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飽きてしまう自分を楽しんだっていい

アーティストに転向し、価値観がオセロみたいにブワッと反転して一人混乱した2019年の8月の体の震えをありありと思い出せる。更に2020には世界的な大混乱が待っていた。それでも緊張が続く2020の終盤に、まさかパリで行われる来年の展示が2つも決まる。

枠を飛び出したっていい。自由に。思う通りに。

そういう言葉はずいぶん世に溢れている。だけどわたしたちは自由がわからなくなりやすいと思う。それでもきっと人それぞれ大切にしたい自由がある。例えばお気に入りのカフェで一人ゆっくりする時間は保ちたいとか、本は好きなだけ読みたいとか、大切な人と穏やかな時間を過ごしたいとか。何が自分にとっての「大切にしたい自由」なのか。特にこの時代に炙り出されているようだと感じる。

自由を守るための挑戦に、大きいも小さいもないのだろうと思う。ただわたしにとっては、クライアントワークを辞め、アーティストになることは信じられないほどの影響があった。

自分の決意に従って思い切って飛び出してみたあとの夏の日々を覚えている。

なぜか感覚が鋭敏になり、今まで聴いていた音楽が聴けなくなる。人との距離感ややりとりがわからなくなる。自分の抑圧していた反骨精神が噴出してコントロールできない。頭がおかしくなりそうで、いつも飲まないブラックコーヒーや濃く割ったお酢ばかり飲んでいた。

自分が「枠におさまれない」ことをずっと後ろめたく感じていた。デザイナー、イラストレーター、エッセイストなどを名乗りながら「一本でやっているように見える人たち」に憧れたし、あれこれ好奇心のままに色々なことをやる自分を不誠実に感じていた。

アーティストに飛び出したら、やっと開けた場所に出たと思えた。つい昨日くらいの話だけれど。ずっと、表現やお金の問題やさまざまなことにもがいているからだ。そうしてやっと「あのとき転向に挑戦したから今の景色が見えるんだ、ここはわたしの場所なんだ」と思えるようになった。それでもまだ変えたいこともたくさんある。

自分の「苦手だと思うこと」を「得意なこと」の色に塗り替えるようなことだった。飽きてしまうことは、むしろ強みにしていこうと決めたからだ。何色に塗るか、何の筆を使うか、一つ一つがわたしにとっての挑戦だったから、疲れては休んで、ずいぶん時間がかかった。

わたしのアートは、手法もバラバラだし見かけもバラバラだ。アーティストの人たちでも、確固たる自分のテイストを持って表現し続けている人もいる。だけど、わたしは何ができるかを全部試したい。持って生まれた好奇心の強さと、飽きっぽさはどうにもならない。飽きるのが速いことがイノベーションに活きるとは聞いたことがあったけれど、自分に当てはめるのは傲慢な感じがしていた。でも、もうこのわたしで走り出した。自分の人生にメンバー交代はないのだ。

フィルムでブレた写真は高校生のときに愛用していたLOMO-LC-Aで撮ったものだ。当時なぜかトレーシングペーパーに印刷できないかと思いつき、自宅のプリンターと格闘した。対応している紙ではないので危うくプリンターを壊すところだった。それでもなんとか印刷できた1枚に、これまたなぜか白い糸で破線を縫い(右上)、下にこう書いてあった。

いつか会えると、ずっとずっと思っていた。

このときの「会える」と表現した対象が何だったのか、さすがに昔すぎて覚えていない。でも今この言葉を読むと、会いたかった対象は「生まれながらの自分」みたいな言葉で表現できるような気がする。

小さな頃からわたしは少し変わったエピソードが多かったとよく親やおばあちゃんに聞いた。ワープロを叩いてみたりピアノを習ったり、ローセキでおばあちゃんの家の前の道路を絵で埋め尽くしたり、興味を持てばなんでもやった。なんでもやることはその後もずっと続いて、だからよく人の輪からはみ出していたと思うし、はみ出さないように気をつけていた。怒られたり変に特別視されてしまうのを知っていたから。

今は、もっともっとはみ出してみたい。

最近は、はみ出したい気持ちを強くしながら、身近な人たちとのバランスも考えられるようになってきた。枠の外には信じられないくらいまばゆい青空が広がっているのに、作られていると思っていた枠は、自分が自分に押し当てていただけだった。自分が見たことのないものを作りたい。体験したい。それだけ。でもそれはきっと獣道以外の何物でもない。

今年のウィルスの流行の中、見守ってくれる大切な人たちとの関わり方についても、ずいぶん考えさせられた。それは誰もが考えさせられざるを得なかったことの1つだろうと思う。逃げたいくらい苦しかった世界と、どうしたってわたしも繋がっている。それでも、繋がり方を考え直したり、捉え直すことはできるはずだ。死んでしまう前に、まだ何かできるはずだ。

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