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ロールモデル【エッセイ】二四〇〇字

 「スーパーカー・ゴルフ」とおだて上げながらこき使っていた車も、食材の買い出しがウォーキングルートに組み込まれ、加えてコロナ禍や、脊柱管狭窄症を患ったせいでゴルフに行かなくなり、最近はホコリを被っているような始末。放置しておけばバッテリーがふくれて(放電して)しまうわけで、仕方なくご機嫌取り(充電)に首都高を走らせることにした。ところが、走らせてみるとやはり、その魅力に惚れ直し、月1、2ペースでドライブ(お隣は空席、と相変わらずだが・・・)をするようになった。というような話を前回書いた。
 コースは決めている。4号線・外苑から入り、一ツ橋で5号線に。池袋から王子、(東京拘置所で有名な)小菅、6号向島線、左手にスカイツリーを見て、箱崎、神田橋、そして5号線に戻り、早稲田で降りる。周囲(覆面)を警戒しながら80~100キロくらい(あくまでも流れに合わせて)でぶっ飛ばす、30km強のドライブになる。下掲図のように、都心を一周することになる。運転好きなお方はお気づきだろう。車線変更が少なくて済むのである。つまり、4号線から5号線に入るまでは左車線を進み、5号線に入ってから右車線に一度変更すればそのまま移動せずに5号線に戻れる。極めて、安全。免許とりたての頃、彼女さんをお乗せし首都高を走らざるをえなくなると、前の晩のガラガラの時間帯に下見したものだ。それほどに首都高は道幅が狭いうえにゴチャついている。

(余談だが)複雑なのは首都高に限らない。大阪の設計会社で3か月お世話になった半世紀前の話だが。会社がある谷六から現場の塚口に車で行ったときの、阪神環状線に入ってすぐ(だったと思うけど)の車線変更。8車線(もっとあったか?)の最右翼から一番左まで移動しなければならない場所があり、毎日、決死の覚悟で一車線ずつスライドしていた記憶がある。が、首都高は、それほどではない。

 そんなミニドライブで早稲田ICを降りて、ある日、江戸川橋のスーパーに寄ってみることにした。近所には馴染みの鰻屋「はし本」があり、ウォーキングルートのひとつで、何度か買い物したことはある。自宅から3600歩の位置。売場は2階で駐車場は1階。40台くらいの広さ。
 車を停め店に向うとき、入り口近くに、なにか精算機と思しき物体があったのが気になった。が、駐車場に入る際は踏切のポールのようなものとか、発券機もなかった。無料なのか? そんなことねえよな、と思いながらそのまま店内に。 

 きょうはウォーキングではないわけだし大量に買い込んでもいいのだが、きのう、いつものスーパー・ライフで仕入れてある。寄った目的は、別にあった。最近、惚れこんでいる「黒糖饅頭」をチェックすることだった。「<あわしま堂>もっちり黒糖饅頭」を愛食しているのだが、他のメーカーの品の調査である。
 すると、やはり<あわしま堂>はあった。そして、その並びに茶と白の二種類の小振りの饅頭が入った「<武蔵製菓>一口万頭」が目についた。むろん、「研究」のために、その2品ともカゴに。それでミッションは完遂されたのだが、ミニあんぱんが視界に入ってきた。成分表で、数値をいちおう確認。黒糖饅頭の73kcalよりは1個60kcalも多い・・・。消費期限内に3品を消費するとなると、かなりのオーバー。迷う・・・。

 と、そのとき、横から太い腕がヌーーっと伸びてきて、そのあんぱんをむんずと掴み、カゴにポンと放り込むではないか。そのまま横目で、その男のカゴの中を確認すると、鳥から弁当大盛、ポテトフライL、湖池屋ポテトチップスのり塩・・・それにミニあんぱんが追加されたわけだ。さらに視線を上にずらすと、その主の西田敏行のようなご立派な太鼓腹を見てしまったのだ———。
 迷いを絶ち、ミニあんぱんを、そっと棚に戻し、レジに向かう。
 甘味だけの買い物に恥じらいがあったのか、「駐車券いただけますか」と、声が裏返りながらもいちおう平静を装って言うと、QRコードが入った券を渡してくれた。そうか、精算機にかざせばいいんだという知ったかぶりの顔して、駐車場に。

 車に戻って見渡しても、やはり、出入り口にはそれらしき雰囲気の設備がない。致し方ないので、出入り口近くに立っている警備員のおっちゃんに訊くことにする。身長は160cmに満たない。堺正章をさらに小柄にし、白髪を増やした、ワタクシよりもちょっと兄貴な感じで、頼りなさそうだが、気は善さげな80歳近くのおっちゃん。カミさんには尻に敷かれ、焼酎お湯割りの晩酌が唯一の楽しみって感じ。
「すんません、教えて欲しいんだけど。あの、この駐車券をどうすればいいの? 出入り口に、発券機とかポールとか、ないでしょ。ここの駐車場の料金、どうやって払うの?」
すると、即答。
「オレ、知らないんだ。わかんねんだよ」
「えええ!、だって、ここで警備しているんでしょ?」
「そうだよ」
「じゃわかるでしょ」
「いや、わかんねえの。なんかさ、(店に入る前に見た物体を指差し)あそこに行って、なんか書いてあるから、読めばわかるんじゃない」
 と、なった。

 ということで、店入口近くのその場所に戻ると、説明書きがある。
 まず最初に、「車のナンバーを入力しなさい」と、ある。
 入力すると、な、なんと! 自分の車が映るではないか。
<ええええええ!! 駐車してある車をカメラで写したわけ? ええええええ! AIが??? カメラで探したわけ?>
 次にQRコードをかざせと、きた。
 かざした。
 すると、「ありがとうございます」ときたもんだ。
<ん? これで良いわけ?>と思っていると、
「だろう? それでいいんだよ」と、後ろから声が。
 堺正章だった。
「なんだよ。わかっているんじゃない、おじさん」
「いや、わかんねんだよ、オレ。でもさ、そうやればいいみたいだ」
「今の見ていたでしょ? じゃ、もうわかったよね? 次からは教えられるね、おじさん」
「うん、わかった」とニコリと笑った。
「でもさ、払わないで出ていくひともいるんじゃない?」
「いや、いねえよ。そんなことしたら、ブサーが鳴ってお祭り騒ぎになるみたいだ。んだけど、鳴ったことない」
「そうかよ~。なんだよ~。じゃ、これで出て行ってもいいんだね?」
「うん、だいじょうぶだ。お祭り騒ぎにならねえ」
「そうか。わかった。ありがとう。じゃあね」

 周回して出口に。堺正章が見ていたので手を振ると、敬礼をしてくれた。

(後記)
最近、駐車場を利用したことがないので知らなかったが、AIが車を探して撮影するわけではないようだ。車のナンバーは駐車場に入るときに撮影され、入力するとその写真をAIが画像認識し、ピックアップするシステムのようだ。
4年前くらいから、街なかのパーキングで導入され、「スマートパーク」と言われているらしい。2020年8月16日(日)のTBSテレビ「がっちりマンデー!!」でも紹介さたようだ。
未払いで出庫した場合は、次回の利用時に加算される。さらに他のスマートパークとも紐づけされていて請求され、精算もできるらしい。最悪のケースは、威力業務妨害罪に該当する犯罪行為で刑事訴訟されるということだ。(ピットデザイン株式会社)
レジで駐車券を発行しているのだから、買い物情報と車情報をリンクしマーケティングデータとして活用できるのではないだろうか。

(おまけ)
都民の皆さん、出番ですよ、行きましょう! わかってるね!


56人の候補者!

ワタクシは、昨日、期日前投票をしました。誰に入れたか? 当然、現政権のお仲間と思われるお方には入れません。この下のエッセイからすれば、わかりますよね。

(おまけ2)
先週の土曜日6月29日に明治神宮外苑・絵画館前広場で行われた、再開発計画の見直しを求めるイベント「SAVE神宮外苑ミーティング」に参加しました。

SAVE神宮外苑ミーティング

蓮舫氏も緊急参加(当然、予定ズミだっただろうけど)。この計画の是非を問う「都民投票」を公約にすることを、その場で、表明していました。
              ※
 「外苑をNYのセントラルパークのような広さに」とまでは言わないまでも、いまある豊かな緑を後退させる考えには賛同できない。
 2019年3月末。初めてニューヨークに行った。マンハッタンの中央にセントラルパークが横たわっている。堂々と、それでいてごく自然に。周囲のペンシルタワーとのギャップがアートっぽい。滞在した5日間出かけた。それほどに惹きつける。
 村上春樹が、エッセイか、インタビューか忘れたけど、こう言っている。「パークがなければ、こんなに頻繁にニューヨークに来ていないだろう」と。そして、神宮の再開発に反対表明した際に、こうも述べている。「都市にはどんどん変革されていく面があるのは事実ですが、でも触っちゃいけないところがあるんですよ。ニューヨークのセントラルパークやロンドンのハイドパークとか。一種、スピリチュアルな場所で、神宮外苑も東京にとってそういう所なんです。だから、資本の論理みたいなのは排除して、触らずにしっかりと残すべきです」と。
 セントラルパークは、南北に約4キロ、東西に0.8キロ。341ha。明治神宮外苑は、70haと7分の1。マンハッタンは、都心4区(港区、千代田区、中央区、新宿区)と、ほぼ同じの6,000ha。つまり、都心4区のど真ん中にあの広い公園があるという感じ。ちなみに、セントラルパークの広さは、皇居、明治神宮内苑・外苑・新宿御苑・代々木公園を合体したサイズと同じ。皇居の周りに他の公園が勢揃いすると、壮観じゃないか。


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