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守るべきものが無くて、戦ってはいけないのか?

寒い……。

この時16歳(笑)

急に寒くなってきましたね。思わずハマーン様のこのセリフを口に出してしまっています。
……ところで、このセリフの後に続く言葉を覚えてますでしょうか(と強引に今回のテーマに引っ張り込もうとしてみたり)。 

ここにあと何年……

と続くのですが、そこからは地球から遠く離れたアクシズであとどれくらい雌伏の時間を過ごさねばならないのかという苦渋と地球圏への望郷の念がにじみ出ています(結果的には4年くらいで帰って来るんですけどね)。

さて、ハマーンのセリフを紹介したついでにもう一つ、地球圏に帰還した後の彼女の演説を引用します。

栄光あるネオ・ジオンの兵士達よ。かつて我々を暗黒の世界へ押しやった者どもは、今、我々の足下にいる。愚かな人間たちに思い知らせる時が来たのだ。今や地球圏は我々ネオ・ジオンの物だと。機は熟した。共に戦おう、ネオ・ジオンのために。ネオ・ジオンの栄光のために(『機動戦士ガンダムZZ』第22話「ジュドー、出撃!!」より)

巨大ホログラフィとかやけに芝居かかってる

いやあ、カッコイイ。いよいよ地球降下作戦が開始される際に兵士たちを鼓舞した時の演説です。

もちろん制作的にはTV『ガンダムZZ』放送の方が『0083』より前なのですが、物語の時系列を考えると『0083』の時のハマーンの想いが地球降下作戦の時にいよいよ結実したと思ってジーンと来るものがあります。

しかしながら気になるのが、この時の演説には「ニュータイプ」という言葉が出てこないこと

「愚かな人間たち」は自分たちネオ・ジオン=スペースノイド=ニュータイプに打倒されるべき存在だ、と解釈することもできるのですが、それにしても堂々と「人の革新」をうたったギレンの演説よりトーンは低めです。

 

私のこのあたりの論については以前に書いた「何を言うか、独裁を目論む男が何を言うか!」(https://note.com/masashi3122/n/nba2fcce09499)を先に読んでいただけると分かり易いのですが、ギレンの演説はTV版と劇場版では内容が少し異なっているのですね。端的に言うとTV版ではアースノイド=エリートに対抗するスペースノイド=虐げられてきた人々の構造で国民に決起を促していたのに対し、劇場版ではスペースノイド=「人類の革新」ニュータイプが地球圏を支配するのは使命だ、アースノイドは旧人類だから打倒されるべきという論理に変わっている。

その違いを頭に入れつつ前掲のハマーンの演説を読んでみると、どうもTV版の方のギレン演説に近い論調とも感じられるのです。

つまり「スペースノイドはニュータイプだから地球圏を支配していいのだ」じゃなくて、「国土を取り上げられてアステロイドベルトに追いやられていたジオンが力を取り戻して帰ってきた、腐敗した地球連邦ではなく自分たちのほうが地球圏を支配するのに正当だ」と言っているようにも聞こえる。

なんでこんなにニュータイプを前面に押し出さなくなったのかな?

強化人間によって人工的にニュータイプっぽい能力を引き出せるようになったからかな、とも思うのですが(強化人間って「人の革新」とは程遠い気がしますけどね)。

 ここでちょっと長いですが『逆襲のシャア』でのシャアの演説を引用します(すみません、私の根っこが歴史研究者だったので資料からの引用で論を構築していくのがクセになっているのです。お付き合い下され)。

このコロニー、スウィートウォーターは、密閉型とオープン型を繋ぎ合わせて建造された、きわめて不安定な物である。それも過去の宇宙戦争で生まれた難民の為に急遽建造されたものだからだ。しかも地球連邦政府が難民に対して行った施策はここまでで入れ物さえ作ればよしとして彼らは地球に引きこもり、我々に地球を解放することはしなかったのである。私の父ジオン・ダイクンが宇宙移民者、すなわちスペースノイドの自治権を地球に要求した時、父ジオンはザビ家に暗殺された。そしてそのザビ家一統はジオン公国を騙り、地球に独立戦争を仕掛けたのである。その結果は諸君らが知っている通り、ザビ家の敗北に終わった。それはいい。しかしその結果、地球連邦政府は増長し、連邦軍の内部は腐敗し、ティターンズのような反連邦政府運動を生み、ザビ家の残党を騙るハマーンの跳梁ともなった。 これが難民を生んだ歴史である!ここに至って私は、人類が今後絶対に戦争を繰り返さないようにすべきだと確信したのである!それが、アクシズを地球に落とす作戦の真の目的である。これによって、地球圏の戦争の源である、地球に居続ける人々を粛清する諸君!自らの道を拓く為、難民のための政治を手に入れる為に、あと一息、諸君らの力を私に貸していただきたい!そして私は、父ジオンのもとに召されるであろう!

ここまで本稿を読んでもらった方はご理解していただけると思いますが、一読して分かるのはここでも「人の革新」ニュータイプについては一切語っていない。むしろTV版ギレン演説やハマーン演説のように、虐げられてきたスペースノイドこそ腐敗した連邦に代わって地球圏を支配した方が良いんだ、という論調になっている。

これらから言えることは「ニュータイプ」思想はスペースノイドの求心力としてはもうイマイチになっているのではないかということです。

「人の革新」って言ったって海のモノとも山のモノともつかないし、なんなら強化した人間でもニュータイプっぽいことができる。

ハサウェイ「でも、あの人初めてモビルスーツに乗った時にちゃんと操縦して、ジオン軍のザクってのを倒したんだぜ」
クェス「ほんとかな」
ハサウェイ「コックピットに座っただけで、ガンダムの配線なんか全部わかったって」
クェス「ううん。それをニュータイプっていうんだ?」
ハサウェイ「そうさ」
クェス「インドのクリスチーナが言ってたのと違うな。ニュータイプは、物とか人の存在を正確に理解できる人のことだよ。それもさ、どんなに距離が離れていてもそういうのがわかるようになるの」(『逆襲のシャア』より)

ニュータイプ認識の相違

「ニュータイプ」を提唱したジオン・ダイクンが死亡して四半世紀を経ても、人類は「ニュータイプ」についてこのくらいのふわっとした理解しかできていない。だから現実問題として数十億の人間を束ねる思想になっていない。

じゃあスペースノイドはハマーンやシャアのどこに期待して支持していたのか。

それは地球連邦に取り上げられてしまった自分たちの国土、生活の場を取り戻したいという切実な想いからだったと思います。

 

……ここからちょっとガンダムから話が離れます。

2022年2月からロシアがウクライナに侵攻し、今も継続中です。

日本からこの戦争を見ている限り、ロシアはウクライナを侵略しウクライナはそれを防衛しているという構造になっています。もちろんそれは間違いないのですが、なぜロシアの国民はそんな不正義な戦争を容認しているのでしょうか?

私のロシアの知り合いは反対している」とか「ロシア人は報道統制されていて事実を知らないからだ」とかSNS上ではいくらでも語られているのですが、もう一度言うように根っこが歴史研究者の自分はそういう「感覚的」なモノで物事は判断してはならないことを大前提にして話します。

改めて「事実」を積み上げようとした時、ここでもプーチンの「演説」を引き合いに出したいと思います(ね、面倒くさいでしょ)。

「われわれはあらゆる力と手段を講じて、ロシアの領土を守る国民の安全を確保するためすべての力を尽くす」(2022年9月30日ウクライナ4州のロシア併合についての演説より)

ウクライナの土地なのに故郷って言っちゃってるし

この稿の執筆時(10月8日)の直近でのプーチンの演説ですが、これを聞いた多くの人は「侵略している側の人間が何を言ってやがる」と思われたのではないでしょうか。他国を侵略することがロシア国民を守ることになるのか?それが「予防戦争」というヤツなのか?と疑問を感じた方もいらっしゃると思います。

このプーチン演説に内在する論理を読み解くために、次に開戦直前のプーチンの演説について挙げます(訳についてはNHKweb版より引用しました)。

「私たちからの(NATOに対する、筆者註)提案に対して、私たちが常に直面してきたのは、冷笑的な欺まんと嘘、もしくは圧力や恐喝の試みだった。その間、NATOは、私たちのあらゆる抗議や懸念にもかかわらず、絶えず拡大している。軍事機構は動いている。繰り返すが、それはロシアの国境のすぐ近くまで迫っている。
(中略)
NATOが1インチも東に拡大しないと我が国に約束したこともそうだ。繰り返すが、だまされたのだ。俗に言う「見捨てられた」ということだ。確かに、政治とは汚れたものだとよく言われる。そうかもしれないが、ここまでではない。ここまで汚くはない。これだけのいかさま行為は、国際関係の原則に反するだけでなく、何よりもまず、一般的に認められている道徳と倫理の規範に反するものだ。正義と真実はどこにあるのだ?あるのはうそと偽善だけだ。
(中略)
繰り返すが、私たちの行動は、我々に対して作り上げられた脅威、今起きていることよりも大きな災難に対する、自己防衛である」(2022年2月24日、侵攻直前の演説より)

果たして、プーチンの論理は「アメリカに代表される西側諸国に『虐げられた』ロシア国民は、自分たちの国土を守るために立ち上がらざるを得なかったのだ」と窺い知れます。

それにしてもこの演説、ギレンやシャアの演説だって言われたら「そうかぁ」って思っちゃいそうなほどホントに似ているんですよね(笑)。

プーチンの頭の中には「旧ソ連の栄光」「ネオ・ユーラシア主義」「大ロシア主義」といった過去の栄光の残影があり、それがウクライナ侵攻へと繋がっていると論じている識者もいます。

ソ連が世界地図から消えて30年も経つのだなあ

(「プーチン大統領を戦争に突き動かす思想 頭の中は 愛国心」https://www.nhk.jp/p/nw9/ts/V94JP16WGN/blog/bl/pKzjVzogRK/bp/pmY9ElVLGm/ただこの記事の中でプーチンは「ネオ・ユーラシア主義」をツールとして利用し自分たちの理念を策定しただけにすぎないと語られています)

 超大国として存在したソヴィエト連邦が崩壊し、分裂していくなかで次第に西側に蚕食され、どん底まで落ち込んだこれまでのロシア、というストーリーがここでは語られている。
そこではウクライナもまた分裂したソヴィエト連邦の一部であり、ロシアにとってウクライナ侵攻は国土回復運動(レコンキスタ)なのだ、と。

 レコンキスタ、つまり再征服なのだから正当化されているわけです。

アクシズにとって地球連邦に奪われたサイド3を取り返すのと同じ論理です(ああ、また世界情勢をガンダムで語りたがるガノタの悪い癖が出ている笑)。

ただ「過去の栄光」というと誇大妄想、復古主義的な印象を持たれてしまいますが、「国民意識内の国土の形を取り戻すこと」として考えればより理解できると思います。

例えば中国における国土の意識ですが、19世紀に清朝中国が列強各国による反植民地化される前が強いイメージとして残っています。19世紀以前の中国は「国境」の概念が存在せず「天子」としての皇帝が支配する地域と朝貢国とがあるだけでした(この辺、話し始めるとホントに長~くなるので興味がある人はその方面の本を読んでください)。それが近代になり諸外国と接触していく中で「国境によって区切られた国土」を概念として持ち始めるのですが、その時の国土は清朝の康熙・雍正・乾隆三代の皇帝によって拡大した「盛世」の国土。外モンゴルから中央アジア、チベットまで含む広大な地域が国土でした。

 

小さくて申し訳ない。ただ今と中国のカタチが違うことは理解していただけると思います

この中でモンゴルは、清朝皇帝が蒙古族の大ハーンでもあるので支配が正当化されていて、チベットについても清朝皇帝がチベット仏教の大施主であり保護者であることから支配が正当化されています。だから今でも中国は周りから何と言われようとチベットを支配している。彼らとっては支配する正当な理由があるから。

(ついでに言うと、沖縄は朝貢国の一つであって支配している地域じゃないので中国の国土の概念からは外れている……。だから「中国は沖縄を中国の一部だと思っている」という論に私は疑問。あくまで歴史的には、ね)

すみません、以前私が専門的に研究していた時代の話なので長くなりました。

とにかく、国民の意識を結集する求心力としては「奪われた国土を取り返す」っていうのが凄く強いということです。

日本人だって外国人から「北海道や沖縄は元々別の国でしょ?日本が侵略して支配しているだけだよね」って言われたら「いやいやいや」って思ってしまう。もちろん、それぞれ固有の文化があることは理解しているのですが、それでも別の国として独立させたらって言われたら抵抗を感じてしまう。それが国土意識ってモンです。 

……って書いていたらウクライナのゼレンスキーが「日本の北方領土はロシアの占領下にあるが、主権は日本」と宣言したというニュースが入ってきました。

ゼレンスキーとしては「日本も固有の領土である北方領土を不法にロシアに占領されているでしょ、私たちと同じロシアの被害者ですよ」と日本人の国土意識に訴えかけているように伺えます。

国民を戦争に駆り立てる時、「いつか攻められるかもしれないから先に攻めます」では理由として弱い(総動員体制にするのが難しいと思います)。「優良種」「選ばれた民」はまだしも「人の革新」を目指すのでは、なおのこと支持を集めることはできない。 

「人は自分の生活が脅かされる、もしくは虐げられることに一番拒否反応を示して攻撃的になる」。指導者はそれを熟知しているからそこを刺激して人を駆り立てる。

長々書いてきましたが、そんな人間の性質に想いを至らせて終わります。

血統主義では人心は集めらんねぇだろ、グレミー

 

 



 

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