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図書館の日のインドカレー

2週間に一度くらいの頻度で土曜日に大きな図書館へ行く。平日に溜まった調べたいことや思考があるので、そこで本を読むなり、ノートに書き出すなりしてそれらを処理する。

自ら好きで図書館へ行っているわけではあるが、スマホを機内モードにするなど、一応は自分を律しながら滞在するため、それなりに緊張するし、帰る時はけっこう疲れる。それくらい集中するように心掛けている。

そんな図書館の日の楽しみは本場の人が作るインドカレーのランチだ。図書館に行った日は必ず決まって図書館から徒歩5分のインドカレー屋へ行く。それ以外の店には行かない。まさに、イチローのような徹底っぷりだ。

いや、そもそも図書館の近くに飲食店があまり無い。ラーメン店と中華料理とうどんとファミレスしかない。どれも美味しいが、リーズナブルでは無いし、どこか心が満たされない。ドカ食いして終わりみたいなとこばかりだ。その点、インドカレー屋はナンがおかわりし放題なのでとても魅力的だ。サラダもスープも付くのでゆっくりできる。

私はご飯派なので基本的には積極的にご飯を食べたい。パンは何となく力が出ない。また、カレーはそんなに好きじゃない。カレーの味自体は嫌いではないが、ご飯は普通におかずと食べたい。ご飯に味が付けばいいやという態度が見え見えのカレーライスやおじや、天津飯はあまり好きではない。


それでも、私はなぜかそのインドカレー屋へいつも行ってしまう。図書館では12時に学校のようなチャイムが鳴る。お腹はすでにもうかなり減っている。だが、そこでは向かわない。12時すぐはインドカレー屋が混んでいることを知っているからだ。なので、いつも12時半くらいに向かう。

11時台になるといつもナンのことを考えてしまう。自分を律しているつもりでもナンが頭に浮かんで来る。それくらいいつも楽しみにしている。

いつも決まって750円のAランチを頼む。サラダとスープとカレー1種類とナン(食べ放題)とドリンクが付く。カレーが複数種付くセットもあるが、そんなものはいらない。味が混ざるだけだ。ライスが付くセットもあるが、本場のナンが食べられるので不要である。

Aランチのカレーはチキンカレー、キーマカレー、日替わりカレーの中から一つ選ぶことができる。気になった日替わりがあればそちらをとることもあるが、ほとんどいつもチキンカレーをとる。味はもちろん大きな鶏胸肉が入っているのでボリュームがある。辛さは五段階で選べるが、たいてい辛口にする。最上位の激辛は辛さゆえに喉が渇くので、辛口がちょうどいい。

それに加えて1つ100円のチキンティッカを決まって2つ頼む。チキンティッカとは骨無しのタンドリーチキンのようなものだ。これでタンパク質をしっかりとる。なぜ2つかと言うと、本当はもっと頼みたいが、Aランチ750円とチキンティッカ2つで950円になる。自分の中でランチで1000円を超えるとかなり高く感じてしまうので、1000円に収まりかつ腹を満たせるようにチキンティッカで調整するのである。しかし、ナンが食べ放題なのでティッカを頼まなくても十分に満腹にはなる。

サラダを食べてスープを飲んでいると、すぐにナンとカレーが来る。あとは無心でナンをカレーに浸けて食べる。ナンには油のようなものが塗られていて風味がある。ドリンクはたいていアイスコーヒーかラッシーをとる。ひたすら食べながら、辛さを中和するためにドリンクを飲む。


そのように足繁く通ううちに店員さんに覚えられるようになった。レジや配膳はすべて日本人の女性店員が行うが、その店員さんはおそらく私の顔を覚えている。たまの土曜日の12時半過ぎに来る奴だと思われているだろう。

例えば、普通は入店したらメニューを渡して一度去っていくが、私の時はいつも決まったメニューを頼むため、メニューを渡して、日替わりカレーを告げた後、去らずにこちらの注文を待ってくれる。「どうせチキンカレーなんだろう?」と思われてそうだ。そう考えると、チキンカレーを頼むのが少し恥ずかしいので、いつも少し迷う演技をする。

また、たいていの人はAランチやBランチだけを注文するが、私がそれに加えてチキンティッカを頼むことを知っているため、その注文を聞くまで去らずに待ってくれる。何回目くらいからそうなったのかはわからないが、確実に覚えられている。

極めつけは、私が必ず2回はナンをおかわりすることを知っているため、他の客にはそうしないが、私には店員さんの方から「ナンおかわりしますか?」と進んで訊いてくれる。なんなら、チラチラと私のナンの減り具合をチェックしてくれている。

今までの人生でここまで高頻度で通いつめる店は無かった。こんな一般人の私でも高頻度で通えば、店員さんも覚えてくれるのだなと面白く感じる。それもそのはず、ナンがかなり巨大なため2回もおかわりする人はまずいないからだろう。

私はこれからもインドカレーの店に通うつもりだ。通えば通うほど、覚えられていくのがどこか楽しい。そのうち、いつかドラマみたいに「いつもので」と注文できる日が来るのかもしれない。

今、インドカレーの店に行くたびに恐れていることは「値上げ」である。特にナンは小麦粉を使う。今、950円で食べられているセットが値上がりすれば、いつかは1000円を超え、チキンティッカを諦めなければいけない日が来るかもしれない。最近は行くたびにメニューを見てドキドキしている。


 魅惑のインドカレー


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