株式会社ZIAI設立 / 創業背景と今後について
こんにちは。櫻井 昌佳(さくらい まさよし)です。
タイトル通り、自殺予防を目的にしたAIの研究開発を行ってきた非営利テック団体ZIAIは、株式会社ZIAIをスピンアウトさせました。
今回を機に、ZIAIの創業背景や活動の原点、そしてこれからについてまとめさせてください。
人生最悪の誕生日
2020年3月24日、インド首都デリー。
翌日の誕生日を心待ちにしていた私は、ニュースを見て愕然としました。
私の28歳の誕生日である3月25日から21日間、インド全土を「ロックダウン」にするとモディ首相が宣言したのです。
「あー終わった」
私はスラム街でレイプを予防する独自メソッドの開発を行う国際NGO Gawainを経営しており、
現地メンバーや警察と共に準備してきたプロジェクトが今まさに始まろうとしていた時でした。
(Gawainの活動内容や私自身がなぜChangemakingに取り組むのかについて興味ある方は、ぜひ自己紹介noteをご覧ください!)
そんな中、コロナのせいで始まったロックダウン。
予定していたプロジェクトは全て頓挫し、
メンバーの家族や親戚の訃報が溢れるようになり、
私も身の危険を感じて日本に一時帰国せざるを得なくなってしまいました。
当面の間はインドに戻れず、活動再開の目処も立てられないのは明らか。
久しぶりの日本滞在で、Gawainにかけていた時間も空いてしまいました。
「それなら日本国内の社会課題にも目を向けて、自分ができることを始めよう。」
そんな時に、テラスハウス出演女性の訃報によりメディアでも盛んに取り沙汰されていた社会課題が「自殺」でした。
「たしかに世界的にみても日本は自殺率が高い。なぜだろう?自分に何かできることはないだろうか。」
まずは情報収集をしようと、厚生労働省や関連NGO、臨床心理分野のレポートを読み漁り、
Twitterでフェイクアカウントを作成し、自殺関連ワードを呟いている人たちの悩み相談に乗る生活を始めました。
彼らの課題がわかれば、何か解決の糸口になると信じて。
転機になったインド人からの一言
数ヶ月、私のTwitterのメッセージ欄とスプレッドシートは、自殺に関連する負のワードで埋め尽くされていました。
Twitter上で日本語で自殺に関連するキーワードを呟いた方がいれば、瞬時に私のファイルにアカウント名やツイート内容、時間やLINKが一覧で自動表示される仕組みを作って対応していたからです。
このような内容を1日中見るのは、想像以上にメンタルに対して負担がかかります。臨床心理士の方々は本当にすごいと身に染みて感じていました。
そんな精神的なしんどさとは裏腹に、解決に向けた光は全く見えず、正直なところ途方に暮れていました。
自殺というのは様々な要因が絡み合って自死に至るとされており、亡くなった方に本当の原因を聞きに行く訳にもいかないからです。
転機が訪れたのは、Gawainのインドメンバーとプロジェクト再起についてリモートで打ち合わせをしていた時でした。
「実は最近、日本でも非営利活動を始めたんだ。自殺がすごく多くてさ。2019年のデータだと...」
一通り聞いた後、あるインド人に聞かれました。
「Masa、また素晴らしい活動をしているね。でもそもそも、なぜ日本人は俺たちインド人より、よっぽど恵まれた環境にいるのにわざわざ自殺を選ぶんだ?俺には理解できない。」
その通りだと思いました。
今まで当たり前のように自殺の原因、例えばいじめや虐待、経済的困窮や人間関係など「個人の悩み」を取り除くことばかりに目を向けていましたが、
彼の言う通り、もしこれら悩みそのものが自殺の原因なのだとしたら、インドやバングラデシュは自殺者で溢れかえっているはず。
もしかすると、悩みを解決することと同じくらい重要なことが、
その悩みに対する向き合い方を支援すること、
そしてストッパーになるような心の支えを用意することなのかもしれない。
仮にいじめに悩んでいる子どものいじめを取り除いてあげても、その子はその後の人生で他の課題にぶちあたるはず。
そうなっても立ち直れるような仕組みや社会を創らないといけない。
徐々に方向性がクリアになってきた瞬間でした。
インドではヒンドゥー教や仏教という信仰、そして家族の強い絆がセーフティネットにあたると思うが、日本では何が担っているのか?
日頃から人に寄り添い、心の支えになるもの。
悩みの向き合い方を支援できるもの。
本当にしんどい時に踏ん張れる何か。
そんなサービスや仕組みを創りたい。
まずは自分自身を愛せるように
Twitterで実際に自殺希望者の相談に乗ると、必ず出てくる言葉がありました。
「自分なんてーーー」
彼らが結果的に自殺に至ったかどうかはわかりません。
ただ自分のこと、そして自分の人生を愛せていないことは明白でした。
自己肯定感が低く、
生きる価値を感じておらず、
まるで”死”によって命を失うことよりも、
“生”によって失う何かを恐れているようでした。
彼らが自分を傷つけたり、殺すのでなく、
まずは自分自身の人生を愛せるような優しい世界にしたい。
そんな想いからZIAI(ジアイ)という社名で、非営利団体を2020年に立ち上げました。
初めはSNS上に投稿された自殺関連キーワードを自動で収集し、
アカウント名や投稿内容を整理して一覧化、
ワンクリックで該当者へのアプローチを可能にする自殺検知システムを開発していました。
悩みを抱える人々からのSOSを受け身で待っているだけで、社会からその声を拾い上げる仕組みがないと気付いたからです。
ですが、残念ながらすぐに方針を変更しました。
というのも、その受け身の仕組みすら人材不足によりまともに機能していなかったからです。
命の電話相談に接続できる人は5-10%、全国から相談を受け付ける悩みチャット相談の返信率は平均で20%にも満たないところがほとんど。
まずは全国の悩み相談応答率を100%に引き上げることが全ての土台。
カウンセラーや自治体の担当者だけでは不可能でも、
テクノロジーを活用してAI×人が連携する仕組みを創ることができれば必ず達成できると信じ、まずはこの土台を創ることに集中すると決めました。
それから約3年間、トヨタ財団から助成を受け、カウンセリングを行う他NPO法人と提携してAI活用の研究開発を続けてきました。
IT企業のCTOやNLP研究者、臨床心理士や言語学者、データサイエンティストなど本業で活躍するスペシャリストが、余暇の時間を使い、無報酬でプロジェクトを前に進める一方で、
残念ながら、厚生労働省の自殺対策助成金にはAIを利用しているという理由で応募すらさせてもらえず、カウンセリングNPOとの共同研究も合意形成に時間を要して思うようには進みませんでした。
そんな中、猛烈な勢いで進化する言語生成AI領域の可能性を間近で見ていて、
これまでの研究開発をもとに社会実装を加速させ、さらなるインパクトを狙うなら今だと社内で議論し、スタートアップ(株式会社)として勝負することに決めました。
まずは悩みを吐露したい方を誰一人として見捨てない街のロールモデルを作り、
この取り組みを全国に広げることで悩み相談応答率を100%に引き上げる計画です。
そして本日8月22日、社会実装の第一弾として、
日本初/生成AIによる行政の悩み相談をDXする実証実験を、千葉県柏市にて開始します。
今後もあらゆる事業にトライする予定なので、表面上はGovtechやAI, スマートホームやエンタメなど様々なタグ付けがなされるかもしれませんが、
常に主眼はメンタルヘルスにあり、
「(実は)世界で最も人々の心を支える企業」を目指します。
最後に、我々の原点となる非営利団体を立ち上げた際に掲げたコンセプトを転載します。
長文お読みいただきありがとうございました。
今後もZIAIのアップデートを楽しみにしていてください!