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次の本が売れなかったら、僕はもう本を書くことをやめようと思う

2010年3月末。
僕ははじめて本を出版しました。

『人生で大切なことはすべてプラスドライバーが教えてくれた』という本で、元整備士で技能オリンピックに優勝した自分の経験をストーリー仕立てにした自己啓発ノベルでした。

版元さんが、当時10万部を突破して破竹の勢いだった『もしドラ』のように「萌えイラストを装丁に使おう」と賭けに出たのですが、それが良くも悪くも知っていただくきっかけとなり、ヒットしました。尊敬するけんすうさんにもお読みいただいて、身震いしたことをよく覚えています。

それ以降、元整備士という珍しい経歴に興味を持っていただき、出版のお声がけをいただくように。とはいえ、仕事をしながらなので、執筆には半年から10か月くらいかかります。年に1冊のペースで10年間、本を出し続けていくことになりました。

以降、5万部いくものもあれば、初版で1万部からスタートするものもあり、一定の売上は出せたのではないかと思います。ただ、直近2~3年で出した本は増刷していないものが多いといった現実もありました。


増刷されないことの意味

増刷というのは本の売れ行きが順調で書店在庫や出版社の在庫が減っていくため、追加で刷っていくことです。

増刷になる場合、同じ内容のものをただ刷りなおすだけですから、人件費もデザイン費も発生しません。ですから、増刷を繰り返せば、どんどんその本の1冊あたりの原価が下がり、利益率は上がっていき、出版社の利益は増加していくことになります。

逆に、1度も増刷していないということは、出版社の利益が上げられていないことを意味します。

商業出版というのは著者ひとりの力で成しえるものではありません。編集者とタッグを組んで本を作り、営業さんが各方面に動いてくださり、取次の会社が全国の書店網へ流通してくださり、書店員さんが並べてくださる。1冊の本に、大勢の人が関わってようやく読者の手にわたります。

大勢を巻き込んだ大きなビジネスなのですから、関わるひとを儲けさせる=勝たせることをしないといけません。しかし、増刷されないということは出版社を勝たせることができていないわけです。

そのことでここ数年、負い目を感じるようになっていました。

「出版不況だから仕方ないですよ」などと慰められることもありますが、売れている本もあるわけです。売れている本がある以上、環境のせいばかりにはできません。

ある出版コンサルタントの言葉

ある出版イベントの懇親会で、初めて会った出版コンサルタントと名乗る方に「バックエンドはどうしてるの?」と声を掛けられたことが今も忘れられません。

「出版なんてのは手段に過ぎないんだから、本が売れなくたって自分でバックエンドを用意してそっちで稼げばいいんだよ。本なんて一生懸命になって売らなくたっていいの」

そんなことを矢継ぎ早に言われ、眉間に皺を寄せている自分がいました。

僕は、本によって人生が変わったといっても過言じゃない。本に助けてもらったし、本が無かったら今ここにはいない。そんな思いになれるような本を自分も作って、多くの人に読んでもらいたい。昔の自分みたいな人を助けたいのです。

でもその出版コンサルタントは、「本なんて売れなくてもさ、本をフロントエンドとして使って、バックエンドでしっかり利益を出せばいいのよ」というのです。「あなたは3億くらい損しているよ。なにか相談があればいつでもどうぞ」と名刺を渡されたのですが、そんな考え方に乗っかることはどうしてもできず、名刺を見返すことはありませんでした。

しかし、自分の本が売れにくくなってきている現実は変わりません。売れる本が出せないのであれば、もう出さないほうがいいのでは?という気持ちが日に日に強くなっていきました。

そもそも専業の作家というわけではないですし、本業があります。お陰様で本業ではたくさんのクライアント様に囲まれ、忙しくさせてもらっています。

「そろそろ、出版に携わるのはやめようかな……」そんなモヤモヤを抱いていた昨年末、あたらしい企画のお声がけをいただきました。過去に2冊、お仕事をさせていただいた編集者さんが、自分の経験を活かせるあたらしい分野への挑戦を提案してくれたのです。

「面白そうな企画だし、いっちょやってやるか!」

そんな気持ちがムクムクと湧き上がってきました。編集者さんとブレストをしながら、企画をどんどんブラッシュアップさせていくと、あっという間に企画会議を通過し「すぐに作りましょう」ということになりました。

今までと違うことばかりの本づくり

本づくりをしていくと、いままでと違う感覚に襲われました。大きく違ったのが、「自分が欲しいと思える本」になっていったことです。

これまでは、自分が培った経験やノウハウを体系的にまとめていて、「作品」という表現が近いように思いました。「この作品、みんな読んでみて!」という気持ちで世に出していたのです。

しかし、今回は実用に振った企画であり、古今東西のノウハウをギュッと上手にまとめた本でもあります。だから、自分でも手元に置いておきたいと強く思える本になっていきました。

さらに、見開き1ページ毎にイラストが載る本なので、イラストレーターさんにかなり尽力してもらいました。原稿を書く著者である自分と、原稿の内容をわかりやすく絵にするイラストレーターさんと、それを上手にまとめる編集者さん。3人でチームとなって、熱量をしっかりと維持しながら制作を進めていくことができました。

また、企画の性質上、4月には書店に並べたいということでしたが、着手したのは年末。今までにないほど集中して執筆をしていきました。土日は初めてホテルに籠り、集中して執筆をしながら「まるで文豪みたいだな」などと思ったものでした。

そもそも企画自体、「これは売れそう」というアイデアがふんだんに組み入れられていますし、企画コンセプトも時流に乗っています。「これ、もしかして売れるのでは?」とここまで感じる本は、自分史上ありませんでした。

どんな本なのか、ちょっとまとめてみましょう。

・自分が欲しいと思える本になった
・高い熱量のチーム体制で制作を進めてこれた
・かつてないほど集中して執筆できた
・そもそも売れそうな企画
・企画コンセプトが時流に乗っている

さあ、ここまで売れそうな要素があるにもかかわらず、これで売れないのであれば、もう諦めがつくというものではないでしょうか。

著者としての活動を11年やってきたけれども、大きな結果に繋げることができないのなら、そもそも向いていないのかも知れない。関係者に迷惑をかけることなく、本業だけに専念したほうがいいのかも知れない。

売れなければ、もう新しい本を書くことはないでしょう。そんな思いで臨む新刊の発売は、今月末です。

売れるのか、売れないのか。

数か月後には、ある程度の答えが出ていると思います。

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