IU(아이유)“eight(에잇)”は喪失と向きあう泥臭い凛々しさが光る名曲だ


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 韓国のアーティストIU(아이유)が発表した新曲“eight(에잇)”を繰りかえし聴いている。プロデュースとフィーチャリングにBTS(방탄소년단)のシュガを迎えるなど、リリース前から大きな注目を集めていた曲だ。

 聴いてみると、シンプルなプロダクションが耳に入ってきた。アップテンポな4つ打ちとクリーントーンのギターを基調に、IUのパワフルかつ繊細なヴォーカルを前面に出している。凝ったアレンジや奇を衒う展開よりも、メロディーの親しみやすさと譜割りの気持ちよさで勝負する曲に聞こえた。

 そのようなサウンドに支えられた歌詞に、筆者は感動を隠せなかった。《いまは幸せ? やっと幸せになった? そのままだよ私は すべて失ってしまった気がする(So are you happy now Finally happy now are you 뭐 그대로야 난 다 잃어버린 것 같아)》という始まりの4行を聴いて、IUの喪失を想わずにいられなかったからだ。

 ここ数年でIUは多くの親友を亡くしている。2012年の“복숭아”で愛情を捧げるほど親しかったソルリ、そのソルリを介して仲良くなったハラ、IUに“우울시계”(2013)という曲を提供したジョンヒョンが自らこの世を去ったのだ。

 こうした背景を知ると、“eight(에잇)”は亡き親友たちへ向けた曲にも聞こえてくる。先に引用した始まりの4行も、天に昇った3人に対する呼びかけではないか。
 そう感じた筆者からすれば、“eight(에잇)”は夢のなかで亡き親友たちに会うIUを描いた歌に思えてならない。現実世界ではさまざまな苦難に見舞われたのだから、せめて夢や記憶のなかでは笑っていてほしい。そんな切実さを“eight(에잇)”は滲ませる。それは以下の歌詞からも読みとれるはずだ。


《美しかったその記憶のなかで会おう 私たちはお互いを枕にして横になって 悲しくない物語を共にする 憂鬱な結末なんてない 私は永遠にあなたとこの記憶のなかで会う(아름다웠던 그 기억에서 만나 우리는 서로를 베고 누워 슬프지 않은 이야기를 나눠 우울한 결말 따위는 없어 난 영원히 널 이 기억에서 만나)》
《こんな悪夢なら 永遠に覚めないでいるよ(이런 악몽이라면 영영 깨지 않을게)》

 そう歌われる“eight(에잇)”だが、MVはIUが夢から覚めてしまうところで終える。この幕切れはまるで、いくら《Forever we young》と歌っても、この世に生きるIUは若いままではいられないという現実を突きつけるかのように見える。永遠に若くいられるのは、若くしてこの世を去った親友たちだけなのだ。だからこそ、IUは何度も夢を見て、そのたびに目覚め、生きていかねばならない。

 そうした現実が待っているから、覚める前にIUは涙を流したのだろうか? あるいは、親友たちに会えた感激ゆえの涙なのか?
 筆者は両方だと思う。誰も完全には理解できない複雑な生き物が人間なのだから、涙の理由だって必ずしもひとつではない。そのような機微を詰めこんだ“eight(에잇)”は、喪失と向きあいながら、何とか前に進もうとする泥臭い凛々しさで溢れる名曲だ。



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