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第1章 ヨウとおジィ 昔ばなし 22

巡回の講師の目を掻い潜りながら、速読したが「ガッカリだよ」、という一言で集約できる感想だった。弁論大会でもしてんのかと思った。

僕はもう一度質問内容を読み直して、もう一度腹を立てた。どいつもこいつもにおれがおれが的な返信で、質問の答えになっていない。質問を質問で返す。言葉の定義から始める。誰も第二次世界大戦の日本軍の行動のぜひを訊いていないのに、しゃあしゃあと述べている。余談なんか訊いてねえよ。病原菌に意志はない。迷惑がってもいない。バカばっかりだ。観念的な質問をインターネットにした僕も愚かだと思うが、それでもいいたがりの多さに呆れた。

「そういう質問、ひとりで考えて実行しようと思ったの?」ブラウザの窓を画面のサイズに合わせて、返信部分だけ見えるように長方形にしていた。それが逆に隣の席からは目立ったのかもしれない。隣の席のシモツマが僕に話しかけてきた。面倒だなと思ったけど、無視するわけにはいかないし、実行という、ふだん使わないような単語が、やけに板についているシモツマの声に反射的に反応してしまった。

「昨日、ちょっと思い立って。でも、くだらねえ返事しかきてないよ」シモツマとは、たまに弁当の席がいっしょになることがあって、話すこと事態にはそれほど抵抗はなかった。弁当を誰といっしょに食うという、中学生としては、切実な問題が、毎昼にやってくる。僕は基本的に席を移動してまで昼飯を食いたくないので、同じ班の、当たり障りのなさそうな人間に声をかけたり、もしくは当たり障りのない人間に声をかけられたりして、昼間をどうにかこうにかやり過ごしている。

本当は、気兼ねなくひとりで飯を食いたいんだけど、ひとりで食っていると、どうしてもクラスから浮いて、苛められている感を放ってしまう。シモツマは、バスケ部で、シューティングフォワードをしていて、二年生からずっと試合に出ていて、エースだ。顔はそこそこだけど、バスケ部ということで、高身長でスタイルがいい。

エースという人種はそうかもしれないが、あまり群れるのを好まない。集団に属さなくてもやっていける自信を、小学生の低学年あたりですでに掴んだのかもしれない。シモツマも例に漏れることなく、別に尖っているわけではないが、周囲にはクールに映る。劣等生がそうすると、ただの根暗で、苛められっ子に発展しかねないが、エースは黙っていても問題はないのだ。大事なときに、この男は、三点シュートでチームを勝利に導いている。

質問をしているページを覗かれたのがシモツマでよかったかもしれない。クラスで目立つタイプの人間だったら、「松下が世界を変えるとか、わけ分んねえ質問をネットでしてたぞ。拒否って狂ったかも、気をつけろ!」というようなメールが瞬時に回覧されるかもしれない。

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