見出し画像

アカデミックに生きなさい

私には尊敬するO先生という方がいる。その方は今、大阪府内の某大学の準教授をされている。専門は教育社会学だ。

先生との出会いは今の私を形成する重要な要素である。


O先生と出会ったのは高校性の時だ。O先生は当時、私の高校の英語科の教員として勤務されていた。

O先生は授業があまり上手くなく、生徒の統率力もないので、先生の英語の授業は寝ている人か授業に文句をつける生徒ばかりだった。確かに、私も授業は上手くないと思っていたが、受験に英語が必要だったので、一生懸命に聞いた。

そして高校3年の春、総合学習レポート作成という時間があった。内容は新書を一冊読んで、その内容をレポートにまとめるというものだった。大学生になればこういった作業は日常茶飯事であるが、受動的な学習しかしない高校生には少し難易度の高いことだ。

そのレポート作成授業の主事がO先生だった。もちろん、統率は取れないので、皆適当に書き上げてインターネットを閲覧したり、私語をしたり、受験のための勉強をしたりしていた。

ただ、私はそれがけっこうおもしろかったので真面目に取り組んだ。皆のテーマは様々で「反ユダヤ主義」「在日韓国人」「アルツハイマー病」「領土問題」「メディア」「地球温暖化」「ストーカー」「ips細胞」などがあった。

私は原田曜平氏の『近頃の若者はなぜダメなのか~携帯世代と「新村社会」~』を読み、「若者はなぜダメなのかを。」を問い直すというレポートを作成した。

簡単に言えば、以前は日本に「村社会」というものがあったが、ケータイの登場によりそれが「新村社会」へと変わった。そこでは「空気を読む」ということが求められる。バーチャル化した村社会の中で息苦しさを覚える若者は個性を表出し難いという内容だ。

O先生は僕のレポートを丁寧に指導してくださった。部活の野球の練習をしている最中にグラウンドまでフィードバックに来てくれたこともあった。レポートのテーマが社会学であるが、先生は大学で社会学の勉強をされていたそうなので、詳しく社会学についても教えてくださった。

そしてO先生は「社会学について学ぶなら関西の〇✕大学がいいよ。」と教えてくれた。その大学はO先生の出身大学であり、まさに私の卒業した大学でもある。私は先生の影響で志望大学を決めたのだ。


高校を卒業して、浪人して、O先生と同じ大学に合格した時はすぐに連絡した。その時、先生はすでに今勤務されている大学の専任講師になっていた。

先生は高校教員を務める傍ら、大学院修了や研究を続け、晴れて大学教員になられたのだ。また、先生の専門は教育社会学なので教員としての生活はフィールドワークとしての側面も大きかったと思う。

大学生になってからは、先生は私が社会学に興味があるということや、母校が同じということからとても可愛がってくださった。

そして春休みや夏休みには、私に様々なアルバイトを回してくれた。Excelのデータ入力やインタビューのテープ起こし、本棚や備品の整理など、色んなアルバイトのために大学の研究棟へ足を運んだ。

先生は私にアルバイトを頼む必要などない。経費はたくさんあるので専門の委託会社に頼めば、私より正確な仕事をしてもらえる。それでも私を大学に呼びつけていたのは、共に作業をしながら私に社会学のことや社会のこと、学問についてといったことを伝えるためだったと感じている。時々、余った備品や本もくださった。

そしてアルバイトが終われば、いつもビールを飲みに行った。先生はお酒が強い。そこでも、もちろん社会学について語り合うのだ。先生は酔うと、人生論や精神論的な論調に変わっていく。

ある時、我々は難波の炉端焼きで酒を飲んでいた。そこで酔った先生が「別に大学教授とか、大学院が全てではないけど、アカデミックに生きることが大切だよ。」という感じのことをおっしゃった。(私も酔っていたのでうろ覚えだが)

アカデミックに生きるとはどういうことなのか。私は先生にはすぐ聞き返せなった。先生の目はそれは自分で考えることだという目をしていたからだ。「アカデミックに生きる」というこの言葉がその日から今日まで頭から離れない。日常のふとした瞬間に頭の中で反芻されるのだ。

ひよっこの私にはアカデミックに生きるということの真の意味が理解できない。それでも、アカデミックになりたい、アカデミックに生きたいという思いから、毎日読書や勉強やこういったブログでのアウトプットを行っている。

これは少しプロテスタンティズムに似ているかもしれない。救われるかわからないので懸命に努力する。同じように、アカデミックに生きれるかどうかは分からないが、私にはできる限りの努力をすることしかまた私にはできないのだ。

いつかはアカデミックになれるかもしれないし、先生に認められる日が来るかもしれない。ただその理想像はハッキリとはしていない。

真の「アカデミック」はまだまだ遠い。



頂けたサポートは書籍代にさせていただきます( ^^)