宇宙少女(우주소녀)「For The Summer」



 韓国のグループ、宇宙少女がスペシャル・アルバム「For The Summer」をリリースした。オリポップやイ・ジヘなど、K-POPファンにはおなじみの作曲家が多く参加している。タイトルからもわかるように、太陽が燦々と輝く夏に向けて作られた作品だ。
 結論から言うと、上質なポップ・ソングばかりで驚いた。特に耳を惹かれたのがベースだ。EDM的なサイドチェインを駆使したシンセ・ベースではなく、ディスコ/ブギーに通じる肉感的なベースが際立つ。

 たとえば、先行曲の“Boogie Up”。歯切れの良いカッティング・ギターで幕を開けるそれは、シックの曲をハイテンポなハウスにリミックスしたようなサウンドだ。シンコペーションするベースがグルーヴを牽引し、雲ひとつない青空にリスナーの心を舞いあがらせる。サビでヴォーカルを抜く展開は、ブラックピンクの“BOOMBAYAH”など、最近のK-POPでよく見られるものだ。そういう意味ではモダンなプロダクションと言えるが、ギターやベースからはレトロな匂いも漂う。
 ハウス好きの筆者からすると、フレンチ・ハウスを見いだせる曲でもある。具体的には、カシアスの“1999”や、ダフト・パンクによるイアン・プーリー“Chord Memory”のリミックスなどだ。ビルボードがジャスティスにフレンチ・ハウスのキュレーションをさせたりと、再評価の機運もあるだけに興味深い。

 ハウスといえば“눈부셔(眩しい)”もおもしろい。これまたディスコ/ブギー風のカッティング・ギターがフィーチャーされ、ラテン風のブラスとピアノも印象的だ。そのサウンドはどことなくイタロ・ハウスを想起させるもので、ブラック・ボックスの“Ride On Time”が聴きたくなってしまった。イタロ・ハウスをポップ・ソングの形式に落としこんだという意味では、ペット・ショップ・ボーイズの“Paninaro '95”も引きあいに出せる。とはいえ、ビルドアップ→ドロップといったEDM的な構成も見られる“눈부셔(眩しい)”のほうがモダンなのは言うまでもない。

 「For The Summer」はヴィジュアル面も魅力が多い。それを象徴するのが“Boogie Up”のMVだ。歌詞を読むかぎり、この曲は都会から遠いパラダイスで楽しむ歌らしい。そんなテーマを強調するかのように、MVの撮影は沖縄でおこなわれている。〈見たこともない新しい世界 そこであなたと私(알 수 없는 새로운 세계 그 곳에 너와 나)〉という一節など、カップルを思わせる言葉も登場する。これらを総合的に考えれば、“Boogie Up”の歌詞は〝パラダイスで自由に楽しむ2人〟を描いているのがわかる。

 このことをふまえて“Boogie Up”のMVを観ると、興味深い側面が浮かびあがってくる。〝2人の男女〟が一切出てこないのだ。2人の場面が登場しても、それはすべてメンバー同士によるもの。海辺を走ったり、プールで遊ぶのも、やはりメンバーたちだけである。
 MVが見せる〝楽しみ〟に、男女の恋愛は入っていない。歌自体は恋模様の一場面を紡いでいるにもかかわらず。こうした構成は、男女二元的なジェンダー観を打破していくものだ。もちろん、曲中における〈私たち2人でゴー !(우리 둘이 Go !)〉の2人は、〝男女〟も該当する。重要なのはそれだけじゃないということだ。そこに気づけば、“Boogie Up”の歌う〈新しい世界〉がどんなものか見えてくるだろう。

 そうした革新性を、マッチョではない形で表すのも素晴らしい。世の固定観念に挑む姿勢を打ちだす場合、険しい表情で激しく踊ったり、パワフルな歌唱を披露したりと、〝強さ〟をアピールすることが多い。だが、MVでの彼女たちは、基本的に笑顔だ。ダンスも激しいものではなく、言ってしまえば緩い。しかし、そのような表現でも固定観念にひびを入れることは可能なのだ。それを示すことで、表現の多様性を押し広げた功績は大きい。




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