目処が立つどころかさらに拡大

という状況に陥っています。そこでずいぶんとスポンサーを探したようですが、ようやく見つかったのがみちのりホールディングスだったという格好です。みちのりホールディングスについては各自検索していただければ良いと思いますが、ここで真っ先に出てくる候補のひとつだろうなという感じではありますね。
その上で、事業再生を進めるために100%減資と増資という格好で上場廃止しつつ既存株主を排除するのが一般的にはわかりやすいところかと思いますが、今回のスキームは、新潟県・佐渡市・第四北越銀行・佐渡農協を株主として残しながらそれ以外の株主を一旦外に出す、かつ、それでもまだ保有したいという株主向けに戻ってくる選択肢を与える、というスキームになっており、200円前後の株価が付いているところに1株20円での増資で騒がれましたけれど、これ社会インフラ系の会社じゃなかったらこうしたスキーム組むとかじゃなくて、突然(でもないけど)事業再生ADRとかひどい場合には会社更生とか民事再生とかに行くこともあるわけで、そう考えると既存株主への新株予約権の割当も含めて手遅れになる前に手を打ち、かつ既存株主へも配慮している有情スキームのように思われます。
1株20円の計算根拠は佐渡汽船のリリースにも出てますけども、業績予想もバリュエーションもそんなに変なことやってる風にも見えず、そもそもコロナという特殊な事情で債務超過になっているものの、それさえ凌げればまあ何らかの事業価値、企業価値はあるよねというような感じに見えました。

今回のスキームに納得行ってない人も是非よくよく噛み砕いて理解すると良いかと思います、結構ややこしいし専門知識要るだろうから大変かもとも思いますけれど。

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それはそれとして、今回眺めていて面白かったのは上述のかっこいい船で、そのかっこいい船はあかねと言いますが、

この船はそもそも経営判断としてそこまで投資のリスク取っていいんですか的な雰囲気があったり、建造するにあたり上越市と佐渡市から補助金が出ているとかJRTTの船舶共有建造制度を用いているとか、2015年に就航したけど揺れやばくて不人気とか、微妙に持て余していたところにコロナで客が減ったしお金もなくなったので30億で売却しちゃったりとか、売るんだったら補助金返せと言われて上越市と佐渡市に返金したとか、JRTTの船舶共有建造制度だと耐用年数(この船だと9年かな)の間は共有して償却終了したらJRTTの持分を運航業者が買い取る仕組みになっているけど、5年で売っちゃったらそのへんの扱いどうなるんだろうとか、大変興味深いものがありました。

ということで、そもそも新潟市に行ったことがないので行ってみたいのですが(鉄道遺構もそうだし新潟鐵工所の件もあるしブラタモリ的な地形への興味もあるしで)、その際はついでに佐渡ヶ島に行くのもありだなあと思いつつ、皆様も佐渡ヶ島へ旅行して佐渡汽船を救ってみてはいかがでしょうかというあたりで終わりにしたいと思います。

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