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古くからの町並みにも溶け込むロボティクスの未来

ヨーロッパの町並み

昔から好きな YouTuber の動画があります。ヨーロッパの様々な町並みを紹介していくシリーズで、ある種、懐かしい、ノスタルジックな気分にさせてくれます。(個人的には、雰囲気が「兼高かおるの世界の旅」を彷彿とさせます。)

この動画では、南フランスのサン・ポール・ド・ヴァンスを紹介しています。ヨーロッパの中でも最も保存状態が良く、美しい中世の村(コミューン)の一つです。

前職で働いていた企業は、ヨーロッパでも様々な事業を展開しており、開発拠点もモンペリエや、エストニアや、ベルファストにあったりしました。私自身もパリで研究所を設立していたので、ヨーロッパ各国に行く機会が多くありました。


様々な国や地域で動画のサン・ポール・ド・ヴァンスのような壁の厚い建物と石畳の道路に多く出会いました。ヨーロッパでタクシーに乗り、壁の厚い建物に囲まれ、このような狭い石畳の道路でバンピングするたびに、現代のテクノロジーが本当に人間中心のものになるにはやるべきことが多いなとよく感じたものです。建造物や道路、またそれを支えるインフラに対応していくにはまだまだ距離があります。古い建物の厚い壁を縫って快適に通信していくには、5GとともにWi-Fi6を組み合わせる等したインテリジェントな通信環境を構築していく努力が欠かせません。そして、石畳の道路を難なく通るにはロボティクス領域における多様な試行錯誤も必要です。


人間を中心にしたテクノロジー

古い街並み、建築があり、テクノロジーはそれらの対応に苦闘している一方で、世界のいたるところで、自動運転車やUGV、ロボットが普及し始めてもいます。

先日書いた記事で、今後のサービスやテクノロジーの開発においては「人間体験」を中心にデザインをしていくことが重要であることを述べました。


また、加えて、以前の記事で、今後のAIやロボットの開発は、「人間の心(=価値観)」を反映させた形で、AIやロボットを社会に参画させていく必要があることも言及しました。


古くからある町並みや建築のいいところを残しながらも、テクノロジーが更に進化してそれらを包摂していけるようになるには、人間的な体験を尊重する視点に基づいた技術開発がとても重要です。そして、そのようなアプローチで古い町並みの中で活躍するロボットたちも登場しています。


町並みに溶け込むPIKA

トルコのスタートアップであるBizeroは、イスタンブールでロボットによるデリバリーサービスを立ち上げています。彼らが開発したロボットPIKA(トルコ語で「共有無人配送車」の略)は、大きなホイールの2輪車で、最大時速は10km程度。30kgまでの荷物を配送でき、一回の充電で100kmを走行することができます。主にレストランからのデリバリー用途として使われています。


イスタンブールも、石畳の道が歴史を感じさせる市街を持ちますが、紹介動画では、その中をPIKAが颯爽とデリバリーを行っています。


PIKAは自律的な走行にまではいたっておらず、とはいえ、ラジコンのように人が操縦するレベルの完全なリモートコントロールが要求されているわけでもなく、ちょうどそれらの中間程度の人の指示が必要で、走行ルートは人が細かく指定することになります。ですが、それゆえに、一人のオペレーターがPIKA5台までの走行を管理することができる操作性を持っています。

動画の中では急勾配の坂もグイグイあがっていける性能を示しており、また自然に町並みや人々の生活に溶け込んだ配送を実現している印象を持ちます。

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実際の配送現場における課題

PIKAは、ヨーロッパにある町並みにもロボットがうまく溶け込んでいく姿を見せてくれます。ですが、実際の町並みは、もっと困難な課題をロボティクスの研究開発に提供しています。例えば、以前、UGVの記事で、今後実際の配送においてはどのような機能の獲得が必要となるかについて述べました。

実際の配送時の道路は、様々な傾斜、凹凸や段差、時には階段等も存在しているわけで、これらを無事に走行していくための技術の向上が段階的に進んでいきます。将来的には障害物を避けるだけでなく自らどかす、ドアを開ける、エレベーターのボタンを押す等、より多様な環境にも対応できるアームを備えた機体も登場していくことでしょう。

「階段の上り下りを可能にする技術」「多様な環境にも対応できるアーム」の2点をどう実現していくかは重要なポイントです。


階段の上り下りを可能にする技術

階段を登っていくには、UGVでは機構的な工夫が必要になります。そこでここ数年普及してきたのは、四足歩行のロボットによる階段の移動の実現です。


2020年は、福岡ソフトバンクホークスの応援団として、Boston Dynamics社の四足歩行型ロボット「Spot」が登場し、階段の上り下りやジャンプまで披露して応援をしたことで、広く一般にも知られるようになったかと思います。


階段よりも難しい問題としてハシゴがあります。内閣府総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)タフ・ロボティクス・チャレンジにおいては、ハシゴを登る多脚ロボットも開発されています。

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とはいえ、これらのような四足歩行や多脚のロボットは人としての視点から見るとなかなか馴染めない姿かたちでもあります。災害時における救助活動等においては機能性こそが重大でありますが、平時の日常的な用途としては、不気味の谷に落ちている気もするところが難点でもあろうかなと思います。


その観点でいくと、PIKAのような親しみのわく外観も大切かもしれません。四足歩行ではない、親しみのわくキャタピラー型のUGVで階段を登らせる試みもあります。慶應義塾大学は発のベンチャー企業であるアメーバエナジーが、階段を自力で登って荷物を配達するロボットを開発しています。


多様な環境にも対応できるアーム

前述のハシゴを登る多脚ロボットの動画においては、同じロボットが脚の一つをアームとして動かし、障害物を排除するデモンストレーションも映っていました。

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実際の配送の現場においては、このように障害物排除ができることは大切で、加えて、ハンドルを回す、ドアを引く等、高度な対処を行うことができるアームが必要となるシチュエーションもあるでしょう。

以下は、MIT によるセンサーによる認識と柔軟なロボットハンドで物体を掴むというソリューションです。このような技術は、硬いボトルからポテトチップスのようなこわれやすいものまで把持可能な対象を大きく広げます。


東北大学でも、とがった物や柔らかい物、複雑な形状物等、多様な物体を掴むことができるロボットハンドを開発しています。ハンドの袋の素材として柔軟な防刃生地を利用することで耐切創性・耐久性と柔軟性を両立し、対象の形に応じて変形することで高度な把持を実現しています。


正確なロケーションの把握

他にも、昔ながらの街なみの中で、どのようにロボットが自らの場所を正確に把握し、正しい目的地まで移動して配送を行うかという点も問題になるケースがあります。例えば、人口の少ない村や古くからの住宅地においては、伝統的に通りの名前や番号を持っていない場所もあります。

Googleはこの問題を解決すべく、2014年に Plus Codes というソリューションをリリースしています。これは、地球上のあらゆるエリアに割り当てられた、数文字からなる固有コードです。例えば、渋谷の忠犬ハチ公像の場所は、「MP52+J7」です。

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しかしこのコードは人間から見たら、無機質で覚えにくいという問題はあるかもしれません。そこで、同様のソリューションをより人間的にした、what3words というコードがあります。

これは、地球の表面を3メートル四方のグリッド57兆個に区切り、それぞれのグリッドに3つの単語からなる固有の「3ワードアドレス」を割り振ることで、単語3つで世界中のあらゆる場所を指定できるとした位置情報システムです。渋谷の忠犬ハチ公像の場所は、「虹・鋭い・睡眠」になります。

以下のビデオはロンドンのオンデマンド配送サービスであるQuiqupのドライバー二人が、通常の住所での配送と、what3words での配送を競ったものです。結果は、what3words での配送が電話での詳細な場所の確認も必要とせずにスムーズにデリバリーできたというものです。


このwhat3wordsは、実際に公共のシステムとして使っていくには課題もある仕組み(場所の持つ文化的意味合いとコンフリクトするようなワードが割り当てられる等)ではありますが、このようなアプローチも重要かもしれません。これらのコードは、人間と機械が共に用いることができ、ロボットを伝統的な都市や村により馴染ませ、活躍させるものになるでしょう。


終わりに

以上、今回は、壁の厚い建造物や石畳の道路が並ぶような、中世のヨーロッパのような古い町並みの中で、いかにロボットがそれらと調和して活躍していくかについて、課題や技術的な試みを紹介しました。

現代のテクノロジーが本当に人間中心のものになるためには、まだまだ試行錯誤しなければいけないトピックが多くあります。伝統や人間らしさ尊重する視点に基づいてソリューションを開発し、発展させていくことは、テクノロジー、そしてロボットが我々の良きパートナーたりえていくためにもとても重要なことだと言えるでしょう。

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