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理不尽【エッセイ】六〇〇字

 LINEの電話が鳴った。ミャンマーのヌイくんから、だった。「菊地さん、大変なことになっていますよ。ぼくも、銃を持つかもしれませんよ。映画のようですよ。国軍に撃たれ、仲間が死ぬのを見ましたよ。ぼくのお母さんは逃げていますよ。学校の先生は、狙われているから。いまは、食料とか資金を運ぶ役目ですが、この先、わかりませんよ」と。クーデターから、4か月後のことである。
 3月にも、当時はネットが使えなかったので、国際電話があった。彼が住む町は、タイに近い東南部。首都から離れているせいか、緊迫した雰囲気は、なかったのだが・・・。
 4年前。馴染みの焼肉屋で、彼がバイトを始め、知り合う。日本語学校の留学ビザで来日。大学で勉強していたらしく、日本語での接客はこなれていた。だが、それ以上に英語が得意だった。そのころ私は、英検2級をめざして勉強中で、「焼肉を食べながらの英会話教室」という感じで、仲良くなっていった。
 英検は、その後取得できたのだが、彼のおかげと思っている。そんな関係が、2年で店を辞めたあとも続いた。しかし、半年後のある日、電話があった。「ビザが切れて、施設に収容されていますよ、国に帰るかも」と。
 彼のことが気になりながらも時が過ぎ、昨年の1月、LINEが入った。ミャンマーに戻った、と。そして今年の2月1日に、勃発した。
 夢は、カナダ移住だった。ヌイくん、生き延びてくれ。そして、カナダで、会おうよ。

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