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北海道地下資源開発という特殊会社の話

元々半官半民の特殊会社だったJSR(民営化・上場までの経緯はここを見ましょう)が産業革新投資機構(JIC)によって非上場化するという話(JICリリースJSR適時開示1JSR適時開示2)と、北海道蘭越町での地熱発電のための掘削調査中の蒸気噴出と高濃度の砒素が検出されたという話(日経記事蘭越町リリース)とは、一見というか実際、全く関係がないわけですけど、私としてはここで「半官半民の特殊会社」で「北海道の鉱物資源開発」をやっていた「北海道地下資源開発」という会社の話でも記しておこうかと思います。
 # 上記にリンクしたWikipediaの特殊会社のページもそれなりに充実していて頑張ってるなあという感じではあるんですが、北海道地下資源開発はそこに記載のない会社ではあります。

北海道地下資源開発は昭和33年の北海道地下資源開発株式会社法により設立された特殊会社で、北海道開発庁の下で民間では投資しきれない地下資源の探索と開発を行う会社、という位置付けですね。もっと大きな絵でいうと、昭和27年からの北海道総合開発計画第1次5ヶ年計画では地下資源の開発は入らなかったものの、昭和32年からの第2次5ヶ年計画では地下資源開発が謳われていて、その一環として設立された会社、という理解になります。当時の北海道における資源調査に対する期待感については、時の法令 昭和33年4月13日(276) 桑原 幸信(←道開発庁から北海道地下資源開発設立後に総務部長)「豊富な未開発資源を有する北海道の探鉱事業を特殊会社で」や北海評論 14(1) 斎藤仁「特集 北海道総合開発の問題点と対策 北海道地下資源開発当面の問題--早急を要する徹底的なる調査研究」あたりを一読いただくと雰囲気つかめると思います。

設立当初の雰囲気などは桑原 幸信「北海道地下資源開発株式会社運営の実際と今後の見透し」(鉱山 12(7)(120))あたりが良いと思いますが、1) 民間の鉱業各社から受託で試錐(ボーリング)する事業と、共同鉱業権を有して自社案件で試錐する事業とがある、2) KPIは試錐事業量(メートル)、メートルあたり単価、3) 営業エリアは北海道なので冬期は稼働率がガタ落ちする、4) 設立初年度は政府2億民間1億(民間の出資者は不明)の資本構成から始まって、翌年に6億円(政府5億民間1億)に増資、最終的に10億円(政府9億民間1億)、でいうほど半官半民じゃなくてほぼ公社、5) 人員は当初は通産省と民間試錐会社からの技術支援を受けているものの設立2年目からプロパーで新卒採用している、というあたりが特色ですかね。 初代社長は北海道炭礦汽船の役員だった万仲余所治氏、あと役員でCTOに相当しそうなのは三輪忠利氏でしょうかね、名前検索すると商工省→通産省で鉱山行政やってた方のようです。その社長の万仲氏が実業の世界 56(8)に万仲 余所治「地下資源はこれから」という記事を寄稿していて、この記事もこの会社の立ち位置がよく書かれています。

初期のプロジェクトで非常に興味深いのが白糠の石炭調査で、白糠線が開通していない時期(工事開始が昭和33年、白糠~上茶路開通が昭和39年、上茶路~北進開通が昭和47年)に池北線足寄までの未成線区域についても開通するものとして事業を進めていたりします。

で、その後の事業の推移については、北海道開発庁の「北海道総合開発の概要」に毎年まとめられています(記載のある最終年の昭和42年度版を見れば十分です)。各地の試錐の詳細な内容については、同じく北海道開発庁から「北海道総合開発計画調査地下資源開発計画調査資料 鉱床調査(試錐調査)報告」(年刊)、「特定鉱床開発促進調査報告」(年刊)、「北海道地下資源調査資料」(月刊)などを見てお好みのレベルまで補完してください。

しかしそうするとあまり実績が出てないことに気付くことになると思いますが、会社としては資金力が弱く十分な展開ができていないことは初期から指摘されつつ、赤字のため批判に晒され、コストを削減しつつ北海道以外にも展開する法改正(昭和37年)を行って収益改善を図るなどしており、一旦黒字は計上するものの、しかし炭鉱の試錐が多いために国のエネルギー政策の転換によって結果が出ないままに整理・解散することになり、ほんの10年程度、昭和43年7月1日で会社を解散、法を廃止する結果となりました。
一連の推移については時の法令 昭和43年8月13日(650) 福田 敏南「北海道地下資源開発の会社解散」にまとめられていますが、やはり高リスクな事業を営利ベースでやるのは無理でしょという結論ですかね、それにしてもJSR(昭和32年に設立、昭和44年に民営化、昭和45年に上場)とは非常に対照的だなという感じがいたします。

財務的には下記にまとめておきますが(会計基準が現在のものと異なるのでわかりやすいように加工してあります)、とにかく売上が足りてないの一言に尽きるというか、特殊会社で国の名前で民間の事業を代替するという立て付けである以上、各種の採掘機材を取り揃える必要がありつつも、十分に稼働させられてない様子がうかがえます。まあ、時代の徒花みたいな言い方もできるかと思いつつ、つまるところ産業行政の問題ではあったのかなという気がいたします。

出所:北海道総合開発の概要、決算公告から筆者作成


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