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プロローグ 03

外からいうてるだけやったら、世界は変えられへんねん。なあ、そうやろ。俺は……、……俺は、俺は、そんなんしてたら、少しずつ、少しずつ、死ぬだけなんやろ──。

囁くように、近くにいる男に話しかけるように、ヒョウゴさんは呟いている。そして、戦闘中なのだから、当たり前だが、予告なく、ヘルメットの連中から敵側にいるヒョウゴさんにも弾丸が飛んできた。何百発も何千発も飛び交っている銃撃戦の中の、特に際立った意味のある一発だとは思えない銃弾だ。

うっ、という小さなうめき声とともに、ワンボックスカーにフォーカスしていたカメラが空に向かってパンをした。ゆっくりとした、美しい画を狙ったようなカメラの動きだった。仰向けに倒れこんだヒョウゴさんの視界は、血まみれの男達の殺し合いから、夕陽によって橙に焼かれた雲や、その雲間から瞬く大量の星々や、闇が近づき始めたずっと遠くの真っ青な空に切り替わった。ほんの少しの角度の違いだか、景色は一変した。

それは最初は小さなうめき声のようにしか聞こえなかった。喉のあたりで音が潰れてしまって、ほとんど音階が存在しない。口を開けられないのかもしれない。しかしその弱々しい声は、何かの連続性を持っているように聞こえた。僕は注意深く、耳を傾けた。パソコンのスピーカーに耳を近づけて、彼の言葉を拾おうと集中した。

ヒョウゴさんは、歌っていた。「……もし俺が、……世界をフェアリーテールに変えられるのなら……。……もし俺が、……世界をフェアリーテールに…………」。そのフレーズを、途切れとぎれに、今にも消え入ってしまいそうな小さな歌声で、彼は繰り返し歌い続けた。

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