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あなたに訊きたい7つのこと#14<砥上裕將×金井政人>

あなたにインタビューさせてくれませんか?

普段インタビュー"される"側のアーティストが、今度はインタビュー"する側"に。
他所ではあまり聞かれたことのないような、どうでも良いようでそんな事もないような、質問を贈り合う。
#あなたに訊きたい7つのこと  

2022装いを新たにして、今回は水墨画家兼作家、砥上裕將さんをお迎えしてお届けしたいと思います。

今回も通常のインタビューに少々飽きてしまった筆者が、その作品にとても感銘を受けて、以前対談させていただいたご縁を手元にぐいっと手繰り寄せ、とうとう作品が映画化される!というお祝いの意も勝手に込めながら、砥上裕將さんを、半ば強引に道連れにするような経緯で、普通のインタビューとは少し違う角度から斜め上にも程があるアーティスト同士お互いに7つずつ質問を贈り合い、お届けしたいと思います。


<砥上裕將×金井政人(BIGMAMA)>


今回はまず、僕の贈ったあなたに訊きたい7つのこと、について砥上裕將さんに答えていただきます。もし良かったら、あなたも是非質問の答えを考えてみてください。




1.あなたの取り扱い説明書の中で、最も太字で書かれている1行についてお聞かせください。



直感的操作以外は受け付けません。




2.頭に思い描いた時、文字に書き起こした時、口から放たれた時。
言葉として最も純度が高いのはどの瞬間だと思いますか?



それはもちろん、文字に起こした時、と言いたいですが、文字に起こして文章として出されるものは、多くの人が理解できることを目的に、公用語化されているきらいがあります。
一方、口で放った言葉は、その人が動きによって起こす微風や呼気に属するもので、プライベートなものです。
嬉しい、哀しい、ありがとうございます、とかそういう言葉が一番、純度(強度? 硬度? 実感)の高い言葉だと思いますが、それらは口に出していっている瞬間は真実だと思います。



3.海の中の生き物で親近感の湧くものがいれば教えてください。



海月です。クラゲ。ああいうふうに生きているときが幸せだったなあと思います。




4.これまでのあなたの人生を振り返った時、その足跡はどのような線を描いていますか?



九成宮醴泉銘(きゅうせいきゅうれいせんめい)? 孔子廟堂碑(こうしびょうどうひ)? 草書千字文(そうしょせんじもん)?
いえ、そんなに綺麗な線にはなりません。幼稚園児が引いたようなぐちゃぐちゃな線だと思います(あれはあれで素晴らしいけれど)。
ただ力が少しずつ強くなっていて、線も少しずつ大きく太くなり、最高点を迎えた後、いまは線自体の質を考えて、あんがいこざかしいことを思い、失敗しているという印象です。つまり失敗だらけの手作り感のある線ですね。少し丸味はあると思います。



5.結局、バナナはおやつに入りますか?



あれは主食になるので、おやつにはならないという印象です。バナナ本人に意思確認をすべきかと思います。
おやつがいいのか、主食がいいのか。
おそらく、自分に甘いやつなので、おやつと答えるのではないかと思っています。



6.トラウマ、に対抗するような言葉があれば教えてください。



振り向くな、後ろには夢がない。(寺山修二)

「僕が飛べるとおっしゃるんですね」
「君は自由だと言っている」(リチャード・バッグ かもめのジョナサン 新潮文庫)

勝手に生きろ! (チャールズ・ブコウスキー 河出文庫)

Ah, but I was so much older then
I’m younger than that now.
あの頃の私は今より老けていて、いまはあの頃よりずっと若い。 ボブ・ディラン

不語似無愁
(語らざれば、愁(うれ)いなきに似たり:話さなければ哀しみなんて、なくなっちまったみたいなもんだ)




7.この目には見えないものに見惚れることがあれば、その時の話をお聞かせください。



具体的なやつを話します。水の行き来。
冬の日の朝の田んぼに霧立つようなモヤ、水は本来落ちるものなのに、上っている。朝の光にあてられて、霞んだ光の方が、目に鋭く届く光線よりも美しく思えるのは、たぶん『不可能なことを可能にしている』現象と比喩が目の前に繰り広げられているから。
意味は、ずっとあとで分かってきます。ゆっくり意味がわかるところに物語があります。すぐに気付く人は、賢い人かも知れないけれど、『美しいもの』にとってはただの通行人です。
あっちも心を開いてはくれないでしょう。

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次に砥上裕將さんから頂いた7つの質問について、私、金井政人が答えていきます。



1.無限に美しいアドリブをかまして演奏できることと、とんでもなく正確にどんなにやってもノーミスで演奏できることならどっちを選びますか?



前者はまだ人ですが、
後者のそれはもう機械です。
人間らしくいたいので、迷わず前者です。




2.バンドのそれぞれの楽器を自然現象に例えると、どんな感じですか?



バンドの演奏には時折、風、を感じる瞬間があります。
そして、それぞれの演奏が噛み合った時にうねりが生じて、音圧と言うくらいですから、勢いを増してそれが続けば、徐々に渦を形成していきます。
太鼓のような打楽器には粒の大きい雨の雫を、金物のシンバルには雷と光を、感じることもあります。
そう考えると、バンド自身が”台風”みたいなものなのかもしれません。
自分を含めて、その場にいるすべての人々の鬱屈としているものを吹き飛ばして、
晴らしたい一心ですから。




3.これまで人生で最も感動した絵画鑑賞について教えて下さい。



その絵を目の当たりにした時にとても混乱しました。
視覚だけでなく嗅覚、味覚、聴覚、触覚、すべてがバグを起こして、
喜怒哀楽の感情が立体的に入り混じって、
息を呑んだまま呼吸を忘れて、ただ茫然と見入っていました。
“感”情を、”感”覚を”動”かすことを”感動”とするならば、
他ならないその時のことが真っ先に思い出されます。
スペインのマドリッドに、ゲルニカを見に行った時の話です。



4.あなたは無実の罪で追われる身になりました。親切な誰か(たとえば胡散臭い水墨画家兼作家の砥上とか)は、あなたが巻き込まれた事件のほとぼりさめるまで逃がしてくれます。
人里離れた山小屋で、目の前は湖のロッジ。外界とはほぼ交流不能な状態に三年間過ごせと言われます。だいたい1100日くらいです。
目の前で釣りはできるし、罠猟もできます。野菜は山菜をとれます。育ててもいいです。薪は自分で用意せねばなりません。
生活に必要なものは最低限そろっています。お酒一年分とサバイバル教本と自著(なぜだかサイン入り自著『線は、僕を描く』か『7.5グラムの奇跡』)は
サービスで置いていってくれます。でも誰とも会えません。会いにも来ません。
通信機器(外界との連絡手段)以外、三つだけ好きなものを持って行っていいと言われました。
何を持って行きますか? 何をしていますか?


無実の罪ですから、
悔しい思いが募るばかりで、眠れぬ夜が続くと思います。
まずは筆の力でも信じ、いつか真実を白日の下に晒すことを試みるでしょう。
それでも、大自然の中、ポツンと一人、孤独。
結局、怒りの炎は早々に燃え尽きて、そう間も無く、どうでも良くなってしまうような気がします。
それでも3年との約束を、その親切な誰かとの約束を、疑いながらも信じていると思います。
ならばせっかくの1100日、謳歌の方法を考えた末に、ちょうど3年分の労力をかけた、今までにないサイズ感の、本を、絵を、それとも音楽を、そのいずれかを、いや、それとも全部を、時間を暇として潰さぬように、せっせと膨らませるべく、表現させていくと思います。
水墨画家兼作家が匿ってくれている場所、紙と筆は必ずあるでしょうから、
絵の具とパレット、そしてギターですかね。



5.ある日、目覚めるとロッジの前に動物がやってきています。
あなたに好意的なようです。あなたが近づいても逃げません。
友達になってくれるようです。
「なんでこんなところに?」「どうして人を怖がらないのだろう?」
とあなたは思います。
どうやら触れることも出来ます。その動物はなんですか?



オオカミのような犬か、犬のようなオオカミ。
自分の命を薪のように半分に割って、そのうち一つを預けるような付き合いをすると思います。




6.約束の時期になって、迎えはやってきました。正確にいうと少し遅れました(1300日くらいです)が、とりあえずはやってきました。軽トラックです。あなたを助手席に乗せて「少し厄介なことになった」と私は言います。
そして説明を始めます。
「事態は収拾できたが、君は死んだことになってしまったんだ。これしか方法がなかったんだ」
あなたはついに真っ白な人間になってしまいました。すべてゼロからスタートしなければなりません。
「これからどうする?」
と私は訊ねます。新しい人生です。さあ、どうしますか?



その1匹と一緒に、きっと出来上がった3年分の何かを届けたいと思うはずです。
三年以上音信不通で、便りなどなくとも、それでも自分の味方だと信じている人の姿や匂いが忘れられずに、会いに行くのだと思います。
「遠くで見ているだけだから」と協力者に対しても嘯いて、軽トラックは仕方なく目的地の側まで辿り着きます。
ただ、その先で遠巻きに見た光景の中で、自分が、死んだ、ということが事実として受け入れられている世界が、とても億劫に、それでいて眩しく感じて、
元の場所に引き返してしまうのではないかと思います。



7.あなたは新しい人生を選びました。私はどう慰めていいのかも分かりません。
「ラジオでも聴こうか」と私はいって、あなたが答えないままチャンネルをひねります。
軽トラの駆動音はうるさくてとても音楽なんか聞こえません。私はボリュームの捻りを回し、大音量で音楽を流します。あなたはそっとその音楽に耳を澄ませます。
その曲はなんですか? さあ、いよいよエンドロールです。



死亡したはずのミュージシャンの新曲が届いた。
静かな森の機微を綴る一冊の本と、何度も色の塗り重ねられた狼の絵と共に。
どんな経緯で自分の机の上に置かれていたのか皆目見当もつかないが、そんなことはもうどうだっていい。
一人のラジオDJの目に留まり、耳に入り、そして心を掴んで離さなかった。
自分の担当する深夜番組の、最初の一曲はこの曲以外に考えられなかった。
「この曲を世界中の”ひとりぼっちたち”に贈るよ、聴いてください”two lone wolves”」
それが後に話題になったとか、大して話題にならなかったとか、誰も知る由もないのだけれど。


いかがでしたでしょうか?

皆様のお時間、お暇が潰れずに、ほんの少しでもふわりと膨らめば幸いです。


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本の中で、ステージでお待ちしております。
続きはまた気が向いた時にでも。


褒められても、貶されても、どのみち良く伸びるタイプです。