『シスターズ』『トップボーイ』『アス』 〜 “階級”の残酷さと無慈悲を描くドラマ/映画


ドラマ『シスターズ』のポスター
ドラマ『シスターズ』のポスター


 2022年9月6日、イギリスの保守党で党首を務めるリズ・トラスが第78代首相に就任した。就任後すぐトラスは組閣に取りかかり、主要閣僚を順次発表していった。
 トラスの人選は大きな注目を集めた。ガーナ系のクワーテング財務相、ケニアとモーリシャスがルーツのブレイバーマン内相といった面々を登用し、多様性をアピールしたのだ。

 白人男性以外が要職を担うトラス政権は、一見すると進歩的に見えるかもしれない。しかし、閣僚の生い立ちに目を向けると、ある傾向が浮かび上がってくる。ケンブリッジ大学出身のクワーテングやブレイバーマンを筆頭に、いわゆるエリート層の人材が多いということだ。
 移民やマイノリティーといった社会的立場が弱い人たち全体を守らず、自身の努力によって成功した個人を重視してきた保守党(緊縮政策で庶民を踏みにじり、ブレグジット問題で国民の分断を顕在化させたキャメロン政権などが代表例だ)の思想をふまえると、エリート層が集うのは当然と言える。保守党がクワーテングやブレイバーマンを重用するのは成功者だからであって、移民というアイデンティティーはさほど重要ではないのだ。ボリス・ジョンソン前英国首相が能力で受けいれる移民を選別する男だったことからも、それは明らかだろう。
 トラスの組閣は、移民だから苦しんでいる、マイノリティーだから抑圧されているといったイメージにそぐわない。もちろん、人種や性的指向を理由とした差別は現存する。だが、トラス政権の顔ぶれから筆者が感じとったのは、経済的格差が広がるばかりの現在において、階級という視点の重要性が高まっている現状だった。

 この雑感と似た感性は、筆者のフィールドであるポップ・カルチャーでも見受けられる。たとえば、2022年9月からtvNで放送されているドラマ『シスターズ』は、貧しくも懸命に生きてきた3姉妹が富と名声に恵まれた権力者たちの思惑に振りまわされる物語だ。そうした側面が特に顕著なのは、大物弁護士で政治家のジェサン(オム・ギジュン)の娘・ヒョリン(チョン・チェウン)とイネ(パク・ジフ)の関係性だ。絵画の才能に恵まれたイネは自身の努力によって名門芸術学校に進学するが、ヒョリンに才能を利用されてしまう。ヒョリンの代わりにイネが描いた絵で、ヒョリンはコンクールで賞を獲得するのだ。その見返りとして、イネはジェサンとその妻・サンア(オム・ジウォン)に認められ、留学のチャンスを得る。
 才能があっても、不安定な立場に追いこまれやすい環境であれば、富裕層に才能を利用されてしまう。これもイネが経済的に恵まれていれば起きなかったことであり、そういう意味では階級の話である。

 『シスターズ』以前の作品にも、階級の恐ろしさを前面に出したものは多い。黒人差別の問題を示しつつ、黒人であっても他者を踏みにじったうえで富に恵まれているなら、考えなおしたほうがいいと警告したジョーダン・ピール監督の映画『アス』(2019)。レズビアンという属性よりも、生まれ育った環境次第で運命が決まってしまう社会構造に苦悶するジャック(ジャスミン・ジョブソン)がメインキャラクターを担うドラマ『トップボーイ』シリーズ(2011〜)。これらの作品も、階級がもたらす抑圧や搾取をまざまざと見せつける。

 政治、新聞、ファッション誌、カルチャー誌、文芸誌。さまざまところで庶民やマイノリティーに寄り添う姿勢を見るようになった。しかし、その姿勢に隠された眼差しには注意すべきだろう。こういった場でアピールしている者は、高学歴で人脈や権威(社会学者のピエール・ブルデューが言うところの文化資本)に恵まれたエリート(やエリートとの繋がりが強い立場)であることも少なくない。
 このような者たちが述べるキラキラとした寄り添いや多様性は、どういったな意味を持つのか? あるいは、キラキラとした言説は誰かの犠牲によって成り立つものではないか? そういった批評眼を、庶民である私たちは忘れてはいけない。エリートや権力者は想像以上にずる賢く、無慈悲なのだから。



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