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夢見モグラは空を待ち侘びて 17日目

小さな小さな輪っかが落ちているのを見つけた。
空き缶に付いているふたにとてもよく似ているなと思った。
モグラは指にはめてみると、
中指にスポンとはまって、キラリンと輝いて、
なんだか気分が明るくなった。

ご機嫌にスキップしながら歩いていると、
今度は道の反対側から髪の長い、スラッとした、
花びらの匂いがする生き物が慌てた様子で、
「このあたりに指輪が落ちていませんでしたか?」
とモグラに話しかけてきた。
きっとこの輪っかのことに違いない。
モグラはこのまま知らんぷりして、
この素敵な輪っかを持って帰りたい気持ちを我慢して、
そっと自分の手を差し出すことにした。
涙を流して喜ぶ姿を見て、
モグラは自分のことを少し褒めて、少しだけ叱った。

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落とし物の話。

いつもの通り道で指輪を拾った。

どうせすぐに無くす自信があるからと言う理由で、
アクセサリーの類はこれまでの人生でほぼ身につけることなく生きてきたのだけれど、
アンティークの腕時計に一目惚れをしたことがあった。
とてもヘンテコな形をしていたし、
時間が見やすいかと言われたら何時を指しているかすら良くわからないアバウトなものであったけど、
色味や雰囲気がなんだかとても気に入った。
おおよそその日以降、家にいる時以外は肌身離さず付けていたと思う。

ある時、自分たちのライブを見ていてくれた関係者から、
ステージの上では腕時計を外した方がいいよと言われた。
僕は言われていることの意味がわからず、え?みたいなきょとんとした顔をしたと思う。

「時間を忘れさせるのが君たちの商売だろ?」

確かに。
時間を忘れさせる商売、と言う言葉の響きが気に入ったのもあって、
それ以降、僕はステージの上で腕時計をしなくなった。

それでもライブ以外のほぼ一緒の時間は共に過ごしたし、
沢山旅行にも出かけたし、海やプールに共に落っこちた日もあったかもしれない。
人生の何分の一かは彼と一緒に居た。
おかげでとても楽しかった。
ところがある日、ベルトの部分がプツンと切れてしまって、
修理に出してもこれはちょっともう無理だね、と断られてしまった。
それでも何か捨てるのも憚られ、
いまだに部屋の机の引き出しの片隅で安らかに眠っている。

以降、なかなかアクセサリーと呼ばれるものに縁がない。
これだ!みたいなものに、web上では中々出会えない気もする。(そんなことないのか?)
自分のご機嫌をとってくれるものが、
体に触れるほどすぐ近くにあるということは、実はとても素晴らしい事だったのかもしれない。

誰かにとって、とても大切なものだったらいけないと思ったので、
目の前にあるお店に事情を説明して預かってもらえることになった。
あまりお腹は減っていなかったけれど、
いい匂いがしたので、ついでにパンも買って帰った(パン屋だったので)。

それでは、また明日。

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本日の表紙はsrmashさんの画像を使用させていただいております。

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