二十九歳
次の誕生日でおれは二十九歳になる。
小学生くらいの頃は、三十歳ごろには死ねればいいなぁって思っていた。
若いし、病気もなく、きっと結婚もしていて、一番人生の中で幸せ絶頂だろうと。そこからは落ちて行くんだからそれなら幸せなうちに身をくらませてしまいたいなぁ、なんて考えていた。
それに、三十歳ともなればだいぶん大人になっているとも思っていたが、幻想に過ぎなかったんだといことも今になり思い知らされている。現在のおれは、やっと仕事をある程度の範囲でコントロールできるようになってきたぐらいなもので、世間的にはまだまだ甘ちゃんである。小学生から見た三十歳が離れすぎていただけであり、五、六十歳まで働く世の中に出れば若造なのだ。まだまだこれから頑張らないといけない。
さて最近、二年半付き合っていた子と別れる運びになった。喧嘩を起点に光のような速さで別れることが決定し、面食らってしまった。しかし、おれに非があるし、別れても仕方なかった。
とにかくあちらに「あいつと別れて正解だった。」と思って欲しかったので、最後に会った時にはめちゃくちゃ悪態ついてきた。おれがすごく悪いやつになれば後悔もしないだろうからそれでいい。
んで、今日父親に会ったついでにそれを報告した。二年半付き合ったんだけど別れたんだよと。うんうん、とうなづいて二、三言葉を返してくれたけど、多くは語らなかった。優しい顔をしていた。
「お父さんとお母さんはいつ頃結婚したの?」と尋ねると二十九の頃だと言う。ちょうど今のおれくらいだ。その二年後におれが生まれることになる。それはまだおれが踏み入れてない領域だ。そんなことが、おれのこの先の人生でも起こってくれるんだろうか。
「焦らなくたっていいよ。」と彼は言うので、そう思うことにする。思い出をどうにか片付けて、次に進む。まだ死ぬには早いらしいから。
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