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ハラミちゃんとyasuと音楽の力

シャングリラ よみがえれ 光と命のユートピア

この歌い出しで始まるのはAcid Black Cherryの「シャングリラ」である。2011年の東日本大震災への復興応援ソングだと言われている。私がこの歌を始めて知ったのは高校2年生の時に女友達がカラオケで歌っていたのを見た時だ。歌について後ほど書くことにする。

ある日、仕事帰りの電車で、他の乗客と同じように死んだ顔で、YouTubeを観ていたときのこと。なんとなく、久しぶりにシャングリラを検索してみた。するとハラミちゃんの動画がヒットした。

ハラミちゃんはピアノを弾く人という認識はあったがちゃんとあまり知らなかった。YouTubeの広告で「それでは弾きま~す」と言ってよく登場するので少し観てみるかと思った。

彼女は耳コピ(耳で聞いた音をそのままピアノで再現する)で数々の楽曲を弾いているそう。ピアノが上手い人はそんなことができるらしい。私はと言えば言われた電話番号すらも覚えられないというのに。

動画では一般の人が「シャングリラ」をリクエストする。ハラミちゃんはその人のスマホで曲を聴きながら、ピアノで音を合わせていく。少し聞いただけなのに、ハラミちゃんはサビの部分のすぐに覚えてしまって、即興で演奏を開始する。

穏やかそうな見た目のハラミちゃんが出だしで「ジャーン」と弾いた後に、「シャングリラ~」から、激しく演奏を始める姿には思わず見入ってしまった。譜面も何も見ていない。時にはオーディエンスの方も見ながら、楽しそうに演奏をする。素人から見れば、まるでこっくりさんのように、手が勝手に動いているように見える。

ハラミちゃんのことは知っていたが、ちゃんと演奏を見たことはなかった。ハラミちゃんがあれだけニコニコして楽しそうに引けば、周りもそりゃ楽しく感じるに決まっている。もちろん、ピアノの腕も演奏も一級品だ。これがハラミちゃんの魅力なのだ。

電車の中ではあったが1人で激しく感動した。もともとのメロディーラインの美しさに加えて、ハラミちゃんの技術が圧倒的だった。こんなパフォーマンスを生で観られたら、嬉しいだろうなぁと思った。リクエストした人も感動した様子だった。おそらく被災地の方であるのでこみ上げるものがあったのだろう。


リクエストした人の話や字幕で出る歌詞にもあるが、この曲のサビには3つの被災地の名前がさりげなく入っている。

シャングリラ 輝いて 奇跡の風が吹く島へ

「吹く島へ」に「福島」が入っている。

シャングリラ いらないよ ひと時の憐れみや偽善

「憐れみや偽善」に「宮城」が入っている。

シャングリラ 目を閉じて 願いは空に愛は手に

「愛は手に」に「岩手」が入っている。


Acid Black Cherryのボーカルyasuはこのようにさりげなく粋な計らいをしているが、応援ソングとは得てして難しいモノだ。露骨に「頑張ろう」と言っても響かないし、ストレート過ぎるワードチョイスも偽善のようにとられてしまう時がある。シャングリラはその辺りの言葉選びが非常にうまい。

「シャングリラ」というキャッチーな言葉は、英国の作家ジェイムズ・ヒルトンの小説『失われた地平線』の中の理想郷の架空の名称「Shangri-la」に由来するらしい。シャングリラやユートピアという希望に満ちた言葉も

本曲は、例えば、レゲエ音楽のCHEHONの「みどり」などと似ている。「みどり」という曲は女性をテーマにした歌のようにみせて、実は大麻をテーマにした歌だという話がある。隠喩というか、言葉の巧みな遊びには惹かれる。それはしかし、古来より自然なことであったと思う。百人一首には和歌には多くの「掛詞」が見られるように、巧みな言葉遊びは最近に始まったことではない。

yasuは被災した地域をシャングリラやユートピアと見立てて、それらを取り戻そう、協力しようというメッセージを被災地の名前をさりげなくはめ込むことで達成したのである。以下の、曲の最後の歌詞を聴くと「協力しよう」というメッセージが強く感じられる。そして、協力し合う美しさこそがそこをシャングリラ(復興した元の姿)に変えてしまうというストーリーでもって曲を締めくくるのである。

空高く舞え シャングリラ 今こそ一つになる時
風にのって シャングリラ 僕たちはそう一人じゃない
君と手を取り合えば 今、ここがシャングリラになる

今回はそんな非常に完成された曲をハラミちゃんが生演奏するという迫力のある動画の話であった。耳コピもすごいし、ピアノもすごい。曲もすごいし、歌詞もすごい。「音楽の力」というモノを改めて感じた気がする。東北地方や被災した地域が再びシャングリラになることを願ってやまない。

シャングリラを取り戻せ




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