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古代の祭礼具・柄香炉

お香文化のはじまり

仏前や神前で香を焚くという儀式は古代から中東や北アフリカ・アジア地域一帯に広がる風習です。
そして日本での香を焚く習慣は中国から渡ってきますが、根底にはインドの文化を継承しています。

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日本よりずっと暑いインドでは身の回りのさまざまな悪臭を払うために香を体に塗ったり、燻す習慣がありました。
またそうすることが客人を迎える上でのマナーでもありました。
この習慣が仏前の供養に取り入れられ、仏様を礼拝所に迎える儀式において重要なプログラムになります。儀式を始めるにあたり大切なことと定められるのです。
実際にお香や香りのする花を捧げることを大切にする記載が仏典に古くからあります。
今日でも法要や葬儀で空間を清め、式典の始まりに欠かせないものになっており、香を焚くというのは香りで空間を浄化し、良い香りそのものが供物としての側面も持つものなのです。

種類の分かれ方

お香に関連する道具は香を焚く為の道具、香を保管する道具や携帯するものと分化しその道具の中に「柄香炉」というものがあります。

取手がついているので片手で持つことが前提にある仏具です。
なので空いたもう片方の手でお香を焚べることができます。

法要ではお坊さんが仏前で手に持って香りを捧げるために使います。また行事によっては香を焚きながら歩くこともあるので僕は空間や導線を清めるものとも捉えています。

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この仏具は仏教伝来と共に日本にやってきます。仏具の中では最古のものの分類に入ります。奈良の正倉院には合計5口の当時の柄香炉が収蔵されています。

日本の柄香炉はこの正倉院宝物や中国から古い時代に持ち込まれたレプリカやそれをアレンジしたデザインのものが多いです。
分類法は香炉の炉の部分の形状か柄の尾っぽの部分で呼称する場合と何らかのお寺の宝物のレプリカならそのお寺の名前を冠する場合とがあります。

まず香炉部分での名称分けは香炉の口が外反りした形を「朝顔型」といい、香炉自体が蓮の花を模したものを「蓮華型」と言います。

柄の尾っぽの部分は尾端と呼び鎮子(ちんす)という重りがついています。この重りの部分を獅子型瓶鎮型、重りではないが形状から鵲尾型(しゃくび・じゃくび)の呼び分けがされます。
獅子型は狛犬のように座った獅子が、瓶型は水差の瓶を模した重りがついているものを指します。

鵲尾型と言うのは柄を下に折り曲げ先端を三又に形どり鵲(カササギ)の尾っぽのようにした形状からこの名がついています。

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ちなみに七夕の夜に一夜だけ天の川に「カササギ橋」という橋がかかります。
織姫と彦星はこの橋を渡って再会するそうです。そのため鵲(カササギ)は良縁をもたらす鳥とされており、これも中国から来た文化です。


柄香炉はどこから来たか

この柄香炉という仏具は日本にとってはインド由来のものと考えるかもしれませんが実は香を焚く習慣のあった全地域に広がっています。

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インドで土や金属で作られた古代の発掘品が出土していますが柄香炉自体はより西方にあたるエジプトの壁画の中にも描かれています。エジプトでは紀元前1100年くらいの儀式の壁画に描かれているのでこうした文化自体はおそらく相当むかしから存在し、広い地域に見られたものと考えられます。

ただ年代で1番古い記録がエジプトではありますが、この道具の起源がエジプトや古代オリエントのような中東地域なのかははっきりしていません。インドで発現し西にも東にも広がったという可能性もあります。

起源を証明する証拠は見つかっていませんが、シルクロード一帯に広がっている古代からの祭礼具であるということです。

ケアと気をつけること

今日のものはほとんどが金属製なので取り扱いもケアもそれほど難しくありません。使わない時は箱にしまって、使う時に軽く拭いて使うにようにすれば長く使えます。

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真鍮製の金メッキのものであればある程度は市販の金属磨きで磨けば汚れやクスミは取り除けます。拭き取る道具はフェルトのような柔らかい布や新聞紙を使うのが良いです。

ただ注意していただきたいのは金メッキであれば良いのですが、金塗装や金箔を押したもの、組紐を巻いたものなどはそれぞれにケアの方法が違うので色がくすんで来た場合や紐が緩んできた場合は専門の仏具店などに委ねることをお勧めします。
またこれまで見た数は少ないですが木製のものも存在します。この手のものは表面に防染や防火の塗装がしてあるのでフェルトのような柔らかな布で軽く乾拭きするくらいで良いと思います。
水や薬剤を使うと折角の塗装が剥がれる原因になります。

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