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2022年版:IT業界で働く人が楽しめる本10選

IT業界で働く皆様、本を読んでいますか?ブログ記事を「あとで読む」のまま放置してませんか?Twitterで流れてきた意識高そうなスライドに「いいね」して忘れてませんか?YouTubeの閲覧履歴がVtuberばかりになってませんか?
そこで年末年始の休暇に向けて、本を読んで見聞を広めてはいかがでしょう。とはいえ、どんな本を読めば良いのかわかない方も多いでしょう。そこで本記事では、「2022年のIT業界で働く人が楽しめる本」をテーマに10冊を選んでみました(「ベスト10」ではなく「10選」なので、紹介する順番と評価は無関係です)

■選定における条件
・2022年に発売された
・ITに関連した内容
・エンジニアもビジネス職も学生も読みやすい
・仕事や学校などでITに関わる人がより楽める
・特定の技術や製品に関する本は除外(幅広い読書を想定)
注:アフィリエイトリンクはありません。電子書籍はほぼあります。

それでは「2022年版:IT業界で働く人が楽しめる本10選」となります。

1.情報セキュリティの敗北史: 脆弱性はどこから来たのか

クレジットカードの不正利用から個人情報の漏洩、さらに国家レベルの情報戦争に至る一因はコンピュータにおけるセキュリティの脆弱性にあります。では致命的な欠陥である脆弱性はどこから来て、なぜコンピュータとネットワークは問題を抱えながらも使われ続けているのでしょう。半世紀以上前のコンピュータ誕生からインターネットの普及という歴史を辿り、いかにしてセキュリティが敗北したのかがわかります。背景にはコンピュータとインターネットが短期間で爆発的に普及した点が影響しており、IBMの創業者による 「コンピュータは世界で5台ぐらいしか売れない」という発言が現実であれば、セキュリティは問題にならなかったわけで。ちなみに出版社曰く「Twitterで話題」だそうです。実際に4刷が売れており、話題に追いついてドヤってみましょう。

2.エンジニアリングマネージャーのしごと

「マネージャーになりたくない」「マネジメントやりたくない」「ずっとエンジニアをやりたい」と、IT業界で働くと耳にする話題です。とはいえ誰かがマネジメントをやらないといけません。そんな時に読んでほしい1冊です。マネージャーに必要な作業、チーム内の関係性構築、業務の評価、人材採用、体調とモチベーションの管理(本書では夜11時にメールを送るのは厳禁だそうです)、そして一緒に働いたメンバーの退職などにおける対処を解説しています。マネジメントに絶対の正解はありませんが、本書を読めば大きな失敗はしないはずです。あわせて、2021年発売ですが「Googleのソフトウェアエンジニアリング」を読んでおくと、より理解が深まるでしょう。ちなみにどちらもオライリーですが、回し者ではありません。

3.韓国 超ネット社会の闇

「韓国人は生涯のうち34年間(平均年齢83.5歳に対して40%)をネットに費やす」という衝撃的なレポートから始まる本書。ブロードバンドを世界に先駆けて普及させて、モバイルネットワークも5Gで先行する「ネット先進国」において、どんな闇が隠されているのか?政治、芸能、反日と親日、ゲーム、フェミニズムとアンチ・フェミニズムにおいて、罵詈雑言と言論の自由が曖昧なままむき出しの感情が乱れ飛び、新たなデジタル犯罪も生まれて、ネットバトルは格差拡大という辛い現実から現実逃避するツールになっている。特に有名人に対する誹謗中傷は凄まじく、スポーツ選手の学生時代におけるイジメを掘り返して韓国代表の地位から引きずり落とすなど、足の引っ張りあいは後を絶たない。行き過ぎたネット社会への警鐘を鳴らす1冊ですが、これを読むと日本のネット界隈は平和に思えます。

4.メタ産業革命

2022年になっても、相変わらずメタバース(VR)関連本は多数出版されているが、敢えて1冊選ぶならこちら。理由としてはビジネスにおける活用事例にこだわっているから。メタバースは娯楽向けのイメージから徐々に産業用にも展開しており、本書では会社の業務におけるメタバースの活用事例が掲載されている。本書を読めば幅広い業種業界でヒントになるだろう。なお、メタバース本は他にも読んでいるものの、玉石混交である。本書に近いビジネス寄りの本なら「メタバース未来戦略」、メタバースが大好きで本職のわかってる人が書いた本として「メタバース進化論」「メタバース さよならアトムの時代」もお薦めです。

5.べリングキャット――デジタルハンター、国家の嘘を暴く

雑に説明すると「国際情勢に影響を与えるレベルのコタツ記事を書いたら世界的な有名人になった」という本。元々はオンラインゲーマーだった作者が、ネットで知り合った仲間とデジタルツールを駆使して、シリア紛争などで隠された事実を報道をしていく。最終的にはフェイクニュースを見破る調査機関として、影響力を発揮するという経緯。家から1歩も出ずにネットだけで、ロシアの民間機撃墜を言及し、ISISの居場所を特定して、シリアにおけるサリン使用などを突き止めたのはスゴイ。そういえば昔の2chはFBI並の捜査力と言われたことを思い出しました(今はどうなんでしょう)。

6.脳と人工知能をつないだら、人間の能力はどこまで拡張できるのか

「ブレインテック」と呼ばれる脳の研究がどこまで進んでいるかを紹介した本。コンピュータやAIの進歩によって脳の解明も進んでおり、いわば攻殻機動隊みたいな世界がどれだけ現実味を帯びてきたのかわかる。もしかすると30年後には、テレパシーが現実になると言っても過言ではないような気がする。内容も平易なので、初心者でも読みやすいです。発売日が2021年12月16日ですが、ギリギリ2022年の本でご了承下さい。

7.御社のシステム発注は、なぜ「ベンダー選び」で失敗するのか

有識者が「SIer崩壊」「人月ビジネスは終わり」と嘆き、DXブームの内製化によってエンジニアの自社雇用が進み、Twitterでは自称インフルエンサーが「SESは奴隷商売」とディスり、YouTuberは「フリーランスでWeb系エンジニアが最高!」と煽る。それでも2022年が終わろうとする現在において、ウォーターフォールで基幹システムを開発するエンジニアは山ほどいるわけです。今も変わらずシステム開発では、ベンダ選びやプロジェクトマネジメントや要件定義といった上流工程が重要なので、本書は大いに役立つかと。来年こそはデスマを回避したい方々におかれましては、本書を熟読するか転職がよろしいかと。同じ方向性の本としては「システムを作らせる技術」もお薦めです。

8.東南アジア スタートアップ大躍進の秘密

「スタートアップ」と言えば日本とアメリカの話題が大半で、たまに中国が出てくる印象もありますが、実は東南アジアが熱いのです。配車アプリのGrab(グラブ)のみならず、多くのユニコーン企業が誕生しています。本書は東南アジアにおけるITスタートアップが急成長した背景、各国においてスタートアップが解決に取り組む課題、創業者の経歴や人となり、政府や投資会社の支援などがまとまっています。Amazonレビューに湧いてる偉そうな評論家気取りは、無視できるぐらいに面白いです。

9.フェイスブックの失墜

今年はイーロン・マスクとTwitterがやたら騒がれた反面、META(メタ)に社名変更したFacebookは新たなメタバースがショボいぐらいしか話題になってません。かつては時代の寵児だったマーク・ザッカーバーグはどうしてこうなったのか。プライバシーの侵害が問題視されて、大統領選挙で不正行為に加担し、言論の自由を盾にした結果はフェイクニュースの温床となってしまいました(ついでに日本ではユーザーがおじさんばかり)。本書では失墜に至るまでの過程を、入念な取材から丁寧に追っています。ちなみにFacebook関連本でやたら叩かれるシェリル・サンドバーグは、本書でも安定のクズっぷりである。栄光ある企業の凋落を追った本としては「GE帝国盛衰史」もお薦めしたい。

10.ポストモーテム みずほ銀行システム障害 事後検証報告

かつて「IT業界のサグラダファミリア」と呼ばれた、みずほ銀行のシステム統合。さすがに2022年になれば安定すると思いきや、逆の意味で安定感を見せつけた。さすがに2021年2月からの1年間で11回のシステム障害を起こすのはやりすぎでしょう。そんなみずほ銀行を20年に渡って追い続けた日経コンピュータによる反省会会場と言えるのが本書です。同じ日経コンピュータが2020年に発売した「みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史」では、大規模システム統合の成功を褒めちぎったのに、本書では散々システム障害をディスるあたりはサッカーW杯日本代表に匹敵する掌返しです。とはいえ本書の10ページ目ぐらいで、ATM窓口のコールセンターで多重請負構造が原因となって混乱するダメっぷりが晒されるので、ディスられるのも当然と言えば当然ですが。ちなみに日経BPから発売された「みずほ、迷走の20年」では、主に組織や社内政治におけるダメな部分が盛りだくさんなので、2冊まとめて読むと精神と胃壁が削られます。年末年始を気持ち良く過ごすために、本書は休み明けに読みましょう。

終わりに:2023年のIT本はどうなるのか?

今年に私が読んだ本は229冊でした。その中でもIT業界人が楽しめそうな10冊を選んでいます。変化の激しいIT業界において、今年はWeb3(Web3.0)やNFTやメタバースに関する書籍も多数出版されました。もちろんこれらも読みましたが、「完全にポジショントーク」「最初から最後まで願望とポエムと妄想」「なんでお前が偉そうに語ってるの?」「陰謀論のネタにするな」「事あるごとにオンラインサロンへ誘導するな」という感想が大半でした。もっとも数年前はAI関連の本を読んで同じ感想を抱いていたので、徐々にマシになるでしょう。

ところで本に明るい未来はあるのでしょうか?地方では本屋が軒並み減少して、郊外のショッピングモールに併設された本屋は知名度に反比例して内容が薄っぺらいベストセラーだけが並ぶ。IT系の本棚は両手を広げた程度のスペースで、スマホとExcelとパワポの本しか置いてません。

では都会の書店なら、まともな本に触れられるのでしょうか。ジュンク堂書店池袋本店の5Fにある独立・副業コーナーでは、胡散臭いインフルエンサーや謎の情報商材屋による「SNSで◯億稼いだ必勝法!」的な本が並んでいます。ネタとして立ち読みするならまだしも、まとまった時間と数千円を投じる価値は一切ありません。免疫がない人は6Fのコンピュータ書籍だけを見て、そのまま帰るのが良いでしょう。でもジュンク堂は「陰謀論」の棚を個別に作るあたり、好感が持てます。

日々の仕事や生活に追われる皆様も、年末年始の休暇にじっくり本を読んではいかがでしょう。そして初詣のついでに、ジュンク堂や丸善や紀伊國屋や三省堂やブックファーストや書泉に足を運んでみましょう。新たな本の出会いがあるはずです。

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