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乃木坂46にみる「ブランド戦略」3

 「仲悪いのか・仲がいいのかと聞かれると困ってしまう。良いと言うと「嘘でしょ」と思われるし、だからといって悪くないのに悪いとは言えない」高山一実(乃木坂46)

 この発言は乃木坂46というグループの性格を端的に表していると思います。良い/悪いという返答によってどういう影響が出るのか、そういうことを気にする人が集まっている。

 私はこれまで2度、乃木坂46のブランド論として文章を書いてきました。今回はその第3弾として、ブランドの「継承と終幕」について論じたいと思います。

 始めてレコード大賞を受賞したインフルエンサー(17年)まで、乃木坂46が歌う曲は「文系的な」踏み出せない恋愛/友情を主題として、ネガティブな意味での感情表現を主としてきました。

 これが恋と知ってしまったんだ 1本のコーラ 2人飲んでから 急に僕たちはドキドキとして お互いに異性だと思いだす 今までならきっと逃げてただろう 君のことを失うのが怖い 片想いなら黙っていればいい 両思いなら気づかなければいい 『今話したい誰かがいる』(15年)

 その後表題曲はアップテンポな曲調でポジティブな歌詞の曲も増えてきましたが、一貫して感情表現に抑制的な歌が多いと思います。それはまるで、ライバルであるAKB48の代表曲『会いたかった』の一節「好きならば好きだと言おう」に対して反論しているかのようです。

 今年、結成10年目を迎えた乃木坂46は、アイドルグループとしてはかなり長命となっています(後述しますが、おニャン子クラブは活動期間は僅か2年半)。この間、メンバーの大幅入れ替えやイメージチェンジなどもせず、乃木坂46は「アイドルの理想形」として存在し続けています。

 この長期間にわたる状態の維持「永遠に続く理想形」は、いうなれば日常系アニメと近いものがあります。古くは『うる星やつら』『究極超人あ~る』、近年では『らきすた』『ハルヒ』『けいおん』のような。 
 このような「永遠に続く理想形」≒学園生活をモデル化する時は極力、同性のみ、できれば大人もいないほうが構成しやすい。スポ根運動部的な成長・目標もなく、バチバチとしたぶつかり合いも先輩・後輩の関係も薄く、ただただ快適・安穏な日々を過ごすファンタジーの日常です。

 さて、社会学者の宇野常寛は「(日常系)空気系」(すなわち日常系アニメ)は「架空年代記(サーガ)」から移行したもの、と分析しています。つまり過去の作品にはあったサーガ性は今のアニメ・マンガでは希薄になっている、と。
 サーガ性がある作品では、登場人物が作品内で死んだり、子供を生んだりすることで世代交代が行われます。また同時にキャラクターの成長(ビルドゥングスロマン)が起こっていくわけです。
 そういった要素が日常系アニメではない。

キャラクターの成長、生き死に、そして次の世代と受け継がれるサーガ性をもった作品

 これらアニメ・マンガと異なり乃木坂46は現実に生きるアイドルですから、永遠に同じ日常を繰り返すわけにはいきません。自然の摂理に従って成長していきます。
 だから現実のアイドルは10代から20代前半の比較的短い期間でのみ活動するわけですが、その中で乃木坂46は卒業そして新人の加入を繰り返しながらも、過去からのイメージを壊すことなく日常系アニメのような「永遠に続く理想形」を形成・維持しています

 なぜ登場人物が入れ替わるのにイメージが変わらないのか。
 それはイメージが「ブランド」として残っているからです。アニメ・マンガの「キャラクター」による動かざるファンタジーではありません。

 このブランド、すなわち「乃木坂らしさ」はその形成・維持に少なからぬ努力と精密なコントロールがされている、ということはこれまでの文章でも説明してきました。

 そもそも乃木坂46は2011年、東日本大震災の下で産声をあげました。当時、国民的アイドルとして被災地への訪問など、公的な事業にも駆り出されていたAKB48の「公式ライバル」=アンチテーゼとして誕生したのは多くの方に知られていると思います。
 ところでAKBといえば、「ガチです」という言葉に代表される、選抜制・総選挙・恒常的な劇場公演など常にヒリつく様な状況で戦い、成長していく姿が前面に押し出されています。
 では、乃木坂に与えられた「ガチ」に対するアンチテーゼとは何か?

 「ガチ」とは、総選挙などの様々な環境下で活動している彼女たちの成長を応援・見守ること。それは裏を返せば芸人的な「いじり」と近く、最近人気を集めるリアリティショーともとれます。
 対して乃木坂46は、総選挙や劇場でのライブを持たないので「ガチな」状況には置かれません。その代わり恣意的にチョイスされた「ネタ」によってコントロール(つまりブランディング)されています。彼女たちの姿を定期的に見ることができるのは「乃木坂ってどこ?」「乃木坂工事中」などのTV番組ですが、そこで蓄積されていく情報も編集され取捨選択された、キャラクターとしての「ネタ」です。

 「会いに行けるアイドル」=「AKB48」は毎日劇場で、あるいはブログで、その生の姿を「ダダ漏れ」にする。するとそこで得られた情報……「舞台で前田敦子がこんなことを言った」「大島優子と篠田麻里子がこんな風に絡んでいた」という情報がもち帰られ、ネットワーク上などのファンコミュニティに投下される。投下された情報は、ファンコミュニティで共有される中で「メンバーの○○は~な性格」「メンバーの△△と××はとても仲が良く、姉妹のような関係と半ばn次創作的な妄想を含んで「ネタ」になっていく。……(中略)……「おニャン子クラブ」において舞台裏を半分見せることで確保されていたリアリティ(キャラクター設定の支援装置)は、「AKB48」ではネットワークを背景にしたファンコミュニティからの自動生成によって確保されているのだ。宇野常寛『リトル・ピープルの時代』より

 その「ネタ」を活用した秋元自身のメタな2次創作が「マジすか学園」シリーズ(及び「キャバすか学園」「マジムリ学園」など)です。しかし、これらTVドラマが次々に制作されているのに対し、乃木坂46が主演したドラマシリーズは「初森ベマーズ」(15年)しかありません。
 これも「ネタ」の供給をあえて抑えることでコントロール=ブランディングをしているとも考えられます。

 公式がやった二次創作。エケペディア(AKB関連のウィキペディア)に書き込まれた「ネタ」をドラマに織り込むなどしてファンとの相乗効果を生んだ。

 プロレスも毎週ネタを提供してくれていますね。やっぱりAKB的な「ガチ」はプロレスと近いものがあるように感じます。

 改めてブランドとは?という話をしていきます。
 多くのブランドの名前が人名になっているのは、その人物の生涯や思想がブランドイメージに大きな影響を与えているからです。世界に冠たるエルメスもギリシア神話の神と同じ綴りですが、創業者の名前です。
 例えばフェラーリは創業者エンツォ・フェラーリと不可分のイメージですし、シャネルもココ・シャネルの人柄からの強い影響があります。また良くも悪くもジブリ作品のブランドイメージは宮崎駿です。
 
 乃木坂46のブランドイメージを牽引してきた人物として、多くの方が思い浮かべるのは白石麻衣ですが彼女は今年、卒業することを発表しました。
 この卒業とからめて今回のテーマを「継承と終焉」にしたのは、人物と強く関連付けられている「ブランド」イメージでは、その人物がいなくなった後の後継者が何よりも重要になることを論じたかったからです。

エットーレには息子ジャンがいたが、テストドライブ中に事故死した。その後第二次世界大戦の影響もあり、不遇のまま死去。工場も閉鎖された。

 エンツォが理想としていた20世紀前半の自動車メーカー、ブガッティは後継者に恵まれず、廃業することになりました。
 一方、エンツォ死後のフェラーリも後継者不在で混乱しましたが、モンテゼーモロという稀代の経営者が跡を継いでくれたおかげで、その後世界的ブランドとしての命脈を保ちました。

エンツォの死後、お家騒動で混乱したフェラーリに親会社フィアットのジャンニ・アニエリが送り込んだのがモンテゼーモロだった。彼はフェラーリを立て直したばかりでなく、F1でもシューマッハを擁し常勝軍団を作り出した。その後、イタリア経団連会長も努め、トリノ冬期オリンピックに尽力。

 先日私が記事を書いたある社長が言っていました。「歴史あるブランドを、自分がやらないことによって終わらせることはできない、ブランドは長く続かせることに意義があるのだ」と。

 ここで、アイドルとそのエースと呼ばれる人がどれだけ在籍していたかを幾つかピックアップしてみたデータをご覧いただきます。

AKB48
前田敦子 91年生まれ、活動期間05-12年(7年間)。14歳から21歳。
渡辺麻友 94年生まれ、活動期間07-17年(10年間)。13歳から23歳。
モーニング娘。
安倍なつみ 81年生まれ、活動期間97-04年(7年間)。16歳から23歳。
後藤真希 85年生まれ、活動期間99-02年(3年間)。14歳から17歳。
おニャン子クラブ 活動期間85年4月-87年9月(2年半)
山口百恵 59年生まれ、活動期間72-80年(8年間)、13歳から21歳。
乃木坂46
白石麻衣 92年生まれ、活動期間11年-20年(9年間)、19-28歳。

 これを見ると、白石麻衣はデビュー年齢(19歳)からしても比較的長期にわたって在籍していることが見て取れます。

2年くらい前から卒業は考えていた、という白石。その2018年は生駒里奈の卒業や、四期生の募集、初の海外単独公演(上海)などの時期と重なる。

 こうしてみるとビートルズ(60-70年、活動期間10年間)もそうでしたが、メンバー交替、すなわちブランドイメージの継承はとても難しいことが分かります。後継者がイメージが継承することはできないなら解散してしまおう、というのは多いと思います。
 それを、白石麻衣は長期にわたってあえて卒業せず、後進の育成に努めました。3期生が各々キャラクターを確立していくと同時に、海外進出や四期生加入など、しばらくはブランドイメージの象徴である自分が残ることで継承していった。

 この時期の乃木坂46は、三期生四期生をフィーチャリングした舞台・番組などを続けて制作すると同時に、選抜メンバーに彼女たちを入れることでメディアの光が当たるよう注意しています。彼女たちを次世代のエースとして強調することで、白石卒業後も「乃木坂46ブランド」が継続していくことを意図しています。

 同時にファンの年齢層を更新し、常に同世代のファンがつくようにキープしている。これも大事なファクターです。一期生平均年齢25.0歳、三期生20.4歳、四期生18.56歳と世代を変えていっている

 どうしてもアイドルファン、特に若い男性ファンは自分と同世代のメンバーのファンになる。なのでメンバーの成長と共にファンの年齢も上がり先細りになっていくのですが、そこを定期的に若年のメンバーを加入させることでメンバーだけでなくファンの新陳代謝も行っているのです。

 メンバーもファンも入れ替わるのに、変わらない乃木坂らしさ=ブランドイメージを維持し続けているのです。

 さて、そこで注目するのが欅坂46です。

 欅坂46のイメージといえば平手友梨奈を挙げざるを得ません。
 デビューからセンターを努め続けた彼女のパフォーマンスや言動が欅坂46のシンボルとなり、イメージを形成してきました。

 平手が電撃的に脱退を発表したのが今年の1月。奇しくも白石麻衣と同時期でした。

 欅坂46は平手脱退前の約1年間、19年3月からシングルを発表しておらず、その動向が危惧されていました。
 そもそも活動期間の限られているアイドルグループが、1年以上も新曲を発表しないというのは極めて異例のことです。

 欅坂46の二期生に至っては、加入以来1年以上も新曲発表がなく、いわば飼い殺しになっていました。これは新メンバー加入後、すぐにセンターに抜擢しながら育成してきた乃木坂46と大きく違います。

 平手が新曲に納得いかなかったから発表が伸びたとか、グループ内でのゴタゴタがあったとか、そういうゴシップ的なことはここでは論じません。
 ただ明らかなのは、平手友梨奈という存在を失って以後の欅坂46は、そのブランドのイメージを形成することができなかった、ということです。だから結局のところ1年半も新曲を発表できず、欅坂46はその歴史に幕を閉じることになりました(8月にラストシングルの発表はありました)。

 欅坂46が名前を失うということは、ブランドの終焉です。先輩である乃木坂46が成功してきたブランドの継承に、欅坂は失敗したということです。

 先程の後継者の話で考えるのであれば、欅坂46は平手友梨奈のブランドイメージが強すぎて「平手なき欅坂46」「後継者の欅坂46」をイメージできなかった一方乃木坂は、周到に白石以外の乃木坂イメージを形成してきている。長年かけて次世代のエースを強調し、印象づけてきてきました。

 ……欅坂46は改名して再出発することを公表しています。ブランドを捨て去り新たな衣をまとうことは、どのような影響を及ぼすのか。ブランドイメージの再建という、新たな難題に立ち向かおうとしていることは注目です。


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