見出し画像

『モチベーション革命』と保育

この1〜2年で、「モチベーション」という言葉自体を聞くことが増えました。

僕自身が会社を辞めて、働き方を大きく変えたことも一つの原因だと思いますが(=そういう会話に接する環境になった)、どんどん新しい時代に向かって社会が変化していく中で、「モチベーション」を持っていることの価値が改めて、見直されてきているようにも感じます。


ちょうどあと1年で、平成という時代は終わろうとしています。長らく経済の成長が止まる中で、個人の働き方も変わってきました。テクノロジーの発達で、多様な人生の選択肢が生まれるようにもなってきました。

日本にとってあまり良いことがなかったこの30年(僕の小学生時代〜いま)を通じて、かつて日本が作り上げた “分かりやすい人生のモデル” が、いよいよ無くなってきたのかなぁと思います。…そんなものが本当にあったのか、という疑問もありますが。

多くの人が(もちろん自分も含めて)正直、どう生きていこうか迷っているだろう中で、「これをやりたい」「これをやるべき」という想いに後押しされ、社会を動かすようなことにどんどんチャレンジする同年代や20代の若者が台頭してきているのも事実です。明らかに、何かが起きている感じがします。

『モチベーション革命』は、そうした新しい動きを解きほぐす本として、「モチベーション」という言葉から、新しい生き方をいくつか提案してくれています。


いくつか重要な点だけ、踏み込んでご紹介します。

<乾いている世代と、乾けない世代という違い>

この本を書いた尾原さんによると、今の日本ではおおむね30代を境目に、大きく2つに分かれます。埋めるべき空白がある時代を生きてきた乾いている世代(上の世代)と、生まれたときから “ないものがない” 時代を生きてきた乾けない世代上の世代では、社会の成長(より便利なものを生み出す、会社が大きくなる、国が豊かになる、など)がイコール自分の成長であり、それが個人のモチベーションとしても機能していました。

一方、その下の乾けない世代は、上の世代が大きな社会の枠を作ってしまったため、作り上げられた社会の中で「小さくて身近な枠」(家族、友人、自分)を大切にしようと生きる。

心理学者のセリグマンによると、人の幸せは「達成」「快楽」「良好な人間関係」「意味合い」「没頭」の5種類に分けられるそうです。「達成」「快楽」は、上の世代が特に追求します。与えられた課題や誰にもできなかったことをクリアしたり、贅沢な物を獲得したり、といったことがポジティブな感情に結びつきやすいそうです。

片や乾けない世代が大事にするのは、「良好な人間関係」「意味合い」「没頭」。セリグマンは「良好な人間関係」を特に人の幸せの基礎として位置づけられていますが、自分の好きな人と笑顔で生きていければいい、という感情です。また「意味合い」は自分のやっている仕事が、大きな文脈の中で役に立っていると実感できること。「没頭」は、夢中になって何かをすることです。

このズレがあまり認識されておらず、働き方などの枠組みが上の世代に作られたモデルのままなので、乾けない世代がまだあまり活躍できていない、というのです。


<乾けない世代こそが、これからの時代を担う>

時代が変わり多様化が進んでくると、「これをやれば成功する」という黄金律がなくなります。そうなったとき、上の世代のように決められた目標にただ邁進するのではなく、「意味合い」や「没頭」を大切にしながら、自分だけにしかできないことを突き詰め、楽しみをお金に変えていける乾けない世代は強い、というのが尾原さんの主張です。

特にこれからは、人工知能革命により、単純作業のような仕事がどんどん機械化されていくと言われています。そうなったとき、大切なのは「ありがとう」と言われることをすること。

「ありがとう」という言葉は、漢字で「有ることが難しい」と書きます。つまり、自分には有ることが難しいから、それをしてくれた相手に対して「有り難い」と思う。だから「ありがとう」と言うのです。
これからは、「他人から見れば非効率かもしれないけれど、私はどうしてもこれをやりたい」という、偏愛とも言える嗜好性を、個人がどれだけ大事に育て、それをビジネスに変えていけるかが資本になっていくのです。

非効率な「好き」を突き詰めるなかで、そこに共感しれくれる人が「ありがとう」とお金を払う。変化の時代においてすべてが不確定だけれども、“偏愛・嗜好性の循環” は残っていくのではないか、というのです。


<異なる「好き」をどう掛け算していくかが重要>

そんな状況では、一致団結して同じ目標をひたすら追い求めるということは難しく、異なる「好き」を持つ多様なメンバーで、変化に柔軟に対応していくチームづくりが求められます。尾原さんは「できるだけカラーの違うメンバーを揃え、あらゆる角度、意外な方向からくる変化をいかに素早く捉え、チャンスに変えられるか」と書かれていますが、とはいえお互いの凸凹をどう組み合わせていくかは、とても難しい問題です。

ここではストレングスファインダー偏愛マップなどのツールを使って、自分たちの凸凹しっかり把握しておくことに加えて、相手を「信頼する」ことが非常に重要だと指摘されていました。自分の弱みをさらけ出すことで相手に任せ、自分は自分のできることに集中する。リスキーな側面もありますが、そこを思い切って頼ることで、強い組織になっていくのだそうです。

Googleがとても分かりやすい例として紹介されています。社内の情報公開度が高く、現場が瞬時に動けるようになっています。漏洩が起きたことも過去ありましたが、そのときCEOは次のようなメッセージを出したそうです。

Googleは誰もが色んな情報に触れることでそれぞれがイノベーションを起こしていくサンクチュアリ(聖域)だ。秘密を漏らしてしまう人が続くと情報を隠さなければならなくなる。そうすると、みんなは限られた情報のなかからでしか新しいことができなくなる。それはGoogleを殺すことになる。だからGoogleらしくいるために、このサンクチュアリを守るため、信頼を大事にしてほしい。

またチームの「WHY」(なぜやるのか)を軸にしながら、そこに個人の「WHY」(なぜあなたはここにいるのか)を繋げ、擦り合わせていくマネジメントも重要だ、ということでした。


--------------------

他にもいくつもポイントがあり、たとえば「好き」を「生きがい」に変えていく方法や、新しい個人の働き方の提案なども含め、この本にはいろんな要素が書かれています。

また尾原さんはつい最近『どこでも誰とでも働ける——12の会社で学んだ“これから"の仕事と転職のルール』という本も新しく出されています。未読なのですが、これもぜひチェックしたいなと思いつつ。


ただ今回は、あえて『モチベーション革命』の方を、このnote「保育にかかわる本たち」で紹介しようと思いました。

僕は乳幼児ほど、この「モチベーション」をもっている時期はないのではないか、と思っています。これは、いま保育の世界で注目を集めている非認知能力の一つでもあります。

あれも見たい、これも触りたい。出来ないことを出来るようになりたい。興味は次々に沸き起こるけど、一つのことに没頭できる。子どもたちは本当に、モチベーションの塊です。これは自分が子どもを育てたり、保育にかかわる中で今まさに感じていることです。

しかし大人になるにつれて悲しいかな、それが少しずつ減っていきます。(自分を振り返ってもそうだった。)

もちろん社会のなかで生きていくために必要な作法などはたくさんあるけれど、これまでの日本の教育は、あまりに人と同じことが出来るようになることを求めてきたため、自分のなかにある「WHY」が大事にされず、次第にそれを忘れていってしまうのではないかな、と思います。


保育現場というのは、擁護と教育を一体化して子どもを育んでいく場所です。そこでベースとなるのは、子どもが安心・安全な環境で、まずは自分の気持ちや行動を受容してもらうこと。先日の汐見先生のイベントレポートでも書きましたが、基本的な信頼感が、子どもの非認知能力(生きるための力)を育てていく基礎になります。

その中で、子どもは自分の気持ちを大事に育てながら、他者と関わるすべを学んでいきます。

新しい時代、個人の「好き」が重視されていくなかで、どう “モチベーション迷子” にならないかが『モチベーション革命』では繰り返し書かれていますが、これは保育現場がずっと実践してきたことにめちゃくちゃヒントがある、とも読んでいて感じました。

子どもの発達を支えながら、一人ひとりの「やりたい」に寄り添う保育者の眼差しは、きっと乾けない世代が活躍していく新しい社会において、かけがえのないベースになる気がしています。

この本、保育者で手に取る方は少ないかもしれませんが、日々の実践が社会の未来にそのまま繋がっていく、ぜひそういう視点でも読み解いてほしいなと思います。


『モチベーション革命(尾原和啓)』



(twitter @masashis06

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?