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数字でドライブする経営(後編)

皆様、こんにちは!
テックタッチ株式会社のCFOの中出 昌哉(なかで・まさや)です。(@masaya_nakade

最近、色々な経営者の方と数字を経営にどう活かしているかという意見交換をしたり、テックタッチ社内での経営の舵取りの際も、数字を使った経営判断をすることが多くなってきているので、「数字でドライブする経営」についてのナレッジシェアを目的に、noteを書いてます。

前回、「数字でドライブする経営(前編)」の続編という形になります。なお、前回のnoteはこちらです。
https://note.com/masaya_nakade/n/ne230ff389cbb

今回のテーマは、所謂FP&A(Financial Planning & Analysis)で、この言葉に馴染みがある人も、ない人もいると思いますが、超簡単にいうと、数字で経営分析するぜ!という内容です。
CFOだけではなく、経営陣の全員が当該事項を意識しながら経営に臨むべき事柄で、色々な人の参考になったら嬉しいなと考えています。

前職で、プロ経営者の方(J&Jの日本社長も務められた事がある方)と一緒に取締役会に出ている時に、彼が言っていた言葉で、今も僕の金言となっているのが、「経営陣の通信簿は『利益創出』で決まるべき」という言葉です。
スタートアップ企業だと、なかなか意識するタイミングが少ない(かつ、SaaSだと特にトップラインにしか意識がいきづらい)ものの、常に忘れてはいけない言葉だと個人的には思っています。
トップラインを考えられる事業部長・執行役レベル(事業の執行をしているので)と、もっと目線を上げて、利益を意識しながら経営できる取締役レベルの差は、ここが一つの要素だと思っています(他にも沢山ありますが)。将来経営に興味がある方は理解して損はない事柄だと思っていて、本noteがその第一歩の参考になれば嬉しいなと思います。
(ちなみに、前述の彼に言わせると、僕の経営者としての通信簿は、10点中3点ぐらいになってしまいそうですがw、今でもたまに思い出す大尊敬している経営者の一人です)

まずは、目次ですが、以下の通りです。(1~2は前編に記載されてます)

1. 市場分析
      1.1 そもそもの市場規模の推定
      1.2 市場のセグメンテーション
      1.3 TAMを拡げるための市場分析
      1.4 本当の市場の大きさ
      1.5 上記の数字の使い方

2. 競合分析
       2.1競合の動向分析(ヒト・モノ・カネ)
       2.2 今後の戦略・戦術予測
       2.3 数値から見る他社経営の良いところ・悪いところ
       2.4競合ではないが参考になる企業の分析

3. 事業の見える化、セグメント
       3.1 事業のボトルネック/オポチュニティの見える化
       3.2 事業のKPI設定・進捗確認

4. 上場マーケットの分析

5. 経営リソースアロケーション/バーンコントロール

6. 全体を通して

それでは、本編に入ります。


3. 事業の見える化、セグメント

3.1 事業のボトルネック/オポチュニティの見える化

冒頭に記載した通りですが、
「経営陣の通信簿は「利益創出」で決まるべき」についてを改めて考えると、FP&Aは必ず通る道だと思います。

適当な例で説明をすると、
例えば自分が株式投資をするときに、今後30年間ずっと赤字のビジネスに投資する人はなかなかいないと思います。ただ、一時的な赤字で、5~10年後に大きな黒字が出る見込みがあれば、投資する人は増えるのではないでしょうか。
スタートアップも本来的には同じなので、

  • 短期的な利益ではなく、長期的な利益創出を意識

  • 例えば、同じ3倍成長でも、100億円赤字を使った達成と、10億円赤字で達成するのでは全く違う(当たり前)

  • 利益を出すというのは、(売上-コスト)なので、勿論売上もすごく重要な要素。トップラインの成長が悪いと「市場が小さい」と判断されて評価もつかないので、トップラインの売上は所与として必要だが、適切なバランスを考え続ける必要がある

  • T2D3を実現している日本企業にも、相当な投資で成り立っている会社は存在し、その中でトップラインにだけアテンションが当たるのは問題(最近のRule of 40の流れは、個人的には当たり前)

  • では、上記の思考トラップにハマらないためにすることは、FP&A

  • 「長期的な利益創出」を意識すると、FP&Aとしてやることは、

1. 長期的な事業計画を作成(本気の魂のこもった計画でかつ現実的にやれそうで、ストレッチがかかっていて、ワクワクする計画で、実行性もある)
2. トップライン(売上高)とボトムライン(利益)が両方ある計画にする
3. 上記の事業計画から、インパクトが大きいレバーになる場所を特定する(レバーを探すために細かくツリー上にブレイクダウン)
4. 上記のインパクトレバーを押すために、更にブレイクダウンする
という流れになるかと思います。

1と2(長期的で売上利益がある計画を作成する)については、直観的だと思いますので、わからない方はいないと思いますが、図示してみると以下の様な感じでしょうか。

長期計画

売上高・費用共に、ブレイクダウンがしっかりあり、長期的である必要があると思います。肝は、数字遊びにならないことで、この計画にしっかり魂が乗っているという状態を作るのが何よりも重要だと思います。魂が乗らないなら、年数を少なくすれば乗りやすいと思います(さすがに一年後の計画に魂が乗らないということはないと思うので。その延長で、三年だと例えばどうでしょうか。なお、魂がなく、えいやっ!で、適当に作った計画は意味ないので、細かくても意味はない気がします。)

また、3.の「インパクトが大きいレバーになる場所を特定する」については、最近入社した経営企画の西田がいい感じの図を作って、社内で説明していたので、それをパクリますがw、以下のようなイメージです。

レバーの特定

全てがMECEでツリー構造にブレイクダウンしていくイメージです。もっとイメージを付けるために、具体例を出していきます。

ブレイクダウンツリー

3のレバーブレイクダウンで重要なポイントは、全てをツリー構造に分解しているということと、それをした上で、重要な点を洗い出すという点です。
ツリー構造にしていくと、色々な数字が出てくると思います。例えば、(数字は適当な例ですが)商談から契約までのConversion Rateが5%、Sales Lead time(SLT)が100日等です。数字が無数に出てくるので、数字に溺れかけるとは思います。。。
次に、この数字を見て、どこが今足元の課題か、将来の問題はどこかを理解するというのが、このプロセスの一番の肝の部分になります。

では、数字を見た時にどこが問題と感じられるかは、以下のようなステップを踏んで、あたりを付けることがオススメです。

A. インパクトがある
B. 過去の数値推移を見る
C. 他社の数値を教えてもらって比較する
D. センスを磨く

Aは当たり前ですが、インパクトがある所にフォーカスするということです。
例えば、ファネルで見るような数字の場合、大体一番最初のファネルに注目が集まると思います。これは一番最初のファネルなので、インパクトが大きいと感じるからですが、実際正しい場合が多いと思います。(余談ですが、マーケターの方と話している時に、「商談数が少なくなってくると、毎回一番最初のファネルであるマーケティングに焦点があたるからつらい。」と聞いたことがありますが、言い得て妙だなと感じました)
また、ツリーにするメリットは、全体を俯瞰して見られるので、「あ、ここがインパクト大きいな」というのが一目でわかる点だと思います。

Bは、過去の自社の数値の推移を見ることで、示唆になることは多いです。例えば、「あれ、過去この数字だったのに、悪化しているな」というのは一番わかりやすい例で、「さすがに過去出来ていたこの数字ぐらいは達成しようぜ」といったインプリケーションになることが多いのと、毎年改善が進んでいれば、「これぐらいは今年も改善したい!」のような形でアタマの整理にもなると思います。

Cは、他社のベンチマークを理解するということなのですが、めちゃくちゃオススメです。自社のダメなポイントを直接的に比較できます。勿論ドンピシャで全く同じ事業はないのですが、N数を増やす事で、うちもこれぐらいは目指さないとダメだというターゲットが作れると思います。これをどうやって達成するのかを考え始めると、更に細かい数字が必要になったりしますが、ダメなポイントの当ては付けられると思います。

Dの「センスを磨く」は「ずっとFP&Aをやっている人と話すと、ここが問題そうとかのセンスがつく」という話はほとんどの人が言っているので、数をこなしていたら勝手に身につくと思います。第六感的な感じですかね。誰か少人数の人が数値をずっと見ている状態を作ることで担保できる気がします。

ここで補足として、重要なのは、B「過去の数値推移を見る」をやろうとした時に、例えば、
「よし!シリーズB後半に入ってきて余裕がでてきたので、今から数字分析をしよう!」となったとしても、データがなくて過去の分析ができなかったり、分析実行するだけでも思い立ってから1~2年後にしかできません(データが溜まっていないので)。
そうならないように、今からある程度考えて、データの取得だけでも実施しておいた方が、絶対にいいと思います。
その際には、将来必要になるであろう粒度のデータを今から取得する必要があるので、重要そう&今後使えそうなデータを可視化しておく・少なくともデータの粒度は考えて取得しておくことは足元でやっておく重要施策になると思います。
また、履歴を残すというのもオススメです。BtoBだと案件状況が刻一刻と変わっていくので、その時々のスナップショットを保存しておくと、後々有益です(例えばSFAで、特定の案件がどういう遷移をたどって今ここにあるのかという情報は、最終的にSFAに残った情報だけだとわからなかったりもするので、スナップショットで保存し続けて見返せる様にしないと見れない、等)

最後の、4の「インパクトレバーを使うために、更にブレイクダウンする」は、例えば、以下のような図になります。

更にブレイクダウンした後

イメージは、ある一つのレバーを見つけたら、それを更に細かくブレイクダウンしていく。
そして、分解していくと、自ずと見たくなる指標が出てくるので、それを可視化するという流れでしょうか。これ自体がFP&A自体の醍醐味で、この意識を持つと、数字に魂が宿って改善したくなると思います。

あと、「手触り感がある数字に落とし込む」というのも重要。と、前述の西田とも話していて、例えば0.02%の数字を0.03%にしよう、となってもイメージはつかないが(WebサイトのCVR等)、それを分解して、10%x10%x20%にする(例えば遷移率、フォーム入力開始率、フォーム入力完了率)となると解像度と手触り度合があがるのでその意識を持つのもオススメです。
で、これを繰り返しておくと、よくある色々な分析手法は勝手に想起できると思います。例えば、以下の図の赤字部分がFP&Aでよく分析される内容なのですが、ブレイクダウンして数字を見ていくと、勝手に分析したくなるものばかりだと思います。

FP&Aをする場所

もう少し例を出すと(これまた、経営企画の西田がいい感じの図を作ってくれていたので拝借)、以下の図のような分析もしたりします。

全体を見るとこんなイメージ

上記の図はマーケティングにフォーカスが少し当たってますが、全体を俯瞰して、例えばマーケティングが課題となった時に、更に図のようにどんどん細かくなっていくという形になります。

よく、「全社のメトリックスは見ているけど、マーケの細かい数字になると全然わからない」ということになったりすることがあると思いますが、非常に勿体ないと思います。
このように、全社の数値のメトリックスで俯瞰しつつ、細かい数字を見たい時に、deep diveできて、これを行き来できるようなダッシュボードがあると、経営の解像度がグッと上がるので、まだできていない方にはオススメです。

3.2 事業のKPI設定・進捗確認

3.1まで進むと、あとはKPIをどこに置くかを考えて、ウォッチするだけかなと思います。進捗確認がないと本当に意味がなくなってしまうので、しっかりKPIを見続ける人を置いたほうがいいと思います。

弊社で見ているKPIは以下です(一部ですが)。また注力しているKPIは常に変化し続けていて、経営のイシュー・テーマを常に反映しています。

KPI・先行指標・遅効指標

世間一般で言われるSaaSメトリックス・KPI(例えばチャーンレート)はかなり遅効性があるので、そこまで経営には使っていません。ベンチマーク分析をして、対競合/類似企業で悪い・時系列で悪化している、等があった場合にすぐに反応できるように横目で見ている程度になります。

より重要なのは、先行性の指標をもって確認していくことだと思っています。
先行性指標は前章で記載の通りですが、

1.まずツリーを準備
2.数字で可視化
3.目標値設定(過去の推移・他社比較・自社目標)
4.注力ポイントを選択
5.例えば、リードの創出が課題だと判明。その中で、特にマーケ起点のリード創出が問題であると発見
6.マーケの施策別の過去の契約に至るまでのルートを見る(商談=>契約CVR/SLT、リード=>商談CVR/SLT)や(自社媒体/LP=>リード獲得率)や(認知=>自社媒体/LPの仮説出し)等々、気になる箇所が出てくるので、数字化・課題発見・チームでタスクフォース作成・タックルという流れになるかと思います。
全体をツリーで抑えつつ、細部の全てが数字で一気通貫している状態を作るのが重要だと思います。
また、ブレイクダウンしたあとのレバーポイントの発見・数字改善はタスクフォースで回すようにしています。(例えば、ここのCVRをあげたい!=>チーム組成=>数ヵ月ぐらいで解決を目指す)
このタスクフォースチームも、全体感の数字がアタマにあると、目的を見失わないので、もっと上のKPI・やりたい事を常にみんなと共有しつつ、考え続けるのが重要かなと思っています。

4. 上場マーケットの分析

3がメインテーマだったので、4以降はざっといきますが(少し疲れたわけではないです笑)、
未上場企業の場合、上場マーケットは常に見ておいた方がいいと思います。
マルチプル自体の上下に一喜一憂をする必要はないですが、常に動向は見ておくべきで、それを怠ると、自社に過剰な評価がついて、上場できなくなるリスクがあると思います。感覚的には、シリーズB~C以降からは少なくとも見るべきな気がします。
自社の評価もマルチプルの動向に引きずられてしまうので、常に競合や類似企業と比較した時にこちらのマルチプルが高くつくべきなのか、等は調達のタイミングだけではなく、常にアップデートして考えておかないと、時系列をベースにした説明ができないので、継続的に見ておくことがオススメです。

また、株式市場の動向も、誰かが見ておいた方がいいなと思います(これはさすがにCFOの役割な気がしますが)
市場で何が起こっているか、株式市場がどうなっているかは上場を目指すのであれば当然知っておくべき事で、例えば金利動向や、景気動向、為替動向は当然のように知っておかないと、どこかで大変な思いをすると思います。

5. 経営リソースアロケーション/バーンコントロール

3では少しトップラインの話が多かったですが、コストも全く同じようにリソースアロケーションを考えていく必要があると思います。

つまり、長期的にどれぐらいの赤字を掘るのか(資金調達戦略に直結します)、利益はいつ頃出すのか・出さないのか、等をツリー構造にしながら分析していく形です。

赤字の許容度合がわかると、
その資金をどこに振っていくかを考えることになるので、ヒト、モノ、カネの配置を考えることになると思います。また、この配置は比較的PDCAが少し回りづらいので、様子を見ながら再配置し直す、等を常に考えていくのが重要だと思います。

また、ヒト、モノ、カネの「モノ」を考える際に、IT企業の場合、「モノ」はプロダクトそのものになるので、このリソースアロケーションを考える方は、必ずプロダクトの方向性をかなり深いレベルで理解しておく必要が出てきます。(それもあり、最近僕自身は、プロダクトマネジメントに時間のほとんどを割き始めていたりしています)

コスト分析も、やることは全く同じで、ブレイクダウンして、ベンチマーク分析したり、過去の推移比較をしたりしながら削減余地・リソースアロケーションを考えます。
SaaS企業の場合、ベンチマーク分析は比較的実行しやすいので(Sales一人あたりMRR、CS一人あたりMRR、CAC、等至る所に参考になる数字はあるので)、それを見ながら、どのレベルを目指すかは常にチームとディスカッションしながら考えることになると思います。

また、余談ですが、コストは削減しようと思ったら必ず削減できると思います(笑)。
常に可視化、削減する事に対してチャレンジしていくというのを繰り返す事でリーンな組織が作れるようになっていくと思います。
前職でも、コストは一見絞り切っているように見えて、かなり削減できる箇所があり、常にそのマインドを持って議論し、どうやったら達成できるかをチームとディスカッションする担当者を置くと、意外に簡単に達成できると思います(それぐらい意識的にしないと、コストに対する意識は事業部側は希薄になるので。これは、持っているミッションに依るので当然で、コストにミッションを持つ人を置くか、事業部制で利益まで責任を持たせるかのどちらかが必須かなと個人的には思っています)

また、売上の予想ありきでコストのアロケーションが決まっているわけですが、トップラインは予想通りに行かないことも多いと思います。
そんな時のために、複数のシミュレーションを作っておくのは大事だと思います。
ベストケース:売上100%成長ケースのコストの使い方
ベースケース:売上80%成長ケースのコストの使い方
ワーストケース:売上50%成長ケースのコストの使い方
みたいな感じです。
これを作っておくと、売上が想定通り上がらない際に、コストコントロールを高速でかけられるのと、事業部の納得感もある(事前に説明しているので)ので、チーム全体の意識統一としてもオススメです。

6. 全体を通して

前編・後編に分かれる、少し長い内容になりましたが、少しでも多くの人の参考になれば幸いです。
また、冒頭に記載した通り、僕も発展途上で、勉強・情報交換したいので、是非意見交換させて欲しいです!奇特な方がいたら是非X(旧ツイッター)等でDMください。

また、こんな面白い事業開発を僕と一緒にやってくれるメンバーも募集してますので、いつでも門戸を叩いてください!
それ以外の職種についても、テックタッチは、一緒にビジネスを拡大してくれるメンバーを大募集中です!少しでも興味があればお話ししましょう!!めっちゃいいチーム・いい事業だと思います!

そして、僕の他のノートはこちら:
A シリーズB資金調達の裏側: テックタッチはスタートアップ冬の時代になぜ20億円強を調達できたのか?(前編)
シリーズB資金調達の裏側: テックタッチはスタートアップ冬の時代になぜ20億円強を調達できたのか?(後編:銀行借入ver)
C 数字でドライブする経営(前編)


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