ドラマ『トップボーイ』シーズン4


ドラマ『トップボーイ』シーズン4のポスター


 さまざまなところで言ってきたことを繰りかえすようで申し訳ないが、ドラマ『トップボーイ』シーズン3(2019)は傑作だ。イースト・ロンドンのサマーハウス団地を拠点とするドラッグディーラーのダシェン(アシュリー・ウォルターズ)とサリー(ケイン・ロビンソン)が中心の物語による鋭い社会批評は滋味で溢れ、現実世界の問題と地続きの精巧なフィクションとしての輝きを放っている。
 『Bullet Boy』(2004)といったイギリスのフード・フィルム史と共振するぶれるカメラやカット割りの少なさ、愛とポルノの違いを上手く描きわけた性描写など、映像面でも見どころがたくさんある。なかでも後者は、同じくあえて暴力的性行為も描くことで、古臭い男らしさが抱える性差別的側面を浮き彫りにしたドラマ『ノーマル・ピープル』(2020)の映像表現を先取っていたという意味でも、もっと高く評価されていいポイントだと思う。

 そのような傑作に続くシーズン4が2021年3月にネットフリックスで配信された。スペインやモロッコも舞台になる物語は壮大さが増したように見えるものの、基本的にはこれまでのシリーズを深化させた要素が目立つ手堅い内容だ。貧困、暴力、犯罪、階級、ギャング抗争という問題を取りいれながら、重厚な人間ドラマを描いている。
 本作から滴り落ちる魅力は実に多い。特に言及したいのは、経済や教育など多くの面で恵まれていない生活が及ぼす影響を示す脚本だ。とりわけ、いますぐ治療を必要とする状態に妹がなっても、ティア(コーニャ・トッカラ)が救急車を呼ぼうとしないシーンは見てほしい。ティアが救急車を呼ばないのは、両親のネグレクトに社会福祉機関が気づき、そのことで妹と離ればなれになってしまうと恐れたからだ。この描写は、そういった光景を生みだす社会のみならず、困窮する当事者に寄りそいきれていない福祉制度の欠陥にも批判的眼差しを向けている。ただ社会問題をネタにするのではなく、問題に対してどう感じているかもしっかり示す誠実さは、社会派と言われる作品を作るうえで多くのクリエイターが参考にすべきものだと思う。

 役者陣ではカノことケイン・ロビンソンのパフォーマンスが素晴らしい。前シーズンで長年の仲間だったドリス(ショーン・ロムルス)を殺めた葛藤に苦しみながら、そんな苦しみをもたらした生活から逃れられない辛さも抱えたサリーの複雑な心情を見事に表現している。細かな目つきの変化で怒り、後悔、哀しみ、さらにはまだ名前がない情動を伝える演技力は感嘆ものだ。
 アシュリー・ウォルターズの演技も特筆したい。お金や暴力などあらゆる手段を用いてギャング生活から脱しようと試みるが、足掻けば足掻くほど暴力の世界に引きずりこまれるという蟻地獄のような現実に憔悴していくダシェンを演じきっている。

 ネットフリックスの公式ツイッターによれば、『トップボーイ』は次のシーズンで最後だという。壊れた社会構造を批判しつづけてきた物語は、どのような着地を見せてくれるのか。それを楽しみにできるだけのクオリティーを本作は備えている。


※ : 下記の予告映像はシーズン2となっていますが、これは契約上チャンネル4制作のシーズン1と2がネットフリックスで視聴できなくなる可能性があるため、ネットフリックス側としてはシーズン3を初作にしたいという意図からこうなっています。大人の事情ってめんどくさいですね。



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