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デスクメッセのリラックマ15(最終話)



デスクメッセのリラックマ

晴香のよくお参りにくる神社


 俺は、強風に煽られて、風圧に押されるように、南方向にトボトボ歩いていると、そこに大きな神社があった。何百段も続く階段を登り、鳥居をくぐって、神前に進んでいった。

晴香(服装自由)

 50m位先に、制服を着たロングヘヤーの女性が、胸の前で手を合わせて祈りを捧げているのが見えた。
 見覚えのある容姿をみて、はっとなった。
 「海野晴香さん」心で浮かんだ言葉が声になって発してしまった。


 女性はくるっと振り返った。彼女との距離は、至近距離だった。
「私、君のお父さんの回復をね祈りにきてね、そしたらさ、背後から人の気配を感じてね、振り返ったら君がいて、もうびっくりしたのよ!」
 よく見ると、リラックマのぬいぐるみ、リランが彼女の胸ポケットから顔を出してたんだ。
あっーーー!



 新川竜司さんのオペが終わって、担当医の説明を聞いた拓也さんは、全身から血の気が引いて、夢うつろな状態に陥って、病院を出て行ってしまったの。私の心の安全装置は、警報を鳴らしまくっていたのね。偶然にも病棟の患者さん達は、みなさん安定していて、所謂凪の状態だったので、特別外出の許可を頂いて、慌てて学校の制服に着替えて、いきつけの神社に向かって、街中を疾走したのよ。そうだ、お守りのリラックマ、リランを胸ポケットに入れておこう。



 神社の階段をかけ上げって、一心不乱に新川竜司さんの病気平癒をお祈りしてたらね。背後から人の気配を感じて、振り返ってたのね。何というタイミングなの?


 竜司さんの息子さん、つまり拓也君がいたのよ。しかも、胸ポケからコリンが顔を出してたの、もう、頭の中が真っ白になったの。
あっーーー!



 二人は声を揃えて「デスクメッセのリラックマ!」余りも息がぴったり過ぎて、世界の時間が止まったんだ。数ヶ月、音信不通だった二人を見て、リラン・コリンの二人もニコニコ笑顔。
 晴香が両手を広げて世界最高の笑顔を投げかけていた。俺は迷わずに晴香の胸に飛び込んだ。

 俺達は溶けてしまいそうなハグをしたんだ。リランとコリンも、二人のいきなりのハグのせいで、強制的にハグをしてしまったのだw
   改めて、二人揃って、いや、4人揃って親父の病気平癒の祈りを捧げたんだ。


 晴香は、一度病院に戻って、登校の準備をする為、神社の階段を駆け足で下って行ったんだ。

 ふと、神社の案内をみると、縁結びと書かれていた。縁は人の努力によって結ばれるものではなくて、やはり、目に見えない糸で引き寄せられているのかも知れない。同じ教室の同じ席、そして同じ机に座っただけの俺達が、出会う要素は皆無だった。もし、父が倒れなかったら、もし、救急搬送先が別の病院だったら、もし、晴香の職場が別の場所だったら、こんな素敵な出会いはなかった筈だ。

沈む夕日に思いを馳せて




 病院に戻った晴香から、初めての直電が鳴った。二人でお参りした時間に父の採血の結果が出て、黄疸の数値が減少したので、回復傾向に推移が認められたのだ。縁結びの神様は、本当に粋な計らいをしてくれたのだった。晴香の優しくて明るい声を閉じて、ふと顔をあげた。


 高台にある神社の境内から街を眺めると、大地は黄金色に輝いていた。


 みたことのない位、大きな夕陽が優しい光を照らしながら、時間の許す限り俺達に勇気を与え続けてくれている。


 明日も明後日も、いや、この世界が続く限り倦まず弛まず、世界を照らしてくれるのだ。人生を歩むなかで、これからも、辛いことや、悲しいことに遭遇するだろう。


 沈む夕陽に想いを馳せて、今日の喜びをかみしめた。
(おわり)

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