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賢者の石と同じ材料を使った工芸品がある。

賢者の石は身近にある?

辰砂という鉱石を知っていますか?
天然の硫化水銀の塊で日本では古くは「丹」(に)という名前で呼ばれていた赤色の金属のことです。

水銀を作る材料であり、日本では朱塗りの漆器の赤い色を出すための染料に使われています。

そしてあの不老不死の霊薬「エリクサー」とか「賢者の石」とかの材料とも言われているものです。

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そもそも朱塗りの漆器って?

朱塗りの漆器を簡単に説明すると・・・・。

『ウルシという木の樹液に赤い染料を混ぜてできる塗料を木製の器にコーティングをしてできます。』

このウルシの木というのは日本や中国、東南アジアに分布するウルシ科ウルシ属の背の高い落葉樹です。
ですので実は漆器というものは日本以外の国でも作られています。

中国はもちろん、例えば3000を超える仏塔群で有名なミャンマー仏教の聖地・パガンも有名な漆器の産地です。
ここではお寺の入り口でパガン漆器がお土産として売られたいました。

ただこのパガンの漆器は日本のものとちょっと違うところがあります。

本体の色は真っ黒なものしかないです。

これはなぜかというと東南アジアのウルシの樹液は黒色だからです。
ですので黒い漆器しか作れないのです。

一方で日本や中国で取れる樹液は乳白色で、精錬することで半透明の液体になります。

この半透明の液体に鉄分や煤を加えて黒くしたり顔料を入れて赤や白など自由に色を作ることができるので、日本や中国の漆器には色のバリエーションがあるのです。

この赤い色のウルシの色を朱色と言います。

辰砂は最も古い朱色の素材で古代の日本では赤い色の絵具としても用いられており、奈良県の高松塚古墳の壁画にも利用されています。

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(どんな色でも作れるのでストライプの柄も作れる。)

辰砂って何か?

硫化水銀の鉱石である辰砂は日本では古代から「丹」(に)と言います。

辰砂は熱することで水銀水蒸気と亜硫酸ガスとに分離し、その水蒸気を冷やすと銀色の液体の水銀になります。
一方、そのまま砕いて粉状にしたものをウルシ樹液に混ぜて朱色の漆ができます。

また「丹」が取れる土地のことを古代から「丹生」と言います。
国内では三重県の多気郡に丹生という土地があり、古代から辰砂の鉱山がある場所です。
そのほかに国内では奈良県宇陀市や徳島県阿南市でも大昔から採取されていました。
それだけ「丹」という言葉自体も古くからあったことがわかり、大昔の日本文化の中に存在したことがわかると思います。

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「丹」て何?

中国独自の宗教・道教には西洋でいう錬金術のような「練丹術」という秘術が伝えられています。

錬金術とは黄金じゃない金属から黄金を作る力を持ち、不老不死の秘薬ともなる「賢者の石」をつくる秘術で錬丹術にも同じように不老不死の秘薬として「仙丹」という霊薬が登場します。

この霊薬を作る材料こそが辰砂と考えられていました。

あの錬金術の有名な漫画にも出てくる賢者の石はこの辰砂の鉱石にそっくりですし、錬丹術というのもちゃんとでてきますね。

古代中国ではこの「丹」は不老不死の象徴であり、辰砂から作れる水銀も永遠の命を与えるものと考えられていました。
そのため本来の毒性を考えると全く真逆の効果なのですが、権力者たちは水銀を薬として飲用していたそうです。
大昔の中国では本気で霊薬と考えていたのです。

ちなみに漆器に使われた辰砂を含んだ塗料には毒性はありません。

これは漆器の中の水銀は毒性のある水銀とはちょっとちがう毒性のない硫化第二水銀というものだからです。
人体の中に取り込まれても残留性はなく体外に出ていきます。水銀中毒にはなりません。
なので朱塗りの漆器を使い続けても水銀中毒にはなりません。
そしてもちろん不老不死にもなりません。

ですが漆を使った工芸品というのは丁寧に扱うと非常に丈夫で長持ちします。
実は日本では縄文時代に作られた漆器の容器やお皿が出土していたりします。

こっちは大切に使えば不老不死とは言わないまでも人間よりずっと長寿です。

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