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「もう今日で最後にしよな」

父がまだ健在で息子が小学生だった頃、実家に泊まって甲子園へ阪神戦を観に行っていたことがある。

実は父はジャイアンツファンであり、今考えると本当はいやいやだったのかなと振り返ったりもする。息子は完全に阪神ファンだった。そのくらいの年齢の子供を色んなところに連れて行ってあげたいという気持ちが私にはあった。だから私は一緒に試合を観にことも、父と息子が会えるいい機会だと思っていた。

甲子園まで行くと野球開催時は出店がたくさん並ぶ。食べ物、飲み物、バット、ユニフォーム、ジェット風船、なんでも売っている。そこを通るとついつい買ってしまいがちだ。けれど私たちはいつも駅近くのダイエー(今もあるのかな?)の地下でお弁当やら焼きそば、お茶を買って行くのが恒例だった。もちろん節約のために。

買い物が終わってさあ行こう、とするとき父は急に言い出した。

「これでもう最後にしよな」


何を言うかと思いきやもう試合観戦に行くのはやめよう、という意味だった。私はいきなりのその言葉にびっりしてその後の試合があまり楽しくなかったのを覚えている。

試合観戦中私たちはものすごく静だった。息子がバットを振ったりはしゃいだりしていたけれど、いつも声を出してはしゃぐ私もこの日ばかりは試合に身が入らないというかなんと言うか…。せっかくの片岡さんの引退試合だったのにもったいないことをしてしまった。一塁側のとてもいい席で観れたのに。セレモニーも見ずに帰路に着いた。

父はあのとき何を意図していたのだろう。

「もう観に行くのがきつい」

だったのか、それとも

「お金がかかるからやめよう」

だったのか。

今となっては誰にも分からない。けれどあのとき父に聞いて真意を確かめることはできたかもしれない。父は怒りっぽい人だったので聞けなかったという理由もあった。しかし…もう答えは誰にも分からない。今になれば父に聞きたいことだらけだ。あのときどう思ってたの?どうしてあんなこと言ったの?行きたくないのに無理してたの?

以前から私は人に真意を確認することがものすごく苦手だった。その結果人とぶつかることがとても怖かった。そのせいで何人もの人の前から私のほうからこっそり消えたりした。

もう少し早く気づけば良かったのに。

今まで本心を聞かぬままさよならした人々が本当はどう思ってたのか、一人一人聞いてまわりたいくらい。でも一旦お別れをした人々の気持ちは聞くことはもうできない。

せめて母がまだ生きているうちに、いろいろ過去どう思っていたのか聞いてみたい。そこで母がどこまで記憶をたどれるかということと、それを聞いて私が怒り出さないかなという不安はあるけれど。それが今いちばんの課題である。早く実現させたいところ…。

今日はここまでです。
忘備録として残しておきます。
お読みいただきありがとうございました。

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