マンホールからベンガルトラまで その19
ガハハ兄ちゃんのドーナッツ屋さん
朝から再び歩き出す。この旅で何歩あるいただろうか。
歩数計で測ってたら素晴らしい健康的な数字が並んだことだろう。
昨日の夜に知り合った日本人から湖の向こう側にあるお寺の情報を仕入れていた。今日はそっち方面に向けてブラブラ散歩しながら行こうかなと思っている。
なんでも湖の南西に位置する山のてっぺんに日本人が建てた日本山妙法寺というお寺があって、そこから見下ろすフェワ湖周辺とアンナプルナ連峰の山並みが最高なんだとか。
あのポカラ行きを決めた素晴らしい写真もそこから撮ったものなのかもしれない。
お寺がある頂上まではそんなに時間がかからないみたいなので、寄り道して写真を撮りながらゆっくり行くつもりだ。
今日も快晴で青い空が気持ちいい。
しかし湖越しに見るアンナプルナ山脈はチラリと頂上の一部が見えているだけで雲に隠されている。
お寺の山に登った時には全体が見えていればいいけど。
フェワ湖を南側からまわり込んで川沿いに歩く。
水辺の至る所で魚釣りをしてる少年や青年がいる。
それを見物する人もいてなんだか賑やかだ。
なんとなくで歩いて来たので詳しい登り口がわからない。
誰かに道を聞きたいな。
大きな通りの方に何かを油で揚げているお店があったので覗いてみると、ドーナツだった。
揚げたてドーナツ食べたい!ちょうど小腹が空いてきたところだ。
ドーナツを注文するついでにお寺への登り口を聞こう。
働いてる人が三人いて、手前のおばちゃんが注文の対応をしてくれてたのだが、お寺への道を聞いたところで、どうしたどうしたと奥のでかい兄ちゃんが割り込んできた。
手を使ったジェスチャーがえらい激しい人だなと思ったら「アウアウオ、ブボーバウオ。」とおばちゃんと話してガハハと笑う。
新手のネパール語ではなく、うまく話せないんだ。耳が生まれつき聞こえない人なのかもしれない。
手を使ってのジェスチャーは手話だった。
おばちゃんから話を聞いたようで、私に道を説明し出した。
「ウオーアウオウア、イエーウイウエ、ウアウエイウア。」
身振り手振りを使って教えてくれるのでネパール語を使って喋られるよりも不思議となんとなく言ってることがわかる。
「この前の道を真っ直ぐ進んで次の角を右、そしたら橋を渡ればいい。」とのこと。そして言った後に何か言ってまたガハハハハ!と笑う。
しかし耳が不自由なのによく喋る明るい兄ちゃんだな。
その後もおばちゃんやドーナツを揚げるおじさんと手話を使ったお喋りが止まらない。そしてガハハとよく笑う。
きっと家庭環境が素晴らしかったんだろう、気後れがちっともない。
というか、ぐいぐい来るな。
私に向かって関係ない話しをしだしたみたいでちょっと何て言ってるかわかりませんよ。
おばちゃんがサポートしてくれて「国、どこ?」と聞いてるんだよ。と教えてくれた。
それで私も「日本から。写真撮りに来ました。動物。」と言ってチトワン国立公園で撮った動物の写真をカメラの液晶で見せる。
みんなで寄って来て顔を見合わせて「おー、すごいね。これはサイだ、象だ。」と言ってる様子。
「チトワン」と液晶を指差して言い足す。
「オウオウエア、アウオエーウア、ガハハ。」
いい写真だ、面白い旅をしてるな、ガハハ。という感じだろうか。笑ってくれるとこっちも嬉しくなる。
揚げたてドーナツが出来上がって料金を渡して一口かじる。
うおー‼︎ うまっ!
アツアツでモッチモチ。食感がいいねえ。素朴な甘さが優しく口に広がる。甘過ぎないのがいい。
別で頼んでおいたお気に入りのネパールミルクティーとの組み合わせも最高だー。
後から調べたらネパールのドーナツは米粉を使って作るみたい。どうりでモチモチしてると思った。
「最高に美味しかったです。これ、日本のお金です。受け取ってください。」と五円玉をみんなに渡した。
道を教えてもらったし、なにより元気をもらって何かをあげたくなったのだ。
ガハハ兄ちゃんは珍しそうに受け取った五円玉を眺めてから、何か言ってガハハと笑った。
私もアハハと笑ってありがとうと手を振りながら店を出た。
教えてもらった方向に歩きながら私はまだ笑っていた。
しかし明るい兄ちゃんだったな、耳が悪いのに全然気にしてなくて自分が話したいことを話して、聞きたいことを聞いて。
英語がうまく話せないという理由でこちらから外人さんに話しかけることに躊躇している自分が恥ずかしくなってしまう。
コミュニケーションの大事なことは話したいという気持ちなんだな。
方法は何だっていいんだ。
これは手話を覚えるのも一つの手だぞ。
わざわざ新しい国に行くたびに新しい言葉を勉強するよりも手話を覚えればどんな国の人ともコミュニケーションがしやすくなるかも。と思った。
元々会話で言葉が出てこない分、ジェスチャーの多い私だ。それを発展させるのもいいかもしれない。
旅を楽しむ新しいヒントをガハハ兄ちゃんにもらった気がした。
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