韓国にも負けて中進国になり果てるのか(序文)

日本の給与ダウンが止まらない。このまま下がり続け、ついに“失われた30年”に至ってしまうのか? なぜ、こうなってしまったのか? 年収を引き上げる方策はないのか? が本記事のテーマである。

筆者は『消えた年収』(2009年・文藝春秋刊)を著したが、そのなかで「1997年→2007年」という10年間を比較した。本記事はその続編で「1997年→2020年」という24年間の変化を分析した。

税務統計を基に日本の給与所得を長期的に分析すると、平均年収のピークは1997年で、その年の平均年収は467万3000円だった。24年後の2020年は433万1000円になって34万2000円もダウンした。社会保険料や住民税が上がったので、実は手取りベースで62万円も下がったことになる。

さらに追い打ちをかけたのが消費税率の引き上げだった。税率は5%から10%に引き上げられ、後で詳しく述べるが実際に使えるオカネは75万円も減ってしまった。

政府は社会保険料とか住民税とか消費税などを引き上げて、民間からオカネを取ることばかりに熱心である。これでは市中にオカネが回らなくなったのも当然だ。

また、データを突っ込んで分析して見えてきたのは、世間でよくいわれている“二極化”ではなかった。所得は、山全体が地盤沈下してズリ下がるように下がったのだ。

年収のダウンが大きかったのは、意外にも実は大手企業の男性従業員だった。山一証券が経営破綻したのは1997年だったが、同じように老舗の大手企業が相次いで姿を消した。振り返ってみると、この20年以上は大手企業の屍(しかばね)の山だったので、そのあおりを受けて年収ダウンに追い込まれた男性が多かったのだ。

なぜ給与は下がったのか?
何のことはない。日本企業が中国や韓国などの諸外国企業に敗退を続けたのが原因だった。言ってみれば日本株式会社が諸外国との競合に敗れたのが原因だ。メイド・イン・ジャパンの製品はあらゆる分野でシェアを落としてしまったので国力低下は否めず、世界における存在感は下がる一方だが、その国力低下が給与ダウンの要因だった。

また、労働分配率の低下が指摘されているように、大手企業が利益を独り占めして従業員にきちんと分配しなかった事実も、本記事の中で証明された。

日本にとって平成とは「敗北の時代」、もっといえば「主要先進国からの転落の時代」だったと言わざるをえない。

経済がじり貧になると、犯人探しも盛んになる。最近目立つのは富裕層への攻撃だ。

「世界で広がる経済格差 上位2100人の『富』が46億人分の資産を上回る」などという記事が出回るイマドキの風潮では「二極化して、貧富の格差が拡大している。富裕層からもっと税金を取れ」という声が上がっているようだ。

岸田首相は2021年の所信表明演説で「私が目指すのは、新しい資本主義の実現です。新自由主義的な政策については、富めるものと、富まざるものとの深刻な分断を生んだ」と語った。

しかし、演説のように本当に富めるものと、富まざるものとの格差が広まったのだろうか?

格差にも資産格差などいろいろな種類があるが、少なくとも“給与所得”に関しては、実は格差は拡大していない。給与データから見えてくるのは「日本ほど給与所得格差の小さな国はない」という事実である。

なぜ、日本は国力が低下して負け組になったのか?

要因は複雑に絡んでいて一概にいえないが、一ついえるのは悪平等のせいだと筆者は思う。むしろ給与所得格差が小さいことが、逆に活力を失わせる要因になったと筆者は考える。

税制などの今の社会の仕組みは、言ってみれば「やっても、やらなくても同じ」で、一所懸命に頑張った者が報われない。それだから事業意欲が下がり廃業率が開業率を上回っているのだ。「寄らば大樹の陰」という安定志向で、就活においても若者は親方日の丸の公務員ばかりになりたがる。

挑戦意欲を喪失した日本人は、この先どうなるのか!

日本はどうしたら閉塞を打ち破り、再び成長を取り戻すことができるのか?

筆者は、提言をまとめた。その根本にあるのは「もっと働こう」である。働いた者が報われる社会の仕組みに切り替えるべきだ。働くことに支障になる仕組みは撤廃すべきだ。例えば「配偶者控除」なんていう制度は廃止だ。

年金制度も抜本的なメスが必要である。現行の65歳支給ではなく、70歳支給に切り替えるべきだ。70歳まで働くことに抵抗感を抱く向きは多いかもしれない。だが、日本人は昔から農業をやって死ぬ間際まで働いていたではないか! 勤労の精神を取り戻すべきだ。
子供や孫の世代のため、もっと働こう!

2022年 6月吉日 北見昌朗



目次

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序文 韓国にも負けて中進国になり果てるのか(動画あり)

第1部 筆者が独自に行っている給与調査から探る動向(動画あり)

第2部 ガタガタになった年収・追い打ちをかけた消費税と社会保険料(1997年→2020年)
 その1 給与動向を知るためのクイズ
 その2 おじいちゃんも、おばあちゃんも、奥さんも働きに出ざるをえない! 磯野家に例えた実情
 その3 平均年収は34万円もダウンした(1997年→2020年)
 その4 社会保険料と税金を控除した手取りは62万円もダウン(動画あり)
 その5 消費税率の引き上げで“実際に使えるオカネ”は75万円もダウン
 その6 物価上昇で“実質収入”は84万円もダウン(動画あり)

第3部 「社会保険料増」で稼ぎが飛んでしまった!(1997年→2020年)
 その1 家計を支えるため働きに出る人が急増(動画あり)
 その2 厚生年金の保険料は57%増で約6兆円増
 その3 健康保険の保険料は50%増で約3兆円増
 その4 介護保険が新設されて1兆円超の保険料負担が発生
 その5 雇用保険料は12%の減少
 その6 住民税は3兆円増
 その7 控除額(保険料・税金)は12兆円増
 その8 社会保険料の増加のせいで「手取り」は微増(動画あり)
 その9 消費税率の引き上げで「実際に使えるオカネ」は6兆円減

第4部 「二極化」ではなく山がズリ下がったように「低所得化」、日本株式会社は総崩れ
 その1 「800万円超」が減って「400万円以下」が激増(動画あり)
 その2 一番年収が下がったのは「大手の男性従業員」だった
 その3 「男性の年収」は大手も中小もガッタガタ
 その4 過去20年間を振り返ると大手企業の屍(しかばね)の山
 その5 成果主義の「年俸制」が「減俸制」になってしまった

第5部 東京一極集中が進んで地方が成り立たない(1999年→2020年)
 その1 「給与総額」は東京が全国から吸い込むように膨れ上がった(動画あり)
 その2 「勤労者数」は日本海側が減って過疎化が進んだ
 その3 「平均年収」は関西で大きく落ち込み
 その4 「北海道」は勤労者数が急増して給与総額が二桁増
 その5 「東北」は震災の影響もあって落ち込む
 その6 「関東信越」は平均年収が落ち込み不況風
 その7 「東京」は全国から吸引して一極集中へ
 その8 「東海」は自動車産業のおかげで順調
 その9 「北陸」はひどい落ち込み
 その10 「関西」はデフレの震源地へ
 その11 「中国」は勤労者数が増えたが年収減のせいで横ばい維持
 その12 「四国」は勤労者増のおかげで給与総額がわずかにプラス
 その13 「九州北部」は給与総額が微増にとどまる
 その14 「九州南部」は勤労者が急増して発展へ
 その15 「沖縄」は勤労者数が6割も増加

第6部 アベノミクスは“V字回復”を成し遂げた(2012年→2019年)
 その1 ドン底は2009年だった
 その2 平均年収はピーク時の61万円ダウンで家計は火の車に
 その3 日本は財政の危機だった(動画あり)
 その4 「手取り」の喪失はセブンイレブンの11年分の売り上げに匹敵
 その5 ドン底横ばいは2012年まで続いた
 その6 「給与総額」を8年間で2割以上増やしたアベノミクス(動画あり)

 その7 アベノミクスの「功」
 〇 正規雇用者の増加
 〇 働き方改革
 〇 最低賃金の引き上
 〇 縮まった男女格差

 その8 アベノミクスの「罪」
 ✖ 求人難
 ✖ 縮まらなかった企業規模間の格差(動画あり)
 ✖ 大手による独り占め現象
 ✖ 残業抑制の影響で年収ダウン
 ✖ 最低賃金の引き上げで障がい者の仕事が失われた
 ✖ 外国人労働者の導入

 その9 新型コロナの影響で年収ダウン(2019年→2020年)
 その10 「アベノミクスは給与引き上げに寄与した」と肯定するほかない
 その11 長期グラフ(1997年→2020年)が示す悪戦苦闘の歴史(動画あり)

第7部 「金」基準で分析すると実質年収は5分の1に(1997年→2020年)
 その1 オカネの価値は「金」で測るもの
 その2 「金」の価格の推移(動画あり)
 その3 「給与総額」で購入できる「金」の重量は4分の1に
 その4 「平均年収」で購入できる「金」の重量は5分の1に
 その5 悪性インフレで悩まされる日本人

第8部 肥え太る大手企業、細る給与

第9部 日本は「給与所得格差が世界一小さい国」である
 その1 日本のお金持ちは知れている 
 その2 高額所得者といっても手取りは大したことない(動画あり)
 その3 所得税の大半は高額所得者が払っている

第10部 やってもやらなくても同じ! 日本株式会社の悪平等
 その1 マルクスも感涙する?平等社会
 その2 「上がる初任給」の一方で「上がらない“上の人”の給与」
 その3 管理職の給与は新卒の1.7倍でしかなく、差も縮まる一方
 その4 部長はヒラの5割増の給与に過ぎない(動画あり)
 その5 社会保険料の引き上げは給与の高い人を狙い撃ちした(動画あり)
 その6 「ジョブ型制度」は新手の給与リストラ策になるのか?

第11部 懸念 自動車産業(トヨタ)がダメになったら日本は…

第12部 こんな“沈む日本”に誰がした
 コイツが犯人か? “中国陰謀”説(動画あり)
 コイツが犯人か? “米国陰謀”説
 コイツが犯人か? “教育投資の不足”説
 コイツが犯人か? “ゆとり教育”説
 コイツが犯人か? “スマップの名曲”説
 コイツが犯人か? “コンプラ最優先・内向きニッポン自滅”説
 コイツが犯人か? “内部統制”説
 コイツが犯人か? “イノベーションがなかったからだ”説
 コイツが犯人か? “大手による買い叩き”説
 コイツが犯人か? “製造業の衰退空洞化”説
 コイツが犯人か? “日本の大手企業がリストラしたからだ”説
 コイツが犯人か? “大手企業のOBが中国に教えに行ったからだ”説
 コイツが犯人か? “財務省悪玉”説
 コイツが犯人か? “消費税”説
 コイツが犯人か? “富裕層を狙い撃ちした税制”説
 コイツが犯人か? “厚生年金重荷”説
 コイツが犯人か? “パートの社会保険適用拡大”説
 コイツが犯人か? “働くと損する仕組み”の年金説
 コイツが犯人か? “膨れ上がる健康保険”説
 コイツが犯人か? “働き方改革”説
 コイツが犯人か? “役所が作る下らないルールのせいで生産性が低くなった”説
 コイツが犯人か? “政府と結託した人材会社悪玉”説

第13部 提言 子や孫の世代のためもっと働こう!
 その1 日本にいま必要なのは敗北宣言だ
 提言① 「教育」にもっと投資をするべし(動画あり)
 提言② 「働くな労働政策」を止めるべし
 提言➂ 「働いた者が報われる税制」にするべし
 提言④ 「配偶者控除」を廃止するべし
 提言⑤ 「70歳年金」にするべし
 提言⑥ 「厚生年金」を半減して、残り半分を確定拠出型年金にするべし
 提言⑦ 「日本年金機構」を廃止して民営化するべし
 提言⑧ 「国民年金」は消費税を財源にするべし
 提言⑨ 「健康保険」を民営化するべし
 提言⑩ 「最低賃金」から高齢者と障がい者を除外するべし

 その2 メディアへの要望。日本を元気にするような報道を

後書き あわせて読んでいただきたい拙書『日本は80年周期で破滅する』(動画あり)

Xデーの後の磯野家

本記事で使用した統計
 ◎国税庁の民間給与実態統計調査結果
 ◎厚労省の厚生年金保険・国民年金事業年報
 ◎北見式賃金研究所の「ズバリ! 実在賃金」(商標登録済)
 ✖総務省の家計調査
 ✖人事院の職種別民間給与実態調査
 ✖東京都の中小企業の賃金・退職金事情

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