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数分で、世界初のデジタル国家 エストニアを概観

エストニアについて書きます。

エストニア。北ヨーロッパに位置する人口約130万程の国家です。人口の規模でいくと埼玉県 さいたま市とほぼ同じですが(県ではなく、市と同じ)、国土は九州の1.2倍程の大きさです 。北はバルト海を挟んでフィンランド、東はロシア、南はラトビアに囲まれ、標高の最も高いところで318メートル程という平らな国で、全ヨーロッパの中でなぜか一番隕石が落ちた跡(クレーター)が多いという不思議な一面もあります。

エストニアは、欧州におけるオイルシェールの産出国として古くから知られ、第二次世界大戦中はオイルシェール産業の特需で成長した国でした。しかし、今やヨーロッパのシリコンバレーとも呼ばれています。2003年に創業した Skype は、エストニアの代表的サクセスストーリーとして認知され、現在は、PlayTech、TrasnferWise や Taxify 等、4つのユニコーン企業があります。他にも数多くのユニークなスタートアップが存在していますが、エストニア内のマーケットが小さいためにスタートアップ企業は最初から他国での成長を戦略の中に含めていないと立ち上がっていかず、それが他の国のスタートアップに比べて競争力を身に着けさせているとも言われています。

エストニアの評価はヨーロッパのシリコンバレーにとどまりません。エストニアは、世界最初のデジタル国家とも評され、オンライン投票、国民IDカードから e-residency まで、様々なデジタル施策を行っています。

オンライン投票ですが、エストニアは2007年に世界で初めて議会選挙に関してインターネットを利用した電子投票を行っています。現在、3分の1の国民がオンライン投票を行っています。投票がオンライン化されているだけでなく、議員に対するインターネットでの議会出席も許可されているため、議論への参加や投票の時以外は、議員が議会へ直接実際に出向く必要もありません。驚くべき先進さです。

選挙、議会だけでなく、公共サービスのほとんどはデジタル化されています。エストニア政府によると、公共サービスの99%がオンライン化されており、24時間365日サービスをいつでも利用することが可能です。自動車免許も、パスポートもWebから申請を行うことができ、車の売買はもちろん車両登録も、家の購入もオンラインで可能です。結婚も離婚もオンラインで完結することができます。その中心となっているのは国民IDカードです。

国民IDカード、これは15歳以上のエストニア国民のほとんどが持つデジタルIDと紐付いたカードで、行政サービスのほとんどが個人端末から済ませることが可能です。実際に重要なのはプラスティックのカードではなく、電子署名つきのデジタルIDです。国民は、このIDを用いて、納税を行い、オンラインバンキングを使います。納税は、約95%の人がオンラインで行い、5分ほどしかかかりません。また、このIDカードは運転免許証にもなり、ショッピングの際のポイントカードとしても機能します。更には、自身の健康レコードにもアクセスできます。99%の処方箋は電子で発行されており、IDと紐付いた健康レコードに、かかった医者、受けた治療のすべてが記録されています。このデータはすべての医者に共有することができ、また所有者本人がいつでもそのレコードの内容を確認できます。

特に小規模国家では、この国民IDがもたらす効率性はとても大きく、年間GDPの2%程の支出の削減に役立っています。人員や紙等のコストは4分の1になり、窓口の人員は10分の1ほどになったそうです。これらの成果より、国家がどのようにデジタル化をしていくべきかの模範と認識されており、それもあってEU の IT Department もエストニアに設置されています。

さて、エストニアはなぜここまでデジタル化された国家になったのでしょうか。エストニアは元々ソ連の一部でしたが、1991年、ソ連から独立します。その後、経済の近代化を急速に進めます。技術への投資が経済成長のドライバーとなると認識した彼らは、2000年に全ての学校にコンピューターを設置、7歳からのプログラミング教育を開始します。また、子供たちばかりでなく、成人の10%にコンピューターの無償教育も開始し、国民のデジタル化教育を徹底します。それもあり、UNESCOの統計では、2016年には国民の91%がインターネットを使う程になっています。そこまで利用が普及したエストニアにおいては、インターネットアクセスは基本的人権としてとらえられており、国土のほとんどどこでも(たとえ森の中でも)クリアにつながるWifiが整備されているそうです。

これらの努力もあってか、当初、一人当たり購買力平価GDP が1993年は、7429 USドルでしたが、2019年は3万5718 USドルへと上昇しています。ランキングとしては現在、世界42位ぐらいに位置しています。(日本が31位。ちなみに、ルクセンブルクが3位。シンガポールが4位)。

エストニアのデジタル国家としてのもう一つの大きな特徴が、e-residency program です。
e-residentcy は居住地に仕事が依らない、デジタル起業家やプログラマー、ライター等を対象としたプログラムで、EUに実際に住んでいなくても、会社を設立することが基本的に許され、EUマーケットからの便益を享受することができます。e-residency を提供したのはエストニアが世界で初めてです。既に 5万人をこえる応募があり、2018年時点で、3万5000人以上が登録しています。
更に、エストニアは、e-residency に続く施策を打ち出そうとしています。ヨーロッパで現在増え始めている、スキルの高いデジタルノマド(ヨーロッパにおいては、PCとネットワークがあれば働ける仕事で、定住せず、旅をしながら働く人たち)を呼び込む、デジタルノマド用のVisa制度を検討中です。もちろんこれもまた、世界初の試みです。2019年内には開始される見込みで、これにより毎年1400人程のデジタルノマドがエストニアで働き始めると試算をしています。

以上のように、エストニアは、デジタル国家の最先端国家として様々な施策を展開し続けています。それもあってエストニアに関する話題は、日本に住む我々を圧倒するような進歩的なトピックが多く、あまり参考にならないのではないかと思いがちです。しかし、実は、エストニアは、過去20年において人口が19%程減少しており、国家としてどうサバイバルしていくかという難題にトップランナーとして走ることで立ち向かってきたのです。これから人口減少を含めた多くの難題に挑み続けなければならない我々にも学ぶべきところは多くあるはずです。

余談
上記で触れたデジタルノマドに関しては、以下の Deutsche Welle TV のドキュメンタリーを見ていただくとイメージがわきやすいです。


また、以前に、インド バンガロールを概観する記事を書いています。ご興味がありましたら、こちらもどうぞ。


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