身についてしまった習慣を変える有効な方法は「引っ越し」という事実
なかなか変えられない習慣
厚生労働省では健康増進法に基づき、国民の健康状態を明らかにするために『令和元年国民健康・栄養調査報告』を定期的に行っています。
この調査の中で取り上げられている、食習慣と運動習慣の改善の意思に関する回答結果を見てみると、食習慣については男性の約6割、女性の約7割が改善に関する興味関心や何らかのアクションを起こしている事がわかります。
運動習慣についても男性では約7割、女性は約8割が改善に関して興味関心を持っている、あるいは何らかのアクションをしているという結果が出ています。
これだけ多くの人が食習慣・運動習慣の改善について意識していると回答しているのですから、健康面で何らかの成果が表れていてもよさそうなものです。
しかしながら、同調査の中で取り上げられている肥満者の割合と運動習慣のある人の割合は過去10年ほどを見てもそれほど大きな変化が見られません。
これらの結果を見ても、もちろん私たちの生活を振り返ってみても、自分が身につけてしまった習慣を変えることがとても難しいことがわかります。
Changersの行動で効果があったもの
定着してしまった習慣を変えることの難しさは日本に限らず、どの国でも共通の問題のようで、海外でも神経科学や心理学、経済学といった切り口で行動変容に関する研究が進められています。
これらの研究の結果のいくつかは、行動習慣を変えるためのアクションについて、実行可能なヒントを与えてくれています。
心理学者であり脳科学者でもあるトッド・ヘザートンとパトリシア・ニコルズによる研究「Personal Accounts of Successful Versus Failed Attempts at Life Change」では、過去に自分の習慣を変えることに成功した人と失敗した人の要因分析が行われました。
その結果、行動習慣を変えることに成功した人と失敗した人が選択した行動の中で、とくに大きな違いがあったのは「転居」であることがわかりました。
※転居について言及がされている理由としては、生活習慣を変えることに成功した人の中で「転居」を選んだ人が多く(=35.9%)、失敗した人の中で「転居」を選んだ人の割合の約3倍の開きがあることなどがあるようです。
転居に近い要素として「Altered the immediate environment」があります。
これは、転居よりももう少し身近な環境の変化、たとえば部屋やオフィスのレイアウトを変えるような行動のことを指すと思われますが、こちらは転居に言及した人の3分の1くらいの言及割合に留まっています。
転居同様に、行動習慣を変えられた人のうち3割程度が挙げた要因に「Preperations for Change」があります。
これは、行動の変更や新しい状況に対応するために必要な手続きや計画を立てることを指す要因ですが、成功した人だけでなく、失敗した人の3割もこの要因に言及しています。
多くの人が実践している行動である一方、この活動が行動変容に決定的な役割を担っているとは言えなさそうです。
また、習慣を変えていく事を対外的に発信する「Public declaraiton」は、SNSなどでもよく見られる行動です。
失敗した人でこのアクションに言及している人がいないという点で有効性は高そうですが、成功した人の中で言及している人も1割以下という結果になっています。
文字通り”一部の人”にとって有効なアクションなのかもしれません。
ちなみに、Public Declarationと同じような言及がなされているアクションとしては、「Self-reward」があります。
自分を褒めたり、何かしらの報酬を与えることで行動変容に成功した人もいるにはいますが、成功した人全体からすると限られた割合に留まる結果となったようです。
この研究の中では、その他のアクションとして、「Thought control methods」も取り上げられています。
具体的には、意識的に気晴らしをすることや、瞑想、リラクゼーションなどが挙げられていますが、こちらは成功した人の言及率も低く、失敗した人の割合もある程度みられました。
瞑想はやり方を間違えると狙った効果が出てきませんし、気晴らしも一時のものになりがち、という経験が自分にはありますが、多くの人にとっても行動変容の主要因にはなっていないのかもしれませんね。
転居以外の効果的な方法
ちなみに、この研究の中で、「転居」と同じような位置づけ(=成功した人の多くが言及していて、失敗した人が言及している割合と開きがあるもの)の要因として挙げられているのは
Focal Event:直訳すると焦点になる出来事ですが、振り返って印象的だったり記憶に残っている出来事、というニュアンスが近そう
Change from negative to positive affects:状況の好転
Received help:他者から助けてもらった(経験)
General social support:直訳すると一般的な社会的支援ですが、いわゆる社会の公助的な機能や福祉サービスなどと考えられる
などです。
どれも他者や周囲の環境に紐づく要因で、自分で何とかできるアクションにはなりにくいものです。
ただ、逆に言えば、状況を好転させうる機会、いわゆるセレンディピティに出会いやすい環境を整えたり
常日頃から他者との接点をもち、何かあった時に助けてもらえるような関係を築いたり
福祉サービスや制度といった公的扶助の仕組を活用することも選択肢として考えておくことで、行動変容の成功可能性を上げることができるとも言えそうです。
環境を変えて自分を変えよう
検索エンジンで「引っ越し」と検索すると、ひっこして逆に落ち込んだ、といった話が良く出てきますが、生活習慣を変える、という観点で引っ越しを捉えると、それが行動変容のきっかけになるというメリットもあるようです
同じような経験を持っている方はかなりいるのではないかと思いますが、こういった研究結果は、その実感を裏付けるものだと思います
今までとは異なる環境に身を置くことで、自分がどうしても変えられなかった習慣のトリガーになる要因との距離感を見直し、触れずに済むことでやめたい習慣を断ち切る事ができるかもしれません
今の自分を変えたい、現状がどうもしくりこない、と感じている人は一つの選択肢として、新しい環境に引っ越すということを考えても良いのかもしれません
実際に私がセッションを提供しているコーチングのクライアントの中にも、自分が立てた新しいゴールを達成するためのアクションとして引っ越しを選んだ方が少なからずいましたし、引っ越して後悔したという人は一人もいませんでした。どなたも新しい環境、ライフスタイル、人間関係に変化の糸口を見出しています。
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また、私がプロマネとして活動している若者支援の領域では、非行に悩んでいたり、少年院を出てきた若者に対する支援として、居住地の変更が重視されるケースが少なくありません。
悪い習慣に戻ってしまうきっかけを物理的にシャットアウトする手段としての転居の効果は、若者支援の現場でも経験的に認識されているのだと思います。
引っ越しには少なからぬ費用も労力もかかりますが、現状から飛び出し、未来に飛び出すための投資として考えて決断することも重要なのではないでしょうか。
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