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時間【エッセイ】六〇〇字(本文)

 4月9日から始まった早大オープンカレッジ「エッセイ教室」の6回目(全8課題)のお題が、「時間」(600字)。テーマは、「旅」。さて、あなたなら何を書きますか?
 晴れやかに旅する気分には、まだまだ、だが、そろそろ、とも。
 まずは近場から。片道、1日のノルマ8000歩で神田に行って、藪蕎麦でも。ん? 単なるウォーキングじゃないか? いやいや、帰りは都バスを乗り継いでご帰宅するので、立派な「旅」である。辞書に、こうある。「住んでいる所を離れて、よその土地を訪ねること」。そして、美味いものを食べる。うん、「旅」だ。

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 池波さんの、「旅」と題したエッセイ(『チキンライスと旅の空』)に、こうある。「羽田の空港に行き、見送りの家人に『お前がいいとおもうところのキップを買って来い』と、いいつけ、(中略)行きあたりばったりに買ってきたキップで旅したりしたものだ」と。
 私の場合、目的なしの旅はあり得なかった。出張はもちろん、プライベートも。綿密な計画を練る。出かける前から旅が始まっている。想像しながらニタニタすることが楽しいだけでなく、安心できるのだ。気に入った宿泊先を調べ、部屋を確保。当日は、大丸で弁当と酒を買い、新幹線に乗る。着くと、チェックインを済まし、分刻みで組んだスケジュールを、忠実に消化していく。食事も、SNSで評判の、その地でしか食べられないものを、食する。念のため旅前に手配することも。
 が、息苦しくもある。そもそもツアー嫌いなはずが、添乗員の案内で回るのと変わりない。旅の醍醐味、「偶然が生む発見」とは、無縁だった。

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 最近、業界各社が、『ガチャポン』の旅版を商品化した。「行き先を選べない旅を楽しむ」が、キャッチフレーズ。池波流ほどではないが、無計画そのもの。キップを買わせる家人もいない身。想定した旅しか経験せずに、時間の奴隷になってきた私にとっては、助け舟かもしれない。
 引退し、せっかく自由の身になったのだから、そろそろ、「行きあたりばったりの旅」を楽しめるだけの、精神的なゆとりを持ちたいと、思う。

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