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AI ネイティブなる世代に向けて

先日、将来、必要となるデータ分析スキル、ICTスキルは何かということに関する記事を書きました。


様々なデータサイエンススキル、そして、 AI 活用が当たり前になる未来を生きる世代に対して、どのような教育を提供すべきかというのは、日々考えさせられるものがあります。

以前、以下の講演でも紹介させていただいたのですが、誰もが知っている某世界的インターネット企業の幹部の方から、こんな話を聞きました。

某グローバルインターネット企業において、シニアエンジニアに対して Deep Learning に関するトレーニングを実施したものの、当初は、良い結果は得られなかったそうです。つまり、シニアなエンジニアたちが Deep Learning の技術を使いこなせなかったと。これはなるほどと得心しました。

個人的な意見なのですが、今のAIの技術というのは、これまでのシステム開発時における常識でもあったモジュール型アーキテクチャの発想では使いこなすのが難しいと思います。システム開発について考えるときは、システムがどんな風に構成されているかを相対的・構造的に考えなければいけません。ですが、特に、Deep Learning はその学習原理がまだ数学的に解明されていない (なぜ「汎化」するのかがわかっていない)のと、 (LIME 等、Model Interpretability を確保しようとする新しい技術はでてきていますが、それでもまだ、)どのデータがどのようなAI の性能に寄与しているのかもわかりにくところがあり、ビルディングブロック的にも扱いにくい。それでも、これら AI技術はデータの学習のさせ方によって精度が大きく変わってしまう。

よく言われるITをツールとして捉える考え方、例えば「ITは結局のところツールで、それをどう使うかだ」というような考え方は、ここにおいて邪魔になってしまいます。AIをツールとして考え、モジュール型アーキテクチャや、ビルディングブロックの発想でアプローチするとうまくいきません。

これは喩えるなら「とても活きのいい大型新人」みたいなもので、最大限のパフォーマンスを発揮してもらうとシステム構成そのものを変える必要がでてくるかもしれません。その新人を中心に新しい部署を考える、みたいな感じです。つまり、Deep Learning では、「このシステムに Deep Learning を生かしたい」と考えるのではなく、「Deep Learning を中心にしてシステムを考える」ことが肝になります。

これは、更に喩えるなら、AI技術はツールではなく、ポケモンのようなもので、AI 技術を使う人には、ポケモンのトレーナーのような感じの振る舞いやマネジメントが大切になってくるかもしれません。つまり、ポケモンにどういう餌を食べさせるか、というトレーナーの基本があって、それはAI にどういう学習データを食べさせるかとうことになりますし、それは特徴量を予めつくるとか、次元圧縮するとか、プレトレーニングとファインチューニングのやり方とか、逆に変なものを食べさせないとか、偏食させない(過学習を避けるために)とか、が出てきます。ちゃんと適量食べさせるとか。むしろお腹いっぱい食べさせるとか。そしてポケモン(モデル)は進化して、時に一発ですごい進化をして、とんでもない精度を出したりする。ただ、ポケモンの細かいところは制御できない。戦いは、ポケモンに任せていくしかなく、ポケモン中心にどう戦うかを考えていくことになる。

このようにAIは、ツールではなく、様子を見ながら育てていき、かつそれが主役になっていくという面がありえます。どう育てていくかはポケモン(ネットワークやMachine Learning のテクニック)によって異なり、例えば、教師なし学習ではトレーニングデータはいらなくてもデータからノイズを取り除いていくということはありますし、オンライン学習(Machine Learning の一種の逐次学習のこと)はまさにポケモンのような進化を遂げますし、強化学習もどう育てるかという意味での与えるべき報酬の戦略は、とても重要になってきます。更には最近、はやりの Data AugmentationTransfer Learning は、まさにAIのトレーナーっぽい面を意識させてくれると思います。Ensemble Learning はブリーダー観が出てくるような気がします。
教師なし学習でノイズを除去すると述べましたが、Deep Learning の実践においては、実際の適用する問題や環境に対してシステムをロバストにしていくために、まさに逆にどうノイズをデータに混ぜて学習していくかというノウハウも広まってきました。それについては先日、以下に書きました。

これらのような、AI技術の周辺ではデータを扱うに関しても今までの考え方とは異なる、例えば、データサイエンティストという職種がありますが、その言葉の響きでは直接カバーされないような、AIトレーナーという仕事の姿が見えてきているような感じです。


Deep Learning では、「このシステムに Deep Learning を生かしたい」と考えるのではなく、「Deep Learning を中心にしてシステムを考える」ことが肝になります、と述べましたが、もしかしたら、これはジェネレーションに大きく依ることになる問題なのかもしれません。私を含めた40代以上の人は、モジュール型アーキテクチャやビルディングブロック的なアプローチに囚われてしまい、Deep Learning をなんとかしてツールとしてとらえようとする傾向があるように感じています。対して30代以下の人は、Deep Learning も、あるいは様々なクラウドサービスも、それそのものを全体のデザインに影響を与える「コアな技術」として考え、システムを構築できます。「すべてのコンピューターサイエンスの教科書は Machine Learning を中心に書き直すべきだ」と考えている若い研究者の方に会うときもあります。Machine Learning やDeep Learning の特性を前提にAIをいきなり適用する「AIネイティブ」という世代が求められているのかもしれません。


新たな技術を「ツール」や「一つのファンクション」としてとらえると、既存の枠組みの中に押し込んでしまうため、うまくその驚異的なパフォーマンスを引き出すことができず、エンジニアリングの価値を発揮しきれなくなってしまうでしょう。その価値を引き出せる若い世代の活躍が必要です。そして人生100年時代、旧来の教育を受けてきた世代にも従前の、長い間常識だとされていたり、この業界の基礎だとされていた知識の枠組みや発想にとらわれない、新たな学びが重要となっています。今後、自分の活動によって得られる知見を教育分野にも生かしていきたいと考えています。


追記

上記のように Deep Learning (深層学習) Reinforcement Learning (強化学習)等に代表されるAI 技術を、「ツール」として捉えて既存の枠組みの中に押し込んでしまうのではなく、そのポテンシャルを引き出せるよう、AIを経営の中でどう位置づけ、どう戦略を策定し実行していくべきか。これは企業にとって重要なテーマになるのですが、それに対する一つのアプローチ「AI Canvas」の紹介記事を以下に書きました。こちらも合わせてご覧ください。



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