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『保育ナビ 2017年7月号』

『保育ナビ』は、保育のあり方や園のマネジメントにフォーカスした、フレーベル館発行の雑誌です。保育誌の中ではちょっと異色。他の雑誌が、製作物のつくり方、外遊びや行事のやり方、指導計画の書き方など、"How to"(どうやってやる?)"What"(何をやる?)がメインを締めるなかで、"Why"(なぜやるの?)を深めていく記事が多く、だからこそ個人的に好きで、気になる特集の月は読んでいます。

昨年夏の当号のメインの特集は、『0歳児保育の可能性』。非認知能力の向上のために幼児期のかかわり全般が重要なのはもちろんだけど、実はなかでも乳児期(0歳児)ってめっちゃ大事だよ、ということが事例を交えて紹介されています。

おもしろいなと思ったのは、園における「保育全体の質を支えるために」0歳児の保育が重要だという視点。

乳児へのかかわり方を見直すなかで、園が目に見えて変わったという事例もあり、説得力があります。そうした関わりはすぐに子どもの結果として見えるものではないのですが、数ヶ月で園の保育が落ち着いてきたのだとしたら、まず変わったのは大人ということ。乳児の成長(「0歳児の遊びや生活はアクティブラーニングそのもの」とも書かれてます)が大人に教えてくれるものは、それだけ大きいということが表れています。また当たり前ですが、人は生まれてからの連続性のなかで育っている、ということを改めて示しているようにも感じます。

0歳児の保育は、僕自身も我が子がまだ1歳で、保育園に通い始めたばかり(=まさに0歳児クラス)ということもありますが、すごく関心がある分野です。子どもの育ちの原点という意味でも、子育て未経験の親が親として育ちはじめる時期という意味でも。

待機児童や育休の環境の整備がまだまだ追いついていませんが、今後おそらく0歳児保育はもっと増えていくだろうし、いろんな知見を集めたい領域です。


ちなみに対談の一人は、汐見稔幸先生(日本保育学会会長)。2018年からの保育所保育指針の改定にも関わり、あちこちで「0〜2歳児が教育で一番大事」ということを発信されています。

今回の特集でも「保育者はエディターでなくてならない」「表現愛(一挙手一投足をかけがいのないものとして愛していくこと)と翻訳ができて保育の質が一つ保障される」など印象的な言葉が並んでいて、さすがだなと思いました。


別の特集『地域別・持続可能な園になるために(特別編)』は、「まちの保育園」のCC(コミュニティコーディネーター)さんも登場しての対談記事。この対談自体が2017年2月ということもあり、他の媒体でも既出の内容がベースでしたが、CCの方自身の話が載っているメディアは貴重ですね。コミュニティの調整役に加えて、事務員・用務員の仕事を兼ねている、というリアルな話も。

CCの機能分化(他の保育士さんと明確に役割を区別すること)が話題にでていましたが、園ごとの状況が異なる中で、役割をどう分けてポジショニングするかはもちろん、その成果を園内でどう共有するかもキモなんだろうなぁと改めて感じます。


最後にもう一つ、この雑誌で僕が好きなコーナーが『対話の場をつくる』。全く異なる立場の2人が、書簡というかたちを通じて、お互いの意見を交換しあう、めっちゃ素敵な企画だなと思います。

今回はりんごの木の青山さん(保育士)に、関東学院大学の久保さん(研究者)が宛てた、「対話」に関する手紙の返事。青山さんの言葉の真意を、「こうかな?」と掘り下げつつ、新たに久保さんがオリジナルの言葉で返す。書簡のかたちになっているのが、すごく良いなと思います。

「なぜ人は『2割負ける』ことができるのか」。この問いに対して青くんは、「自分とは違う他者であるということを、その人との関わりを通して、自分自身に噛んで含める」ことができた時、「人は誰かに対して『2割負ける』ことができる」と答えました。さらに私が付け加えたいのは「相手の生命力が発揮された方がうれしいし、楽しい。そんな関係ができた時、人は誰かに対して『2割負ける』ことができる」という答えです。

こういう対話、もっと保育の世界にほしいですよね。どうしても「何が正解か」という結論へ話がいきがちですが、本来保育で大事なのはプロセス。それは子どもの育ちだけではなく、大人もきっと同様だと思います。


『保育ナビ(2017年7月号)』


(twitter @masashis06


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