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きんつばを愛でる

和菓子の中でいちばん好きなものといえばきんつばである。

炊いた餡を寒天で固めて、粉を水で溶いたものをつけてさっと焼く。
中身が透けるほどのささやかな生地は、さながら薄絹の羽衣のようである。
ひとめ見て分かる通り、ほとんどが餡で出来たものだ。そんな餡のかたまりに対して「あんこをそのまま食べた方が早いんじゃないのか?」と、ある日の話の最中に言われたこともある。

あんこだけを食べるのときんつばとして食べるのとでは、もう天と地というほどに違うのだ。

重要なのはあの周りの生地、皮部分。
きゅっと固められた餡が纏う皮のさり気ない存在感が大事なのである。
そして火に炙ることによって焼き菓子の要素がぐっと増し、同時に香ばしさというのも加わる。

単純なようで、けして簡単ではない。
そんな奥深い菓子だと常々思っている。

きんつばは気軽に買えるものでもある。立派な店舗やデパ地下などに行かなくても、近所のコンビニやスーパーで手に入りやすい。
たまたま出かけて目に入ればつい買ってしまうということもしばしあるが、なんというか…やや物足りない感じになることが多い。
そう、きんつばは大半が餡だ。餡のかたまりだ。
餡の仕上がりが美味しさに大きく繋がるのではないのか。

有名な和菓子屋の餡は本当によく出来ている。つぶあんの小豆の豊かさとふっくら具合の素晴らしさ。こしあんのどこまでも心地よい滑らかさと口溶けの良さ。
しっかりと甘さがあっても最後まで損なわれない上品な風味。そして驚く、使われている材料のシンプルさ。
とらやの羊羹を久しぶりに食べ、その際原材料名を見て呆気に取られたのは最近である。

もちろんいつも老舗の味を堪能出来るわけではないので、普段は手頃さに感謝しつつもしかしたらこれは当たりかなと冒険をしながら、ここぞという時には贅沢をするという生活だ。

きんつばを求める旅はこれからも続く。

#創作大賞2023 #エッセイ部門


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