「給与総額」を8年間で2割以上増やしたアベノミクス

給与のデータを丹念に分析すると、アベノミクスがもたらしたものは大きかったと思わざるをえない。

断っておくが、筆者は政治的な主張を述べたいわけではない。安倍氏を礼賛するわけではないが、給与データをあらためてみればみるほど功績の大きさに目を見張るのである。

筆者がこのように記すと、安倍氏を好まない方からは「アベノミクスのどこが良いのだ。失敗したではないか! 貧富の格差も拡大したではないか! そんなアベノミクスを継続するなんて愚かしい」という反論が聞こえてきそうである。

だが、筆者は逆に次のように質問をしたい。「アベノミクスで日本全体の給与総額がいくら増えたのか、ご存じか?」と。
答えは「2割以上」なのである。短期間でこれだけ成果を出したのは、まさにミラクルなV字回復であった。

第二次安倍政権が発足したのは2012年の年末で、2020年に辞任するまで続いた。ここでは2012年→2019年(一番良かった年)という比較をした。

この間にどんな変化があったのか? まず、非正規雇用者も含めた全勤労者(1年以上勤務)のデータである。

グラフ㉘ 作成:(株)北見式賃金研究所 北見昌朗

2012年
給与総額185兆8508億円 = 勤労者数4556万人 × 平均年収408万円
  ↓
2019年
給与総額229兆3259億円(43兆4751億円増、23.4%増)= 勤労者数5255万人(699万人増、15.4%増)× 平均年収436万円(28万円増、7.0%増)

注:「第7表 給与総額」から作成。なお、計算が合わないところがあるが、国税庁のサイトには「全体の合計については、役員等が含まれているため、正規、非正規の給与所得者数及び給与総額の合計とは一致しない」と記されている。グラフ㉘

次に正規雇用者のみのデータである。国税庁の民間給与実態統計調査結果は、2012年から正規・非正規に区分してデータを公表しているので、正規雇用者のみの比較も可能になっている。

2012年
給与総額140兆8331億円 = 勤労者数3011万人 × 平均年収467万円
  ↓
2019年
給与総額175兆8731億円(35兆399億円増、24.8%増)= 勤労者数3485万人(473万人増、15.7%増)× 平均年収504万円(37万円増、7.9%増)

注:「第6表 企業規模別及び給与階級別の総括表(正規)」から作成。

筆者には、驚異的な伸び率に見える。戦後史の中でも、記録的な数字になるだろう。


目次

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序文 韓国にも負けて中進国になり果てるのか(動画あり)

第1部 筆者が独自に行っている給与調査から探る動向(動画あり)

第2部 ガタガタになった年収・追い打ちをかけた消費税と社会保険料(1997年→2020年)
 その1 給与動向を知るためのクイズ
 その2 おじいちゃんも、おばあちゃんも、奥さんも働きに出ざるをえない! 磯野家に例えた実情
 その3 平均年収は34万円もダウンした(1997年→2020年)
 その4 社会保険料と税金を控除した手取りは62万円もダウン(動画あり)
 その5 消費税率の引き上げで“実際に使えるオカネ”は75万円もダウン
 その6 物価上昇で“実質収入”は84万円もダウン

第3部 「社会保険料増」で稼ぎが飛んでしまった!(1997年→2020年)
 その1 家計を支えるため働きに出る人が急増(動画あり)
 その2 厚生年金の保険料は57%増で約6兆円増
 その3 健康保険の保険料は50%増で約3兆円増
 その4 介護保険が新設されて1兆円超の保険料負担が発生
 その5 雇用保険料は12%の減少
 その6 住民税は3兆円増
 その7 控除額(保険料・税金)は12兆円増
 その8 社会保険料の増加のせいで「手取り」は微増(動画あり)
 その9 消費税率の引き上げで「実際に使えるオカネ」は6兆円減

第4部 「二極化」ではなく山がズリ下がったように「低所得化」、日本株式会社は総崩れ
 その1 「800万円超」が減って「400万円以下」が激増(動画あり)
 その2 一番年収が下がったのは「大手の男性従業員」だった
 その3 「男性の年収」は大手も中小もガッタガタ
 その4 過去20年間を振り返ると大手企業の屍(しかばね)の山
 その5 成果主義の「年俸制」が「減俸制」になってしまった

第5部 東京一極集中が進んで地方が成り立たない(1999年→2020年)
 その1 「給与総額」は東京が全国から吸い込むように膨れ上がった(動画あり)
 その2 「勤労者数」は日本海側が減って過疎化が進んだ
 その3 「平均年収」は関西で大きく落ち込み
 その4 「北海道」は勤労者数が急増して給与総額が二桁増
 その5 「東北」は震災の影響もあって落ち込む
 その6 「関東信越」は平均年収が落ち込み不況風
 その7 「東京」は全国から吸引して一極集中へ
 その8 「東海」は自動車産業のおかげで順調
 その9 「北陸」はひどい落ち込み
 その10 「関西」はデフレの震源地へ
 その11 「中国」は勤労者数が増えたが年収減のせいで横ばい維持
 その12 「四国」は勤労者増のおかげで給与総額がわずかにプラス
 その13 「九州北部」は給与総額が微増にとどまる
 その14 「九州南部」は勤労者が急増して発展へ
 その15 「沖縄」は勤労者数が6割も増加

第6部 アベノミクスは“V字回復”を成し遂げた(2012年→2019年)
 その1 ドン底は2009年だった
 その2 平均年収はピーク時の61万円ダウンで家計は火の車に
 その3 日本は財政の危機だった(動画あり)
 その4 「手取り」の喪失はセブンイレブンの11年分の売り上げに匹敵
 その5 ドン底横ばいは2012年まで続いた
 その6 「給与総額」を8年間で2割以上増やしたアベノミクス(動画あり)

 その7 アベノミクスの「功」
 〇 正規雇用者の増加
 〇 働き方改革
 〇 最低賃金の引き上
 〇 縮まった男女格差

 その8 アベノミクスの「罪」
 ✖ 求人難
 ✖ 縮まらなかった企業規模間の格差(動画あり)
 ✖ 大手による独り占め現象
 ✖ 残業抑制の影響で年収ダウン
 ✖ 最低賃金の引き上げで障がい者の仕事が失われた
 ✖ 外国人労働者の導入

 その9 新型コロナの影響で年収ダウン(2019年→2020年)
 その10 「アベノミクスは給与引き上げに寄与した」と肯定するほかない
 その11 長期グラフ(1997年→2020年)が示す悪戦苦闘の歴史(動画あり)

第7部 「金」基準で分析すると実質年収は5分の1に(1997年→2020年)
 その1 オカネの価値は「金」で測るもの
 その2 「金」の価格の推移(動画あり)
 その3 「給与総額」で購入できる「金」の重量は4分の1に
 その4 「平均年収」で購入できる「金」の重量は5分の1に
 その5 悪性インフレで悩まされる日本人

第8部 肥え太る大手企業、細る給与(動画あり)

第9部 日本は「給与所得格差が世界一小さい国」である
 その1 日本のお金持ちは知れている 
 その2 高額所得者といっても手取りは大したことない(動画あり)
 その3 所得税の大半は高額所得者が払っている

第10部 やってもやらなくても同じ! 日本株式会社の悪平等
 その1 マルクスも感涙する?平等社会
 その2 「上がる初任給」の一方で「上がらない“上の人”の給与」
 その3 管理職の給与は新卒の1.7倍でしかなく、差も縮まる一方
 その4 部長はヒラの5割増の給与に過ぎない(動画あり)
 その5 社会保険料の引き上げは給与の高い人を狙い撃ちした(動画あり)
 その6 「ジョブ型制度」は新手の給与リストラ策になるのか?

第11部 懸念 自動車産業(トヨタ)がダメになったら日本は…

第12部 こんな“沈む日本”に誰がした
 コイツが犯人か? “中国陰謀”説(動画あり)
 コイツが犯人か? “米国陰謀”説
 コイツが犯人か? “教育投資の不足”説
 コイツが犯人か? “ゆとり教育”説
 コイツが犯人か? “スマップの名曲”説
 コイツが犯人か? “コンプラ最優先・内向きニッポン自滅”説
 コイツが犯人か? “内部統制”説
 コイツが犯人か? “イノベーションがなかったからだ”説
 コイツが犯人か? “大手による買い叩き”説
 コイツが犯人か? “製造業の衰退空洞化”説
 コイツが犯人か? “日本の大手企業がリストラしたからだ”説
 コイツが犯人か? “大手企業のOBが中国に教えに行ったからだ”説
 コイツが犯人か? “財務省悪玉”説
 コイツが犯人か? “消費税”説
 コイツが犯人か? “富裕層を狙い撃ちした税制”説
 コイツが犯人か? “厚生年金重荷”説
 コイツが犯人か? “パートの社会保険適用拡大”説
 コイツが犯人か? “働くと損する仕組み”の年金説
 コイツが犯人か? “膨れ上がる健康保険”説
 コイツが犯人か? “働き方改革”説
 コイツが犯人か? “役所が作る下らないルールのせいで生産性が低くなった”説
 コイツが犯人か? “政府と結託した人材会社悪玉”説

第13部 提言 子や孫の世代のためもっと働こう!
 その1 日本にいま必要なのは敗北宣言だ
 提言① 「教育」にもっと投資をするべし(動画あり)
 提言② 「働くな労働政策」を止めるべし
 提言➂ 「働いた者が報われる税制」にするべし
 提言④ 「配偶者控除」を廃止するべし
 提言⑤ 「70歳年金」にするべし
 提言⑥ 「厚生年金」を半減して、残り半分を確定拠出型年金にするべし
 提言⑦ 「日本年金機構」を廃止して民営化するべし
 提言⑧ 「国民年金」は消費税を財源にするべし
 提言⑨ 「健康保険」を民営化するべし
 提言⑩ 「最低賃金」から高齢者と障がい者を除外するべし

 その2 メディアへの要望。日本を元気にするような報道を

後書き あわせて読んでいただきたい拙書『日本は80年周期で破滅する』(動画あり)

Xデーの後の磯野家

本記事で使用した統計
 ◎国税庁の民間給与実態統計調査結果
 ◎厚労省の厚生年金保険・国民年金事業年報
 ◎北見式賃金研究所の「ズバリ! 実在賃金」(商標登録済)
 ✖総務省の家計調査
 ✖人事院の職種別民間給与実態調査
 ✖東京都の中小企業の賃金・退職金事情

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