BVNDIT(밴디트)の“Cool”は、男になるだけが生きる手段じゃないと教えてくれる


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 BVNDIT(バンディット)は、MNHエンターテインメントに所属する韓国の5人組グループ。2019年4月にデビューしたばかりの新人で、同年11月にはファースト・ミニ・アルバム「BE!」をリリースしている。
 筆者にとって、彼女たちは可もなく不可もなくという感じの存在だった。ダンスと歌のレベルは高く、曲も良い。“Hocus Pocus”や“Dumb”などのMVでうかがえる表現力も悪くない。ただ、飛び抜けたところがなく、K-POPでよく見かける典型的なグループのひとつとしか認識していなかった。

 しかし、先日発表された新曲“Cool”には強く惹かれた。これまで多かったEDMやダンスホールの要素は後退し、チアリーディング的なかけ声が飛びだすバブルガム・ポップなのだ。耳馴染みの良い歌メロに、溌剌とした彼女たちのヴォーカル。従来の路線とは異なるサウンドである。
 プロダクションも非常に興味深い。TR-808風のヘヴィーなベースと細かく刻むハイハットを組みあわせたビートは、典型的なトラップそのものだ。それだけを聴くと、いまにも2チェインズがノリノリでラップを始めそうな、怪しいビートにしか思えない。だが“Cool”は、そこにさまざまな音色を乗せることで、親しみやすいポップ・ソングに仕上げている。等間隔で刻まれる抜けのいいスネア、同じフレーズをひたすら反復するピアノ、キーの高い彼女たちのヴォーカルなどなど。音数の多さではなく、適切な音選びによって曲の表情を決めていく上手さが光る。

 MVも見逃せない。いつものカッコよくキメる姿ではなく、コミカルさを前面に出している。なかでも2:18あたりの無秩序に踊る(というより暴れている)彼女たちは、統率されたダンスが多いK-POPのMVとは一線を画する。それをK-POPのクリシェに沿ってきた彼女たちがやるのだからおもしろい。意図したのかは不明だが、結果的に他のK-POPグループと差別化することに成功している。

 矢継ぎ早に姿を変えるダンサーが街で踊るというストーリーもMVの魅力だ。ある時は上半身男性で下半身は女性、またある時は上半身女性で下半身は男性になったりと、ダンサーの姿はジェンダーのステレオタイプにとらわれていないように見える。それは女性たちの連帯を促す“Cool”の歌詞と相まる形で、とても大切なメッセージを発している。自分がやりたいことをやり、着たいものを着る。周囲の目を気にせず自由に振舞ったら、灰色の人生は少しだけ虹色に近づくかもしれない。そんな優しい励ましを感じた。
 これがガールクラッシュ系のグループによく見られるマッチョな女性像ではなく、緩い雰囲気を通して示されるのは重要だと思う。男性性的要素を身につけることだけが社会で生きていく手段じゃないと、暗に伝えているからだ。強いて言えば、宇宙少女“Boogie Up”のMVで描かれる表象と近いものを見いだせる。ただ、男性が登場しない“Boogie Up”のMVに対し、“Cool”のMVは男性も登場する。そのおかげで、後者は女性以外にもあてはまるメッセージになっている。

 とはいえ、彼女たちが“Cool”で披露したイメージチェンジは、まったく新しい手法ではない。Red Velvetがいるからだ。強烈かつ魅惑的な色のレッドと、かわいらしさや滑らかさをイメージさせるヴェルヴェットな側面が合わさるこのグループも、型に嵌まらないさまざまな表情を見せてきた。
 それでも、“Cool”に多くの者を惹きつけるインパクトがあるのは間違いない。かつて彼女たちは、〈私たちは何をしてもドラマティック(우린 뭘 해도 드라마틱 해)〉(“Dramatic”)と歌った。このフレーズにふさわしいポテンシャルの持ち主であることを、“Cool”は雄弁に示している。




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