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元アスリートの飲食店ビジネスとセカンドキャリアを考える

 
先日、テレビ番組でも特集をされていたそうなのですが、元競輪選手の十文字貴信さんがセカンドキャリアとしてスタートさせたラーメン店が大盛況の様子です!

そんな彼の記事から今日はアスリートのセカンドキャリアについて少し話してみたいと思います。


十文字さんは競輪選手として長きに渡り活躍!
トラック種目での出場となった1996年のアトランタ五輪では1000mタイムトライアルで銅メダルを獲得しました。


脊柱管狭窄症、ヘルニアからくる神経圧迫、落車による骨折など様々なケガに苦しんだ現役生活でした。

非常に生真面目な生活で現役時代はミリ単位の自転車の調整に朝6時からお昼過ぎまでかかることもあったそう。
そのこだわりの強さがラーメンにもいかんなく発揮されているようで、麺の水の量はもちろん、塩分濃度計まで用いた徹底ぶりから、非常に人気の高いラーメン店として人気を博しています。

アスリートのセカンドキャリアといえば飲食店がなぜか一番に思い浮かびますよね(笑)。
プロ野球選手は女子アナウンサーと結婚するという慣習は最近はあまり聞かなくなってきましたが、スポーツ選手引退後飲食店やりがち、は結構昔から、あるあるなままです。

恐らくですが、十文字さんの店舗は大丈夫だと思うんです。


ではここから、なぜ十文字さんのお店は大丈夫そうなのか、そしてなぜセカンドキャリアの飲食店は失敗するのかを僕なりに考えてみたいと思います。

ということで、まずは失敗する原因について、大きく3つあげると、

・元アスリートの店としての売りしかない
・燃え尽き症候群
・そもそも、ド素人である

という3点が挙げられます。それぞれ説明していきます。


・元アスリートの店としての売りしかない
元アスリートの店に多いパターンがこれです。本人の写真などをデカデカと掲示し、さながらその選手の記念館のようにトロフィーなどがディスプレイされた店舗などは、非常に失敗の確立が高いです。

理由は、顧客のニーズと時間。
そういう店舗にしてしまうとお客さんは料理ではなくその人に会いに来るのが目当てになってしまう。それも、スナックのママのように”会いに行く”のが目的ではなくインスタ用の写真を撮りに行くための”記念に行く”需要。つまりリピーターになりません。
しかも実情は看板にはなっているけど店舗にはほとんどいないことも珍しくない。会えることを期待してきたお客さんの期待を裏切った先には、その方は2度と来ないでしょう。もしかすると、SNSで看板だけってつぶやかれてしまうかもしれません。

さらに、時間は残酷でどんなに素晴らしい選手だったとしても時間は流れ、選手としての知名度はどんどん下がっていくもの。つまり選手としてのブランドのみを打ち出していく場合、開店したその日からブランド価値が下がり続ける看板を掲げて商売をするわけです。ジリ貧になっていくのは目に見えています。厳しいことを言うようですが、どれだけ輝いた過去も、泣きたくなるくらいキレイに忘れ去られてしまうものなんです。こういった元アスリートの店舗は正直、少なくないですよね。


燃え尽き症候群
次の理由は燃え尽き症候群。

燃え尽きって、そんなバカな!って思うかもしれませんがアスリートって多くが本当に純粋で無垢で子供のまま大人になった選手なんです。
だって、子供の頃夢見た、「ああなりたい!」に、本当になれた人達ですよ?
それがどれだけ素晴らしくて、稀有で、一般からかけ離れているか、って結構感覚としてわからないものです。
もちろんアスリートの方は他の誰よりも努力してそこにたどり着いたんですが、ほとんどの人は努力してもそれが実らず、その山を途中で下山せざるを得なかったわけです。
そんな我々でも、部活動を引退するとき、競技を離れるときはやはり一定以上の喪失感はありました。

我々にトップアスリートの本当の心情はわからないように、自分が生涯をかけてやってきた競技の引退を迎えた後の喪失感って、一般の僕らには想像もつかないんだと思うんです。

だから、本人も気づいていない所で燃え尽き症候群になってしまう。だって、あれだけ努力して頑張って結果出して、さあまた今度は違う分野で努力して!って言われても、いや、今までの努力貯金は??って思っちゃいますよね。

でも、アスリートが懸命に努力しているように飲食店も皆努力して生き残りをかけて戦っている。そこに、丸腰で初心者のアスリートが燃え尽き症候群状態でやってきたところで、勝てるわけがないんですよね。


・そもそも、ド素人である
これも多いパターンです。

当然ですが、飲食店を始めるアスリートは最初は飲食店のことはもちろん、経営・ビジネスについても全くのド素人なわけです。
で、ド素人が経営すること自体は全く問題ないし、それでもうまくいくこともたくさんあると思うんです。
じゃあ失敗するド素人ってなにかっていうと、「成功体験のあるド素人」です。

元アスリートはスポーツの世界では成功体験があるわけです。良くも悪くもプライドがある。しかも、スポーツは基本勝ち負けで競われるし、個性を重視される、さらには引退前にはそれなりにわがままも許される選手も多いので、他人の言う通りに下で働くことができないんですよね。

つまり、せっかく持っている成功体験を次の努力に昇華できず、変なプライドとこだわりだけが凝り固まってしまうようなパターン。
これもめちゃめちゃありますよね。結局、成功体験もしてるしお金もあるんです。だからどんぶり勘定でお店も出来ちゃうしなんとなくいい感じになるでしょう!くらいでそろばん弾いちゃう。

本来は飲食に入るのが明らかに後発組になるはずですから、数倍頑張らなければいけないはずです。しかも、アスリートは頑張る力の代表みたいな職業だったはずなのに、引退してビジネスになった途端頑張り方がわからなくなってしまったりする。
そりゃそうです。経営だって勉強したことないし、店舗の運営、マネジメント、メニュー開発。ありとあらゆる業務すべてが、これまでの身体を動かしてパフォーマンスする仕事とは勝手が違いすぎます。


そんな理由から、”安易に始めやすいけど、失敗しやすい”のが元アスリートの飲食店です。


では、十文字さんの店舗をこの3項目と照らし合わせて、どれだけ良い店舗か見てみましょう!

まず、1つ目の
・元アスリートの店としての売りしかない
これは全く当てはまらないですね。むしろ、十文字選手についての掲載など店内には一つもありません。おいしいラーメン屋さんとして繁盛し、それが話題となり、十文字さんのお店らしいよっていう逆連鎖が起きてます。文句の付け所がありません。

2つ目の
・燃え尽き症候群
ここについても全くないです。数々のケガに悩まされたことで、選手としての限界をすでに超えていたことを本人も悟っての引退だったことも大きいでしょう、選手として精一杯やれたという思いが強かったのかもしれません。選手の頃のようなこだわりっぷりが顕在なところをみると、完全にラーメンに熱中しきっているのがわかります。

最後の
そもそも、ド素人である
もちろん、最初はド素人だった十文字さんですが、なんと独学の研究ののちに都合4年もの間、白河ラーメンのお店に通いつめたそうです。その謙虚な姿勢から、本来一番機械に代替えされる”均一性”において、人の手でしかできない領域までたどり着きました。
例えば、粉〇kg、水〇リットル、って毎日やっても絶対同じ味にならないそう。気温や湿度だけの要因でもなく、毎回レシピが変わるのだそう。そこは持ち前の”こだわり”から来る繊細な感覚と、ミリ単位の計測があってこそ実現できるのです。

つまり、よくありがちなアスリートのセカンドキャリア店舗とは確実に一線を画す”本気で旨い店”が十文字選手のお店のようです。
https://tabelog.com/chiba/A1203/A120301/12044511/

書いているだけで食べたくなってきましたね(笑)。

アスリートのセカンドキャリア問題、そこについては専門の教育機関があってもいいなって思います。
あれだけ努力したアスリートですから、引退後の年金とかもいいですが、もっと次の挑戦をする時にも誰かが支えて上げられる仕組みができてくることがスポーツ界の前進につながる気がしました。

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