日常は無常である。ドラマにならない田舎食堂。
お昼ご飯を食べに食堂へ入ったときの話です。
その食堂は老夫婦二人でやっていて、カツ丼やそばが美味しいまさにザ・田舎食堂です。
ちょうどお昼の混む時間だったので、いつもならハイハイと駆けつけてくる奥さんが、なかなか注文を取りに来られないようでした。
『ま、仕方ないか』
少し落ち着くまで私はしばらく待つとしました。
すると、
「何にする?」と見知らぬ60代ぐらいの女性が注文を取りに来たのです。
(あれ?見たことない人だな。)
(パートの人かな?)
と思いながら、私はお気に入りのおろしソバを注文しました。
『おろしそばをひとつ』
「はいはい、おろしそばね」
その後、女性は厨房に向かって
「4番、おろしそばねー!」
と、注文を言いのこして、
お客の席に戻り焼きそばを食べはじめました。
『お客だったの!?』
私はびっくりしました。
この店の常連さんだろうか?
老夫婦の知り合いかな?
しかし、お客がお客の注文をとるって、
なんというか…うん、良いと思う。
ファイナルファンタジーⅨのジタンのセリフが頭をよぎった。
誰かを助けるのに理由がいるかい?
やきそばをズズーっとすする彼女の背中が語る。
なんだよ、カッコいいじゃないか…。
男前ならぬ女前。
私もひと芝居うちたくなった。
おろしそばを食べ終えてお勘定。
『あの方の分もこれで。』
一万円をすっと出した。
「え?いいのかい?」
『えぇ、ささいなお礼です』
「わかったよ、伝えておくよ」
『ごちそうさまでした』
そう言ってガラガラと引き戸の音をたてて、私は店を出たのでした。
とはいかないんだな、これが!
※
『あの方も分もこれで。』
一万円をすっと出した。
「いらんいらん、いらないよー」
『ぇぇ…』
「あの子が勝手にしたことだから、そんなことしなくていいの!」
『oh…no』
カット。
いや、まさかのインターセプト。
「おろしソバ500円ね。」
『はい』
「はい、おつり500円ね」
『ありがとうございます』
「はーい、またね。」
『ごちそうさまでした』
そう言ってガラガラと引き戸の…心の音を立てて、私は店を出たのでした。
ドラマなんてなかった。
日常は無常である。
また食べにきます。
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