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双子の姉妹

太一は恋子に白いワンピースをプレゼントした。それは以前から恋子が欲しがっていたものだ。サプライズのつもりだったがショッパーのロゴで勘づいたらしく恋子はさほど驚かなかった。

「ありがとう!この間見たやつよね?あの時は迷ったんだ、手持ちのサンダルと合うかなと思って。でもやっぱりこのワンピース欲しいなと思ってた。本当にありがとう!」

恋子には双子の姉がいる。2人を区別できるのはホクロの位置だけだ。恋子には右頬に、姉の愛子には左頬に少し大きめのホクロがある。

その三日後に太一は恋子からデートに誘われた。もちろん太一はその時に恋子があの白いワンピースを着てくるものと確信していた。「髪はどんな風にまとめてくるんだろう?ポニーテールかな?それとも…」

恋子は約束の時間より少し遅れて来た。太一は恋子のホクロを確認した。うん、間違いなく右頬にある。実は太一にもホクロ以外この姉妹の大きな違いを見分けられない時があってとても困惑していた。 

太一は近くに止めてあった車まで恋子を連れて行き、恋子があの白いワンピースを着ていなかったのが不思議になって聞いた。

「ねえ、あのワンピースはどうして着てこなかったの?何か気に入らないことでもあった?」

「ううん、気に入らなかったんじゃなくて今日パスタを食べる予定だから敢えて着てこなかっただけ」

(そういえばそうだ。僕たちはランチにパスタのお店を予約していたっけ)

もう一度恋子を太一は凝視する。恋子は今年発売だったというユニクロとマリメッココラボのTシャツを着て、下はチノパン。真っ赤なサンダルという出で立ち。指には太一がプレゼントしたシルバーのリングが光っている。

今日は7月26日。空はどこまでも晴れ渡り青く澄んでいる。少しは曇ってくれないと日陰もなく暑さを何倍にも感じる。2人は急いで車に乗った。恋子はやはりポニーテールに髪をまとめて指輪と同じシルバーのピアスをつけている。

2人はパスタランチを満喫し、恋子はカルボナーラで少し汚れたTシャツを隠しながら店を出た。その時恋子のスマホから着信音が聞こえてきた。

「もしもし。あ、お姉ちゃん今ランチを食べ終わったところ。何?帰ってこいって、まだ昼過ぎだけど」

太一には何を話しているのか恋子の言い分しか聞こえなかったが、どうやら家に帰ってこいと愛子が言っているようだ。

「あまりにも暑いから愛子が家に帰ってきたらって。心配性にも程があるよね。でも愛子も太一くんに会いたいって言ってるし1回帰ってみようよ」

ここまで言われたら太一には返す言葉がなかった。分かった、とだけ言いレストランから出て今来た道を車で引き返した。

恋子の家は待ち合わせの駅から歩いて20分ほどのところにあった。恋子を迎えに家まで行っても良かったのだがなんせ駐車場が狭い。恋子のお父さんが出かけず車を家に置いている時太一はなるべく駅まで出てきてもらうことにしていた。

恋子の家に着くとなぜか愛子が太一がプレゼントしたワンピースを着て仁王立ちしている。

太一が車から降り近づいていくと愛子、いや恋子は言った。

「あなたを試したの。今日一緒だったのはお姉さんよ。お姉さんは今日は左のほくろをコンシーラーで消して右頬にアイブロウでほくろを書いたのよ。あなたは本当に私のことを愛してるの?私が分からないなんて有り得ない!!」

#なんのはなしですか

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