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あの歴史上の人物も、あの企業も、みんな戦う! あなたの知らないラップバトルビデオの世界

 過去に、各航空会社の機内安全ビデオの進化の歴史とその面白さについて記事を書きました。

 本記事は、それと似た感じでラップバトルのビデオについて紹介します。

 そもそもラップバトルとは何でしょうか。ラップバトルとは1980年代にアメリカ東海岸で誕生したと言われている、ラップを用いた一種の試合(コンテスト)です。自慢や侮蔑、ほらを吹く等の挑発行為をラップにのせて双方が披露し、どちらがより技巧的で印象的であったかをレフェリーやオーディエンスが評価し勝者を決めます。相手が使った言葉も即興で踏まえながら、どれだけ言葉の選択やタイミングで相手と聴衆を唸らせる独創性を示せるかが重視され、ある意味、非常に知的な駆け引きを要求される戦いです。

 イメージを掴むために、ヒップホップモンスター エミネムの半自伝的映画「8マイル」の最後のラップバトルのシーンクリップを以下に貼ります。イメージはつかんでいただけるかなと思います。挑発合戦なので使われている言葉はだいぶ荒いわけですが。

 日本語のラップバトルは、日本語ならではのリズムや戦い方があって興味深いです。以下は、早慶RAP バトルという早稲田と慶應のラップバトルのクリップからもってきましたが、緊張感ある真剣勝負、技巧的な言葉の連射はうなります。

 こちらは、サザエさんのアナゴさんとマスオさんがもしラップバトルをしたらというパロディ動画です。パロディではありますが、日本語のラップバトルの要点がつかめて面白いですね。

 さて、今回の記事ではちょっと変わったラップバトルのビデオを取り扱います。ラップバトルは、挑発合戦であり、どちらが勝ったかを主にオーディエンスが決めるのですが、見方を変えれば説得力を競う勝負であり、そのフォーマットはディベートのようにとらえることもできます。そこで、上の早稲田と慶應の戦いや、アナゴさんやマスオさんの戦いのように、ちょうど戦ったら面白そうな人たち二人とか、あるいは、二つの陣営をラップバトルで戦わせたらどうなるか、ディベートさせたらどうなるかというパロディ動画としてのラップバトルビデオのジャンルがあります。

 例えば、以下のような、エジソンとニコラ・テスラが、もしラップバトルをしたらというビデオです。

 天才・発明王と名高いエジソンと、同じく天才と言われ、エジソンと直流電流・交流電流の優位性の勝負で確執し、論争を繰り広げたニコラ・テスラなわけですが、その確執のエピソードがラップの中に盛り込まれています。

 また、何も実在の人物に限らず、フィクションの人物同士にラップバトルをさせようというのもあります。例えば、以下は、白雪姫とフローズンのエルサのラップバトル。ディズニープリンセスたちが罵り合うのを見るのは複雑な気分です。

 次は、ハリーポッターのハーマイオニー・グレンジャーとハンガー・ゲームのカットニス・エヴァディーンとのラップバトルです。


 どちらも有名な女性登場人物ですが、脇役のハーマイオニーと主人公のカットニスの対比はあり、面白い。パロディラップバトルの特徴として、双方が罵り合う内容は、それぞれの作品をよく知っていないとわからないというところがあって、ある種のファン向けのマニアックな二次創作という趣きが伝わってきます。


 こちらは、ブルース・リーと、クリント・イーストウッドのラップバトル。最後のクリント・イーストウッドのセリフが海外のネットをざわつかせました。


こちらは、007 ジェームズ・ボンドと、ジェームズ・ボンドのパロディであるオースティン・パワーズのバトル。

 オースティン・パワーズはジェームズ・ボンドのパロディとはいえ、1960年代のショーン・コネリーと、1970年代~80年頭のロジャー・ムーアのジェームズ・ボンドへのオマージュであり、2000年代のダニエル・クレイグとバトルするのは違うのではないか。と思っていると意外な展開も。


 この一連の動画を制作している ERB のシリーズは大量にあるのですが、例えば、以下のワンダー・ウーマンと、スティービー・ワンダーの「ワンダー」バトルは、これは、、と軽く引いてしまうものの、演じているラッパー T-PAINのある種モノマネも秀逸で、このラップバトルシリーズは、YouTube時代の「ものまね王座決定戦」なのではないかと思ってしまいます。


 さて、他にもパロディラップバトルを作っている人たちはおり、スター・ウォーズの登場人物がラップバトルで戦うというシリーズがあります。以下は、スター・ウォーズのダース・ベイダーとレイア姫のラップバトル。ダース・ベイダーのフォースによる窒息パフォーマンスとか、レイア姫が好戦的なキャラなのは、初期三部作を反映していてよくできてると思います。 


 他にも、C-3POとルーク・スカイウォーカーのバトルとか。なぜ C-3PO が帝国側についているのかは、その煽りのラインを聞くとなるほど、と。


 初期三部作のレイア姫とハン・ソロと最新三部作のレイとフィンによる、ダブルス・ラップバトルもあります。スター・ウォーズのラップバトルは、二次創作として十分面白いです。


 さて、戦うのは何も歴史上の人物や、フィクションの登場人物たちだけではありません。時に、企業同士がラップバトルをするのです。以下は、10年以上前の Yahoo と Google のサーチエンジンバトル。Google の描かれ方がひどい。。。。


 こちらは、Instagram と Snapchat の写真共有SNSバトル。

 Instagram のイメージはこれでいいのでしょうか。口が悪すぎる気が。。。まさかの、SNSによる断絶問題にも触れてくるとは。


 さて、次は、歴史的な論争をラップバトルの形で再現したビデオシリーズです。経済学者、ジョン・メイナード・ケインズとフリードリヒ・アウグスト・ハイエクのラップバトルです。一回戦と二回戦があります。

 二人は1930年代に、双方が所属する組織(ロンドン・スクールオブエコノミクスとケンブリッジ大学)間の対立を代表する景気循環をめぐる論争を行います。そのため一般的には、景気対策としての財政・金融といったマクロ経済政策による市場への介入をよしとしたケインズと、市場には自由が必要として否としたハイエク、という対立したライバルとみなされています。国家統制を主張したケインズと、古典的自由主義者としての価値観が強いハイエク。まさに不倶戴天の敵でもあった二人を登場させたこのラップバトルビデオでは、その論争やそれぞれの思想や理論、政策のポイントが的確に盛り込まれており、要旨をつかむことができて、教育効果の高い(?)作品です。市場の介入と統制を唱えるケインズがパーリーピーポーとして描かれていて二日酔いに苦しんでいるのは、実際のハイエクのケインズに対する批判におけるメタファーから来ています。知識レベルだけでなく、音楽や映像のクオリティも高いところが凄い。


 こちらのビデオでは、資本主義と社会主義のラップバトル。ルートヴィヒ・フォン・ミーゼスとカール・マルクスが戦います。
 カール・マルクスは、ご存知の通り、史的唯物論に立脚し、社会主義・共産主義が到来する必然性を説いた経済学者、思想家です。対して、ミーゼスはオーストリア出身の経済学者で、前述のハイエクの師匠にあたります。現代の自由主義の思想形成に大きな影響を与えた人物です。彼の基本的な主張は、福祉国家や大きな政府は介入主義であり、またマーケットへの介入は基本的に奏功せず、それでもなんとかしようとする更なる介入を引き起こし、結果として社会主義へと導いてしまうという批判です。まさに社会主義・計画経済体制を唱えたマルクスと戦うにはもってこいの人物といえます。
 こちらは、AIER (アメリカ経済研究所)の監修で、ケインズとハイエクのラップバトルと同じ製作チームが作っており、映像と音楽のクオリティが相変わらず高い。細部にいたるまで勉強になります。

 さて、これまでラップバトルビデオというこの謎のジャンルを見てきたわけですが、個人的な暫定一位のラップバトルビデオはこちらです。

 中央銀行システムと、ビットコインの仮想通貨・暗号資産システムの戦い。連邦中央銀行とアメリカ合衆国造幣局を設立し、中央集権的な貨幣システムを構築したアレクサンダー・ハミルトンと、ビットコインと仮想通貨の父とされるサトシ・ナカモトの二人がバトルをします。
 ハミルトンはアメリカ合衆国建国の父の一人であり、独立戦争に従軍し、ジョージ・ワシントン総司令官の副官になり、34歳で初代財務長官に就任。10ドル紙幣にも描かれています。その生涯はブロードウェイのミュージカルになり、トニー賞11部門を受賞しました。対するサトシ・ナカモトは、ビットコインに関する論文を発表し、そのソフトウェアをネット上に公表して運用を開始したことで、今の仮想通貨・暗号資産によるP2P型の取引・決済を世に広めた人物です。人物と書きましたが、そもそも個人であるのか、何かの組織であるのかを含めて正体不明の謎の人物(存在)です。
 本ビデオでは、まさに、その中央銀行システムと仮想通貨システムのディベートとなっています。信用という概念によって決済を保証するのか、それともテクノロジー的不可逆性を基礎とすることで決済を保証するのか、中央集権的な権威がいるのか、分散こそが道なのか、温暖化を招く? 森林が消える? 白熱する議論を見ることができます。ハミルトンですが、合衆国と連邦法、そして中央銀行と国軍の設立に奔走し、49歳のとき、副大統領アーロン・バーとのピストルでの決闘で命を落とします。ハミルトンのその人となりと生涯がビデオで描写されています。またサトシ・ナカモトが特定の誰かというよりもインターネット上で発生した新しいシステムなのだと見ると、演出もうなずけます。おすすめです。

 このように、ラップバトルというフォーマットを使い、この二つの陣営、この二人が論争したらどうなるのだろうかと、疑似ディベートをさせるパロディ動画は色々あります。ファンも楽しめる二次創作から、分野の学びの入り口として論争の論点をわかりやすく示す手段としてもポテンシャルがあります。皆さんももしご興味がありましたら、ラップバトルビデオの世界を探索いただき、その奥深さを堪能いただければと思います。

おまけ
 過去には、珍しいビデオを紹介するシリーズとして、5Gが普及した未来の世界がどうなるか、各企業・組織がイメージビデオを作っており、その紹介をした「5G のイメージビデオの世界」という記事も書きました。こちらもご興味がありましたらご覧ください。


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