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幸せになりたかっただけ

「おい。」

「ん?」

「これ、何に使うんだっけ?」

「親父、それはエンジンスターターだよ。」

「あ、そうかそうか。」

......車の中での私と父の会話だ。

「エンジンスターター使えなかったなら、どうやって冬の釧路を乗り越えてたんだよ。」

「いや、この車でまだ冬を経験してないから。」

「...そうなんだ。」

その車は元々私が購入したものだが、海外に行く時、父に譲った。もう三年ほど前になる。

つまり、彼はこの車で三度ほど、冬を越している。

父の認知症はさらに進んでいた。

私の母は飲み屋を経営しているが、家から車で二十分ほどの距離にある。田舎なのでもちろん、公共交通機関は全く整っていない。

「道東のバイパス・釧路」が聞いて呆れる。結局、車が無いと通常の生活すら、ままならない。バカどもは税金使って何やってんだか。

母は結婚する前からずっと、夜の仕事をしていた。

父は泣き言一つ言わず、そんな母を深夜に送り迎えしていた。

対向車のライトを必要以上に眩しがる。白内障の初期症状だ。もはや彼の体はぼろぼろ。認知症の運転テストでも、80点以上合格のところ、20点以下の点数しか取得できなかったらしい。

本来なら運転出来ないのだが、生活が出来なくなるし、母が仕事を辞めたくないのもあって、毎回医者に無理言って通してもらっているみたいだ。

彼の右手は常に震えている。時折、急にスピードダウンしたり、中央線に必要以上に寄る事も多い。

父は行動力皆無で自己投資もせず、最後には退職金を受け取る直前にブラックの会社に見切られ、時給千円程度のバイトの仕事で定年を迎えた。

母はそんな父に構わず好きな事をしまくった。ヤ◯ザと浮気を繰り返し、バブルの時代に父が稼いだカネを、金のネックレスやミンクのコートなど...そういった私利私欲の為に使い切った。

結果、家はゴミ屋敷の様になった。自業自得。当たり前。

申し訳無いが、私としては面倒を見てあげるのは難しいかな...兄貴に任せる。ハッキリ言って、5%くらいしか可哀想って思わないんだよね(笑)。

当然、根本を解決する方法を提示しても、全く言う事をきかない。ま、これはどこの家もそう。だから、放っておくしか無いのさ。

何にせよ、色々ありました。

今こうして、安定した精神でキーボードを叩いている自分を褒めてあげたい。よくぞ、よくぞ乗り越えた。自分で言うのもアホみたいだが、本当に強くなった。

改めて思うんだが、私の両親は確かに「この世」には適応出来なかったかもしれない。だが、そこまで罪深い事をした訳でも無いんだよ。二人とも自分なりの理屈で、自分なりのやり方で......幸せになりたかっただけさ。

だからこそ、両親を恨むとか全く無いんだよ。「恨む」という行為自体がナンセンスだからね。

でももし「許せない」という感情をぶつけたいなら......そもそも矛先はそっちじゃない。

俺は幼少期、母の道楽で何故かカトリック幼稚園に入園した。毎朝、「聖母マリアさま」を拝まされてたよ。

はは、今思えば本当に冗談みたいな人生だな。

窮鼠、猫を嚙む。いや...

窮蛇、偽神を嚙む。

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