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リーダーのつぶやき、フォロワーのつぶやき:第1話

池中正司

 1年以上にわたって書いてきた、リーダーシップについてのお話は、「リーダーシップの本質」としてマガジンにまとめました。少し理論中心になって、読みにくい部分も多かったかと思いますので、今回以降は、「リーダーのつぶやき、フォロワーのつぶやき」というテーマで、組織で起こる上司と部下との織りなす人間模様や、心のつぶやきなどよくある事例などから綴った後に、少しばかり解説をしていきたいと思います。多くの方々に、読んでいただければうれしいです。

  第1話では、あまり意見を言わない、新任の係長の例を取り上げてみましょう。
 総務課のAさんとBさんとが、仕事帰りに、久しぶりに居酒屋で飲もうということになって会社近くの店で飲んでいるときの会話です。
 「今度赴任して来たうちのS係長、もう少しリーダーシップを発揮して、部下を引っ張って欲しいよな。」とAさんが切り出すと、「そうそう。この前の係の会議のときも、係長がはっきりと結論を言わないから、結局会議が長引いてしまったよな」とBさん。生ビールを傾けながら。「俺は、どうも今度の係長は、狡猾そうなところがあるから、リーダーとしては認めていない、だから、心底ついていくのはやめておこうと思うんだ。」と、「そうだよな。はっきりと言わないからずるいよな。例えば、この前の会社挙げての不用品の廃棄の日についても、来週の火曜日に1階のフロアに持っていくようにと係長から伝達があったので、8月2日ですよねと確認したんだ。」すると「あのおっさん、来週の火曜日です。としか答えないんだよ。」「はっきり言えよなっ!て感じだよ。間違うじゃん!」ジョッキを飲み干したAさんは、「生もう一杯」お代わりを注文。Bさんも続いて「俺も、同じものを」と係長の名前ではなく、以降は、S係長のことは、おっさんとなり、会社のことなどを肴に、2人の夜は更けていきました。

 一方、当のS係長は単身赴任先のマンションで、夕食後のウイスキーをなめながらひとりつぶやいています。「総務係長になって1週間が経過した。初めて部下社員を持つことになったが、うちの課の社員は、自分の意見を持たないから会議でも発言がない。かといって、自分が決めてしまうと、ワンマンと思われるかもしれないし、自分としては、民主的なリーダーを心がけたい。それと、リスクが自分に降りかかってしまうおそれがあるから、結論は自分から言い出さないでおこう。」カランとウイスキーの氷が溶ける音がした……。

会議の内容や平素の係長の言動など詳しくわからないので、何とも言い難いのですが、居酒屋での会話など結構よくあるやり取りではないでしょうか。係長の心のつぶやきで、係長の考えもよくわかりました。これらのやり取りの中から、リーダーシップについて重要なポイントが見え隠れするので、解説していきたいと思います。
 Aさんの発言では「…リーダーシップを発揮して、部下を引っ張って欲しい…」と言っています。Aさんの描くリーダーシップについての考えは、部下を引っ張っていくものだということだと思います。強いリーダーにあこがれているのかもしれません。リーダーシップについて、このような考え方は今も根強い人気があります。特に、不確実性が高まってくるほど、誰かヒーローが現れて、問題を解決してくれる、部下社員を導いてくれるということを抱くことも多くなってきます。これらは、フォロワーの間で、日常的に作り上げられた概念で「リーダーシップの幻想」と呼ばれています。
 Bさんは、「…心底ついていくのはやめておこうと思うんだ」と言っています。その理由として「狡猾そうなところがあるから」だそうです。Bさんは、係長が赴任してまだ1週間なのに、すでに係長のことをリーダーとして認めていません。このことは、拙著、「マガジン」の第8話でも述べた「再認過程」という人の情報処理過程が影響しています。人は「リーダーとはこういう人であるという一連のリーダー像」(「リーダー・プロトタイプ像」と呼びます。)を持っており、フェイスツーフェイスで接することが多いリーダーについては、「再認過程」による情報処理方法により、自身の「リーダー・プロトタイプ像」をもとに直感的に、しかも瞬時に、判断する傾向があります。そのような認知上の情報処理の過程から、リーダー的でないと判断したのでしょう。
 また、Bさんの言う「心底ついていく」ということもリーダーシップを理解するのに大切なフレーズです。リーダーシップは、リーダーと、ついてくるフォロワーがいて初めて成立する現象です。Bさんは、心底ついていくことをしないというのですから、Bさんと新任の係長との間には、リーダーシップという現象は存在していないということです。リーダーシップとは、リーダーとフォロワーとの相互影響関係の中から生じてくるものです。Aさんの言う如く、一方的にフォロワーを引っ張っていくものではなく、相互影響関係です。つまり、リーダーが影響力を行使し、フォロワーがそれを受容して、フォロワーのものの考え方や行動、感情の変化が現れ、リーダーからの影響を受けた場合に、リーダーシップという現象が現れる。よって、フォロワーの受容なしにリーダーシップは成立しません。そして、フォロワーはリーダーに無条件についていくのではなく、フォロワーの追従は、リーダーと相互影響関係を続けながら形成されていきます。フォロワーが無条件にリーダーのその影響力を受容するとは限らないことに注意をする必要があります。フォロワーがリーダーに対して一定の影響力を行使して、リーダーの言動を修正させたりすることもあります。よって、フォロワーからのリーダーへの影響力も考慮していく必要があります。つまり、相互影響関係を考慮しなければならないということです(興味がある方は、拙著「マガジン」第3話を参照願います)。Bさんと、赴任1週間のS係長との間では、リーダーシップという現象は発生していないようですが、今後、係長と相互影響関係を続けていくうちに、リーダーシップ関係に発展していくかもしれませんし、そうならないかもしれません。カギとなるのは、新任の係長と部下社員との相互影響関係の内容次第です。
 
 次に、初めて部下社員を持つことになったS係長に注目してみましょう。
S係長のつぶやきでは、「…、民主的なリーダーを心がけたい。それと、リスクが自分に降りかかってしまうおそれがあるから、結論は自分から言い出さないでおこう。」と言っています。民主的なリーダー、これはこれで、S係長のリーダーシップの持論ですから否定するものではありません。しかし、気になるのは、その後の「…リスクが自分に…」という部分です。
 答えや解き方がわからない課題に立ち向かおうとするのがリーダーシップです。課題達成のために、会社であれば、社内の中で、慣れ親しんだ習慣を変えなければならなくなるかもしれません。このような場合、変わりたくない人達からの抵抗や反発にあうリスクもあります。よって、真のリーダーは常に、攻撃や批判をされるというリスクはつきものです。そして、リーダー個人のみでなく、他部門などからの攻撃や批判から、自分を信じてついてきてくれる部下社員をも守るということも重要なことです。リーダーが常にそのような姿勢を貫くことによって、部下社員からのリーダーへの信頼が蓄積されていきます。S係長が、他の事柄についても、本人の、心のつぶやきのような自身へのリスク回避の姿勢で臨むとするならば、部下社員からの信頼を得ることなど程遠いでしょう。
「S係長、頼みますよ。目を覚ましてください!!このままでは、持論である民主的リーダーにもなることができませんよ。」と耳元でささやいてあげたいものです。

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池中正司
組織の中で1人でも部下を持ったら、リーダーシップなど様々なことで悩むことが多くなると思います。そのような悩みにこたえるべく、筆者の経験と研究の成果をお伝えしていきます。