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第1章 ヨウとおジィ 昔ばなし 04

おジィとの将棋を終えてひと段落していると、玄関のインターホンが鳴った。おジィが出た。最初は気にも留めなかったが、おジィとその男のやり取りが耳に入ってきて、首筋あたりに嫌な汗が滲んだ。西脇が家庭訪問にきたようだ。

「そんなこといってもねー、本人が決めて行かねーんだからさ」おジィは、我が祖父のことながら、驚くほど適当に対応していた。言葉の端々に鼻唄を交えながら、もの凄く不真面目に、西脇の言葉を聞き流している。二人のやり取りがさすがに気になって僕も玄関に赴いた。西脇からは、こんな老人にいってもなー、という面倒臭そうな表情が窺えた。

「自分のクラスに不登校児が出ると、担任として何か対応した体裁がいるんじゃろうからあんたも大変だろうが、ヨウはまあ元気にしとるから、帰れ」おジィは鼻唄を交えつつ、あっさりいう。西脇は言葉を詰まらせて、動揺した。図星のようだ。なんとかおジィに応戦しようとした。

「何をおっしゃってるんですか、あなたは。私はですね、進路を控えた大事な時期に、不登校なんて、進学に向けて、マイナス要因しか生まないんですよ。松下君の将来がかかっているんですよ」

「進路云々の今じゃなくても、あいつの人生は、いつもあいつの未来に繋がってるわい。いつも大事じゃ。わしはあいつが学校へ行かなくなった理由を知らん。学校へ行きたくないから、行かないんじゃろー。あいつが意思表示しとるんじゃ、わしが何かをいうことはない。まして、他人の命令を聞くことに生きがいを見出しているような、あんたのような教師に、ヨウが語ることはないはずじゃ。あいつは、飛びぬけた何かの取り柄があるわけでもないが、いい孫じゃ。隔世遺伝をおこしたんじゃな。ワッハッハッ!」おジィに西脇の愚痴を聞かせ過ぎてしまったようだ。おジィは初対面の西脇に明らかに敵意を見せた。

「そんな屁理屈ばかりならべて、結局後で泣きをみるんですよ。私はそういう生徒をたくさん見てきた。松下君が可哀想だ」西脇は僕に同情的になることで、おジィを悪者にして、保身をし、自分がバカだということを誤魔化した。らちが明かないので、僕が切り出した。

「先生が、勝手に僕のイヤホンを耳に入れたからだよ。気持ち悪いんだ。先生の顔みたくねーし、学校もちょっとしんどいから、行きたくないんだ。別におジィが僕の保護者でも、僕は可哀想じゃないよ」

西脇は顔を紅潮させて、でもそれ以上何もいえないで、家を後にした。西脇が学校へ戻って、ほかの教師達におジィや僕のことを、頭がおかしい人間のように、薄ら笑いを浮かべながら話しているのを想像すると、虫唾が走った。生徒の教室でも、職員室でも、基本的に一緒だ。涙がこぼれそうになった。僕は俯くしかなかった。僕はおジィにいった。

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