父の帰宅 12
マサはこのときのキョウカ先生の印象はよく、直感だが信頼のおけるひとだと感じた。また女性ということもあって話しやすい気がした。この心理カウンセリングは何とか受けたい。それで前から誘われていた結婚式場の宴会の仕事を受けた。
マサは以前結婚式場の新郎新婦を誘導する黒服のバイトもしていた。そして新たに同系列の会社で結婚式場ができて人手が足りないのでマサに宴会として働いてくれとのことだった。マサが退院してからまだ四ヶ月も経っていない。
やったこがある人は分かると思うが婚礼の宴会のアルバイトは肉体労働だ。マサはまだ鎖骨が完全にくっついていない状態でこのアルバイトを受けた。一一月後半の三連休の二日間バイトした。一日目のバイトが終わったときわたしに携帯でメールが送られてきた。
「ミッキーの傷口痛てぇー!、鎖骨もう一回折れそう」
わたしは何やってんだ、そんな状態で無理すんなよと思った。
マサはこのときのこのメールは大袈裟ではなくて実際に自分で二日目にこれ以上はできないと判断して一一月はアルバイトをもうしていない。
この時点で立っていられないほど左鎖骨が痛んだ。三半規管もおかしくて何度か倒れそうになった。婚礼のバイトは式場内では優雅に接客しているが裏に入ると走り回らなければならない。水割りを入れたテンオンスのグラス二〇個ほどを持ち上げられなくなって仕事を止めそうになった。
しかし強引にそのときは鎖骨が折れるのを覚悟で仕事をした。食事どころか薬をゆっくり飲む時間もない。気持ちで頑張るという次元はとっくに超えていたのでシフトに登録することを止めた。そして次の橋本先生の診察の日がやってきた。一一月二六日のことだ。
***
掲載中の小説『レッドベルベットドレスのお葬式 改稿版』はkindle 電子書籍, kindleunlited 読み放題, ペーパーバック(紙の本)でお読みいただくことができます。ご購入は以下のリンクからお進みくださいませ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?